スーパースター (深津)






お付き合いを始めてから、こうして公式戦を観に行くことが増えた。もちろん大学の授業と被る日は行けないのだけれど、それに合わせてアルバイトのシフトも調整したりしていて、深津くんの頑張りを間近で見られることに喜びを感じていたりもする。


『今日も抜群にかっこいい........。』


呼び方は深津さんから深津くんに変わった。四歳も年下の私が、プロ選手である彼を馴れ馴れしく呼ぶなんて私自身が許さなかったのだけれど、どうしても「さんはやめろ」と言う彼に負けてしまったのだ。


『深津くんのプレーは安定感があるなぁ......』


見ていて安心感のある落ち着いたプレー。深津くんは今日も今日とて最高にかっこよかった。彼について知れば知るほど、彼のプレーを見れば見るほど、どんどん深津一成という人間に吸い込まれていく。とても恐ろしいほどに魅力たっぷりで、深津くんは容易に私の胸を高鳴らせるし、私の精神安定剤にもなってくれるのだ。あぁ....最高....。










『お疲れ様。今日も最高でした。』


試合後、基本的には会場から少し離れたこのカフェで待ち合わせすることになっている。帽子とマスクを身につけた深津くんは無言で私の目の前の席に座ると、そんな私の言葉に「お疲れ」と返してくれる。


「負け試合にならなくてよかった。」

『そういえば...まだ負けたところ見たことないかも。』


彼の言葉によくよく考え始める私だけれど、やっぱり負け試合は観戦したことがない。深津くんは「当たり前」と呟くと私が注文していたぬるくなってしまったミルクティーに口つける。


「かっこ悪いところ見せられないから。」

『本当に何から何までかっこいいんだから.......』


深津くんは「完璧」だ。何をしてもどこをとっても欠点がなくて、唯一理解できなかった「ピョン」も私と付き合い始めた時にどこかへ飛んでいってしまった。理由を聞けば「なまえの前で格好がつかない」とか言うもんだからやっぱり彼は完璧以外のなにものでもない。


「春休みはどう?四年生になれそう?」

『うん一応ね......四年にはなれると思う........』


もうすぐ始まる就活を前に焦っていた私。何を隠そう希望する就職先がひとつもないのだ。それを以前相談してから気にかけてくれている深津くん。なりたいものがない、やりたいことがない。そんな私に「焦るな。思い悩んでもいい結果にならない」ととても心に響くアドバイスをくれたのだ。


「そうか。就職活動はあまり心配するなよ。」


不安や孤独を隠す為にシフトをたくさん入れてはアルバイトに励んでいたこの春休み。それを見透かしたかのような深津くんは「大丈夫だ」と何度も続けてくれる。やっぱり彼は私にとってもう欠かせない精神安定剤なのだ。


「それと、14日はシフト空けてあるよな?」

『うん、言われた通りに空けておいたよ。』

「よかった。18時に迎えに行くから。」


付き合い始めてすぐの頃から、この日は絶対に空けておくようにと言われていたのだった。この前ドレスコードの話をされたところからして、今まで行ったことのない高めのレストランにでも連れて行ってくれるようだ。この為に服も買ったし、ヒールや鞄まで新調した。楽しみと緊張が入り混じって変な気分である。まぁ深津くんと行くのならどこだって私には天国なのだけれど......。


「行こうか。」


立ち上がり店を出ようとする深津くんに慌ててついていく。いつだって私に幸せを与えてくれて、目の前を歩いて道標を作ってくれる尊敬すべき相手だと改めて再認識した。

















14日は夕方まで練習なのだと深津くんは言っていた。だから待ち合わせも18時。昼過ぎまでならシフト入れれたなぁ、とか思うのだけれど、きっと緊張しすぎて仕事にならなかっただろう。朝からドキドキが止まらないくらいだから。派手すぎないメイクを心がけて、結局昨日ネイルサロンにも行ってみたし準備は整ったはず.......。少し早いけど深津くんの連絡を待とうと荷物も準備してソファに座ってみる。


『まだ早いかぁ.......。テレビでも見て気を紛らわせて......』


ピッとテレビのスイッチを入れたと同時に、鞄に入れていた携帯から着信音が。もしかして深津くんかも...と心おどらせて画面を手に取る。やっぱり表示されたのは彼の名前で。「もしもし」と言い切る前に「なまえ!」と名前を呼ばれてしまった。


『ど...どうしたの...?そんなに慌てて......』


珍しい。彼がこんなに慌てるだなんて。今までの緊張やドキドキが一瞬で消えて鳥肌が立ってくる。


「家から出るな。一歩も出るな。いいか?」

『えっ......でも........今からデートじゃ......?』

「いいから言うこと聞け。一歩も出るな。」


彼の勢いに何があったんだと聞くのが怖くて黙り込んだ私。ピシャッと言い切った深津くん。しばしの沈黙。口を開くのが怖くて、でも彼と繋がっているこの電話を切ることもできなくて......。


「...ごめん、本当にごめんな、なまえ。」


ゆっくりと口を開いたのは深津くんで、しゃべるなり「ごめん」を連発してくる。


「...撮られたんだ。」

『......撮られ、た......?』

「なまえと歩いてるところ、撮られたんだよ。」


「撮られた」。その一言に血の気が引いていく。それはつまり、私との交際を世間に知られて、週刊誌か何かに載るということなのだろう。一秒、一秒、と経つにつれて、私の頭の中は深津くんに謝りたい気持ちでいっぱいになっていく。


