サヨナラは恋の終わりではなく (南)





『.........本当についてない、最悪だよ......。』


クリスマスを2日後に控えた昨日、私は彼氏に別れを告げられた。朝起きてもそれは夢なんかじゃなくって、日付は1日進み明日はクリスマス。所謂本日はクリスマスイブだ。24日。朝起きて何もかも嘘だったら、夢だったら、なんて願ってみたけれど、鏡に映る悲惨な自分自身の姿が現実なんだとお知らせしてくる。もう.........。髪はぐちゃぐちゃだしメイクも落としきれてない。泣き腫れたまぶたも真っ赤な目ももう全てが最悪だ。


それでも今日はやってくるわけだし、仕事にだって行かなくちゃいけない。明日予約していたレストランは断ってくれるって言ってたし、お金だって払ってくれるって言っていた...気がする。何もかも用意周到で、こんなことになるんならさっさと別れ話を出してくれてたらよかったのに。こんなギリギリになって言ってくるなんて本当ずるいよ。


普段より少し早く目が覚めたからシャワーを浴びて念入りにメイクで顔を作って家を出た。同棲やら結婚やらを考えていた私は一体何だったんだろうか。ただのお荷物だったってことか......なんて悲しい現実なんだろう、本当に馬鹿みたいだ。










クリスマスよりもイブの方が盛り上がるんじゃないかってくらい駅前も街中も騒がしくて嫌になる。どこを見てもカップルで、自分もそうやって並んでこの街を歩く予定だったんだと思うととてつもなく涙が出そうになった。


それを誤魔化すように洒落た外観のバーに入る。たまに1人で来るくらいだけれどここのお店は妙に落ち着く。店内に入れば数組カップルはいるもののお一人様もちらほらいて安心した。私だけじゃないんだ.........。


『オススメ、お願いします。あまり強くないやつ...。』
「かしこまりました。」


適当に頼んでボーッと頬杖をついてため息なんか吐いてれば突然隣から男の声が聞こえてくる。あまりに至近距離で、どう見ても私に投げかけられているであろうその質問。


「ひとりで何してるん、ため息なんかついて。」


ゆっくり右に首を向ければ怒っているのかってくらい怖い顔でこっちを見ている男がいた。いつのまに隣に座ってきてたのか......。しかも関西弁......怖いんだけど......。


『すみません、嫌なことがあったもので...。』
「へぇ、そんでイブの夜にひとりでやけ酒か。」
『まぁ......。お兄さんもひとりですか?』
「おん、彼女もおらんしイブやなんや関係ないねん俺。」


ここえらい落ち着くよな、なんて少しだけ笑うから不覚にも可愛いとか思っちゃったし。うわぁ、何考えてんだ私は......。いくら振られたばっかりだからって初対面の人に可愛いとか不謹慎だろ......まぁでも少し強面っぽいから笑ったら可愛いじゃんってギャップに萌えるのは仕方ないよね。よくあるよね。うん。


『お兄さんかっこいいのに彼女いないんですか?』


.........うわっ、なんか今すごい失礼なこと聞いちゃったよね...?!可愛いとか思ったついでに余計なこと口走った......冷や汗が出そうな勢いで謝ろうと思ったらお兄さんは隣で笑い出したから驚いた。


「彼女居ったら1人でここに居らんやろ。」
『確かに......すみません、余計なこと言って...。』
「転勤で横浜来たばっかやしな、友達も少ないねん。」
『そうなんですね、出身は関西ですか?』
「大阪や。大阪の繁華街の薬局の息子やねん。」


......なんだ、よく喋るしよく笑う人なんだ...。


やっぱり第一印象って大事よね。強面で怒ってるのかな?ってくらい雰囲気怖かったから驚いたけど話してみると全然気さくだし面白い人じゃん。


お兄さんは大阪から転勤でやってきた私の2つ年上で南さんと言うらしい。ノリが良くて楽しくて、それから私はどのくらいの時間南さんと話していたのだろうか。

















『.........あれ.........自分の部屋だ......痛っ......、』


目が覚めれば自分の部屋のベッドの上だった。時計を見れば25日の朝8時。今日はデートの予定の為に随分と前から張り切って取っていた有給の日だから会社はないはず......。自分の部屋で寝ていたなんて当たり前のことなのに、それなのに何故か最強に違和感でいっぱいだ。


.........私昨日、何してたっけ?


いやいやそれよりさっきから頭が痛すぎる。この頭痛はどうみても二日酔い......あ、待って、この私の膝の上にかけてあるコートは...私のじゃないけど......このサイズはメンズものだよね?......えっ、すごい高いブランドのじゃん.........待ってよ、誰の?!


『......え、......どういうこと......あ!このコート!南さんが昨日着てたやつじゃない......?!』


ボーッとする頭でよく考えてもちっともわからない。でもコートを持ち上げた瞬間鼻をかすめた爽やかな香水の香りには覚えがある。昨日隣でたくさん話をした南さんの匂い......なんとか記憶を辿れば確かに着ていたような気がしてくる。そして隣を並んで歩いたような記憶もあるし、この部屋に連れてきてもらったような......えっ、?








『待って待って待って!この部屋に南さんが入ったってこと?!』


......いやいやいや、そんなはずは......。だんだん自分が怪しくなってきてとりあえずベッドから飛び降りれば途端にスースーと肌寒く感じてしまう。


『......うわぁ?!なんで下着だけ.......えぇっ?!』


自分自身が身につけているものは下着だけで昨日着ていた服はベッドの下に散らかっている。そしてこの南さんのコート。いや、待ってよ、これって完全にやらかした.........


