君の為に息をする(沢北)







「会いてぇな........何してるのかな........」


アメリカに戻って数日、俺の頭の中はとある一人の人物でいっぱいであった。


あの日、俺が強引に抱いてしまったなまえさん。俺の下で潤んだ目で俺を見上げていたなまえさん。アメリカへ発つ時空港まで見送ってくれたなまえさん。


「あぁー...付き合ったはいいけど、実際どう思われてんだかなぁ.........」


あの日、俺は「好き」だと伝えた。付き合ってほしいとも。俺に抱かれた後なまえさんは俺の告白に頷いてくれた。遠距離になることもなかなか会えないことも伝えた上で、それでも「栄治の彼女になる」と言ってくれたのだ。


あの時はすごく嬉しかったし今だってなまえさんが俺の彼女だなんて信じられない。けれども俺は不安でいっぱいだった。俺と離れて冷静になって、なまえさんは後悔していないだろうか。あの時は抱かれた後の勢いで頷いてしまったのだと、なんて手が早い奴なんだと、俺を軽蔑していないだろうか。


「.......13日と14日...15日の夜に帰ってくればいいから......。」


慌ててカレンダーを見やる俺。思い立ったら即行動。行動あるのみだと俺の頭が叫んでいた。


「会いたいんだったら会いにいけばいいんだよ...!」

















3月13日、日本では昼過ぎに東京へと着いた。以前深津さんと河田さんが東京なんてキラキラした都会へ住み始めた頃、一度だけ遊びに来た経験もあってか、俺は「行けば行ったでなんとかなるだろう」なんて随分アバウトな感じで来てしまったのだ。なまえさんとは同じ大学だったはずだし、あのデカい大学へ行けばいるのかもしれない.......いや、待てよ。今って春休み.....?


「ん?...もしかして会えないとか...ねーよな?」


東京で独り言を呟いたところで、誰かが助けてくれるわけでもない。この人の流れにふわふわと消えていく俺の口から出た不安。とりあえず、とりあえず河田さん家に行けばいいんだ........。そうだ、むしろそれしかねー!


「確か最寄りが...えぇっと...山手線?え?」


はぁ?なんでこんなにたくさん路線が...うわぁ...わっかんねー...東京マジですごすぎだろ...


「どこからどう行けばいいんだよ........」


路線図を前に固まる俺に話しかける人もいなければ知り合いもいない。東京は狭いんだろうけど、俺には広くてどこか遠い異国の地のような気がしてくる。なんだよもう...俺だけよそ者ってか...


孤独が俺の心を支配し始めた頃、俺は深津さんと河田さんが通う大学へと着いていた。今この時間にマンションへお邪魔したって彼らは多分部活の最中だと思ったからだ。練習試合や遠征でいない場合も考えられるのだけれど、なんとなく大学に行けば会えるような気がしたんだ。


「バッシュの音........、」


しめた。こりゃ練習中だな...俺の勝ちってか。


大学の門を潜り体育館へと近づいた時、俺はその場に立ち止まった。


「...なまえさん...?」


俺と同じスーツケースを引いて大荷物で大学内を歩いている。俺が今入って来た門へと向かっているようでその姿を確認してから慌てて建物の影へと隠れた。


「どこ行くんだ...あんな荷物...、」


ピョン吉とゴリラに会う目的なんて一瞬で忘れた俺は慌ててその後ろを追いかける。素直に声をかければいいっていうのに、何をコソコソとしているんだろうか。


しばらく道なりに歩いたなまえさんは俺が先ほど降りた最寄りの駅へ着くなり改札をくぐろうとした。流石にそこまで着いていくのは躊躇いの気持ちもありどうしようか立ち止まった俺の目の前でなまえさんへと駆け寄る人物がいたのだ。


「.......松本さん........?」


いくら高二でアメリカへ行ったとはいえ、仲良くしてもらった先輩を見間違えるほど俺は無礼者じゃない。少しだけ大人っぽくなって、坊主も卒業したらしい松本さんがなまえさんへと駆け寄り二人は何やら話し込む。よく見れば松本さんも少し大きめの鞄を持っておりその光景はまるで........


「二人で旅行......?まさか.........、」


まさか、まさかそんな......。













「......沢北?......河田!こっち来いピョン!」

「なんだ、どうしたんだ深津........」


「沢北?」そう俺の名前が呼ばれたような気がする。「お前こんなとこで何してるんだ」と聞き慣れた声に問われたような気がする。


「...泊めてもらえませんか...。」


俺の様子を珍しく心配したような顔ぶりで見つめる河田さんが、きっと何から問いただそうかと悩んでるであろう間に、隣の深津さんが「なまえは?」と聞いてくる。


「会わなかったピョン...?なまえ、今日の夕方...」


そう言って深津さんもまた珍しく少しだけ慌てたように校内の時計に目をやった。時間を確認するなり河田さんと目を合わせて、突然俺の背中をドンッと押すんだ。


「痛っ......?」

「行けピョン!早くしろピョン!」

「行けってどこに......?なまえさんならさっき見かけたけど.......」


訳もわからずうろたえる俺の背中をバシバシ叩く馬鹿力のピョン吉と「早くしろ!」なんてグイグイ背中を押して前に押し出してくる河田さん。


「待ってくださっ....!どういうことで...?」


あまりの二人の切羽詰まった雰囲気に何故だか俺はじわじわと目に涙が滲んでくる。なんだよ、なんなんだよ...意味わかんねーよ...