『ご、ごめん......ごめんなさい、深津くん.......』


勘違いしていたのかもしれない。彼は私の恋人で、いなくてはならない必要な人。でもその前に、バスケ界のスターなんだということを。日本代表にも選ばれる将来有望なスターなんだということを。一歩外を歩けばその一挙一動全てに注目される有名人なんだということを。無神経だった気がする。外で堂々と会うだなんて...。


「やめろ。なまえが悪いんじゃない。」

『でも...深津くんが悪く言われたら......、』

「そんなことどうだっていい。きっとマンションの外にはマスコミが集まってる。今日は家から出るな。」

『深津くん.........』

「泣くな。俺がいるから大丈夫だ。明日ちゃんと話すまでは外に出るなよ。」


そう言うと電話口からはワーワー騒がしい音が聞こえてくる。深津くん自身も相当早口で話しているし、どこからか「深津ー!」なんて彼を呼ぶ声も聞こえてくる。ひとりぼっちの私と違って、電話の向こう側はきっと慌ただしいのだろう。


「俺行くから、また電話する。」


待って...と言う前に唯一私と深津くんを繋げていた電話は切られてしまった。通話が終了したことをお知らせしてくる機械音がやたらと耳に響く。


茫然とする中、携帯は忙しなくメッセージを受信していて。画面をチラッと覗けば深津くんとの交際を知っている友達やバイト先の先輩たちから「大丈夫?」などと連絡が来ていた。何故知ってるのかと慌てて内容を確認すればどうやら今日発売の週刊誌に既に記事が載ってしまっていたようで。あぁもう手遅れだ...だなんて涙が止まらない。











朝起きて勇気を出してテレビをつけてみる。結局昨日は夜中までマンションの前にはカメラを持った人たちで溢れかえっていて。深津くんの言う通り一歩も外には出なかった。怖くて出れなかったのだけれど。


たまたまつけたワイドショーではタイミングがいいのか悪いのか深津くんの恋愛沙汰を取り上げていて。右上のテロップには「バスケ界のスター深津選手、都内の女子大生と真剣交際」だなんて見たくもない文字がつらつらと並んでいる。


「恋愛関係においてはマイナスなイメージになる人も多いですけれど、深津選手はやっぱり違いますね。」

「普段の人柄がとてもよく出た文だったと思います。好感度がまた上がったような。」


好き勝手言うコメンテーターの言葉が引っかかり、昨日深津くんが言っていた「ちゃんと話す」というセリフを思い出す。慌てて携帯電話で「深津一成」と検索をかければ当然の如くヒットする熱愛関連の記事。そして「所属チームのホームページに掲載された直筆文」という単語に目を奪われて緊張しながらもタップしてみた。


『......なにこれ......。』


見慣れた深津くんの綺麗な字だ。つらつらと書かれた文章。一言一句、目を通すたびに私の目からは涙があふれた。


「......もしもし?」

『深津くん.....馬鹿.......。』


タイミングよく鳴った電話。名前を見なくとも誰からかだなんてわかる気がして。


「ごめん......本当にごめんな........怖かったよな......」

『違うよ...何あの文章...深津くんの馬鹿...!』


そう言うと深津くんは電話越しで「あっ」と声を出す。


「結婚だなんて先走ってごめん。ただ本心だから...」


まだ付き合って一ヶ月だっていうのに。まだ女子大生だっていうのに。「結婚」だなんてそんなの早すぎるのに、それなのに...嬉しくて、涙が止まらなくて...。


『嬉しいんだよ...馬鹿...大好きだよ......』


あふれた私の本心に深津くんは「えっ」と間抜けな声を出した後に「よかった...」と呟いた。


「...なまえ、就職活動だけど、あんまり頑張りすぎないでいい。」

『なんで急に就活の話.......』

「俺の奥さんになるって手もある。もちろん、俺に尽くしてもらうけど。」


だから悩みすぎないで。それともう、泣かないで。


深津くんはそう言うと電話越しで笑ってた。


『ありがとう.......本当に本当に深津くんは馬鹿だよ.......』


彼はいつだって完璧だ。でも完璧すぎて、時に馬鹿なのだ。こんな王子様はどこを探しても見つからない。
















今から会いに行くよ、とそう告げられて電話が切れた



いつも応援して頂きありがとうございます。
バスケットボール選手でありながら、
この度は私情で世間を騒がせてしまい
誠に申し訳ございません。
週刊誌に書かれたことは全て事実です。
真剣に交際している女性がいます。

結婚を考えている大切な相手です。
マスコミの皆様、
どうか彼女の私生活を脅かすことのないよう
温かな目で見守った頂けたらと思います。


(深津くんらしい文章で余計泣けた)
(まぁ俺が考えたからね。)
(あぁ...色々一気にきて寿命縮まった...)
(それは困る。長生きして。)
(...する!もううんざりするくらい深津一成の隣にいる!!)




深津くんはとにかく男前だと思います。どんな時も誠実で真っ直ぐな男だと思うし、浮気とか絶対しなさそう。。最高......(;_;)!





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