『......そういえば私......!!!』


鮮明になる記憶を辿れば、バーで散々語り散らして彼氏に振られたことも愚痴りまくって、南さんは私の話に付き合ってくれて、それで.........










「おい、そろそろ帰ろうや、タクシー呼ぶで。」
『いやぁ、まだ帰んない......!』
「......コラ、行くぞ。家どこや、ほら立て。」


そうだそうだ、フラフラになったけど支えてくれて外に出て、マンションの場所教えたんだな、多分。タクシーの記憶はないから歩いてきたのか........連れてきてくれて、それで.........


「ほな帰るからな、歯ぐらい磨けよ、おやすみ。」
『待って......行かないでよ......。』
「...俺は別れた彼氏やないで。別人や。」


.........待って、待って!タイム!完全にやらかしたよこれ!玄関先で引き留めた気がするもん。南さんの腕掴んで離さなかった気が.............


.........やってしまった。その後の記憶はあまり鮮明ではないけれど南さんがこのベッドにいた気もするし、何せ今立ち上がってみればやけに腰が痛いしね、うん。ついにそんなことするまでになったか私の馬鹿野郎!!


とりあえず、とりあえずだよ?とりあえずシャワーでも浴びようかと浴室へ向かった瞬間、私はその場で凍りついた。


『.........うわぁぁあ!!!!』


見覚えのない赤い痕が首やら鎖骨やら肩やらあらゆるところについているではないか......!!!これは、これはもう決定的だぁぁあ!!!










結局クリスマス当日は後悔と反省の1日となり家に引きこもった。それにしてもこんな見えるところにハッキリとつけなくても......。暖房で温かい家の中でもタートルネックのセーターを着て過ごした。南さん......。1日よく考えたけれどやっぱりどこの会社やなんの仕事なのかは聞いていなくて、とりあえずこの高いコートを返そうにも手段がない。しかしこれ......忘れていったわけじゃない、よな?

外出たら寒いしコート忘れるなんて無いよね?わざと?なんでわざと?返しに来いって?でも別に毛布だってあったしなんで私にかけていったんだろう?意味がわかんない。返す手段もないよ......。


翌日、仕事の為とりあえずどこかで会えた時の為に紙袋にコートを入れて家を出た。簡単に再会ってわけもなくて、それからあっという間に年は明けてもうすぐバレンタインってところまで時は過ぎた。





『......あのバーに行けばいいんじゃ......?』


よく考えてみればなぜこの考えが真っ先に浮かばなかったのか、自分でもアホくさくなる。この広い横浜で偶然の再会を期待するくらいなら「よく行く」と言っていたあのバーに行った方がまだ可能性があるじゃないか。本当にアホだ。むしろそれ以外情報なかったろこのポンコツめ。


仮にいなくともマスターに頼めば......。そう思い扉を開けた瞬間、私は目を見開いた。


「お、久しぶりやん。」
『......あっさり会えた......。』


いつか私が座っていたその席で何かを飲みながら「よう」なんて手を上げている。


『......よう、じゃないですよ、もう。』
「何、機嫌悪いん?また嫌なことあったんか、忙しいな現代人は。」
『......いつの時代の人なんだ......。』


とりあえずコートの入った紙袋を渡せば南さんは不思議そうに中を覗いている。よく考えてみれば結構気まずくないか......?久しぶりとはいえこの前、抱かれたわけだよな......?


「お、コートやん。サンキュー。」
『はい、じゃ私はこれで......。』


なんだか急に恥ずかしくなってその場を去ろうとすれば腕をグッと掴まれて隣の席に座らされた。


「冷たいやん。まだここにおって?」
『え......じゃ、じゃあ、一杯だけ......。』


この前飲んでたカクテルをなぜだか南さんが注文してくれて、特に会話がないまま時間が過ぎた。


「...この前、悪かったな。」
『...いえ、謝るのは私です...ご迷惑をおかけして......。』
「そんなことない。俺も...結構乱暴に...体痛かったやろ。」


まさかそんなこと言われると思わなくてビックリして南さんを見つめれば「目ぇでかいな。」なんて笑っている。いやいや、あのさぁ!!


「次会えたら言おうと思ったんや。だからコート置いた。返しに来てくれるやろって思ったから。」
『何を言おうと思ったんですか?』


わざとだったのか、やっぱり...。でも理由があったんならそれを聞くべきだと思った。


「本当は順番守らなあかんかったんやけど...俺の彼女になってくれへんかなって。」


ええ男やで。薬局の息子やし。なんて意味のわからないことを言っているけれど、笑顔の中にも真剣さが見えて息を呑んだ。


「声かける前からええなって思っててん。だからつい手出してしまって...なんかもう最高に可愛いねん、全部や。全部可愛い。」


聞いてもないのにどんどん出てくる「好き」があまりに眩しくて、嬉しくて。よく知らない人なのに、まだ会うの2回目なのに、それなのに。


『...よろしくお願いします。』


こういう出会いもアリなのかもしれないよね。

















出逢いは突然やってくる。


(なまえ〜〜〜可愛い〜〜〜〜)
(今日泊まってもええ?ええよな〜?なまえ〜〜)
(...何故だか私は相当惚れられてしまったようだ...)



大人っぽく仕上げたいと思ったんですが、、南くんってこんな感じでいいのかな......。しかし完全に私は南くんは薬局を継ぐべき派なので転勤がある仕事より龍生堂にいて欲しいんですけどね。でも南くんとこんな風に出逢いたい人生だった...自分の理想ばかり書いてる.........( °_° )しかもクリスマスあんま関係ない!結ばれたのバレンタインの前って書いてある!!!!笑 本編でヒロインちゃん一回も名前呼ばれなかった!!!

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