「何があったのかはわからないけど......いいから行ってこい。なまえはちゃんと沢北のこと考えてる。」


わかんない、わかんないけど.......


「駅にいなかったら空港だピョン!急げ!」

「は...はい!!」


走った。訳もわからず駅まで走った。スーツケースは走り出す瞬間深津さんが貰ってくれた。ポケットに財布と携帯、あとは何も持たずに来た道を全力で走る。


駅に着いてもなまえさんの姿はなかった。


「つーか...空港に何の用だよ...やっぱ旅行か...、」


松本さんと待ち合わせして旅行にでも行くつもりだったのだろうか。そう考えると裏切られたというよりも、完全に気持ちが俺に向いていない状態であんなにめちゃくちゃに抱いて、無理に自分のものにしてしまった自分自身に腹が立ってくる。


「.......なまえさん!!」


...居た。駅のホームでベンチに座っているその姿は先ほど見た時と同じ服装で。隣に松本さんの姿はない。


『へっ.......え、栄治くん.......?!』


どうして......なんて目を丸くして俺を見つめるなまえさん。あまりの驚愕ぶりに声も出ないといった雰囲気だ。


「....それでもいいと、思ったんです....。」

『えっ........』

「松本さんを忘れられなくても...それでもいいって...でも、」


なまえさんは黙ったまま相変わらず驚いた顔で俺を見つめ続けている。


「すごく、苦しいです.......」

『栄治...くん...?泣いてるの......?』


ポロポロと止まることを知らない涙が溢れ出す。「栄治くん」と呼ばれる度に俺の体が、心が、反応しては熱くなり、その全てが涙となる。


「なまえさんは...、俺のこと好きじゃないですか...?」


好きじゃないと言われても、松本さんが好きだと言われても、それでもいいだなんて、ただの思い込みだったんだ。本当はよくない。好きになればなるほど、自分だけを見て欲しくて、離れている距離がとても遠く感じて、自分がダメになってしまう。


『栄治くん........、会えてよかった.........。』

「......え.......?」

『泣かないで...。大好きだから、泣かないで?』


なまえさんは俺の欲しい言葉をくれると、ゆっくりと俺の涙を拭いてくれた。「イケメンが台無しだよ」だなんて優しく笑うその姿に余計涙が溢れ出る。


「...松本さんと、旅行に行くんじゃ...?」

『えっ?何の話?!』

「え......?だってさっき松本さんと話してるの見たし.......」


...あれ?もしかして何か誤解があったのか......?


『稔くんならさっきたまたま会ったけど......。』

「ま、待って。とりあえず、そんな大荷物でどこに行くんですか?」

『どこって...アメリカだよ。よかったー...すれ違いになるところだったね...。』

「......は?!」


自分でもビックリするくらい大声が出てなまえさんは一瞬肩を揺らして「ビックリした...」なんて笑ってる。いやいやいや、待ってくれ...今からアメリカへ行こうとしたって?!


それってさ.......?


「もしかして、俺に会う為にアメリカに......?」

『うん、黙ってるのは良くないかなと思ったんだけどサプライズで...これも渡したかったし......』


そう言ってなまえさんは俺に小さな包みを渡した。


『ホワイトデーでしょ?栄治くんにお返し。』

「何それ.......」

『わっ...!栄治くん?大丈夫?』


へなへなとその場に座り込んだ俺を慌てて立たせてくれるなまえさん。「大丈夫?」なんて顔を覗き込んでくる時に目が合って、俺は頭の中は沸き上がりそうだった。


「てっきり...松本さんが好きなのかと......」

『何言ってるの?私は栄治くんの彼女でしょ?』


ニコニコ笑うなまえさん、あぁ...なんて可愛いんだ...俺の天使...これは夢じゃねーよな......


「ひとりでアメリカに来ようとするなんて...」

『やっぱり無謀だったかな...でも会いたくて...』

「......無理、抱きてえ......」


俺の独り言に「えっ?!」なんて顔を真っ赤にするなまえさんの腕を引いて駅を出た。


「早く、なまえさん家連れてって。」

『だったらちゃんと歩いてよ〜!重たいんだよ...』


早く抱きたい。でも離れたくない。彼女の肩に腕を回し寄りかかるような体勢で歩けばぶつぶつ文句を言うなまえさん。


「ほら、頑張って歩いて!なまえ先輩!」

『...調子いいんだから...栄治くんの馬鹿......』
















俺の全ては君のためにある


(ただいま〜...あれ?そういえば栄治くん随分身軽だね?)
(.....あぁ!!深津さんにスーツケース託したままだった!!)
(じゃあ取りに行こう?そしたら深津くんも一緒にご飯食べようよ!)
(...嫌だ!ならスーツケースいらない!!)




栄治はとにかく全力で空回りしながら彼女を愛し続けてほしいです(^_^)☆栄治本当に可愛い、めちゃくちゃ好きです......。ちなみにスーツケース持ってなまえちゃんが大学内を歩いてたのは出発前に忘れ物に気付いて取りに行った設定だったんです。松本くんは普通に偶然会って話しただけでした。うまくまとまらなかった...(笑)












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