君は僕だけのFlower (神)






「みょうじさん......?」

『あっ......ど、どうも......。』


勝手に入ってきてごめんなさい...だなんてしどろもどろに謝ってくるみょうじさんを見て俺の心は途端にブワッと熱くなった。さっきまで「今日も練習かぁ」なんてぼんやりとしていた脳内は途端に冴えてどんな風に自分の見せ場を作ろうか考え始めた。


「来てくれたんだね。ありがとう。椅子持ってこようか?」

『あ、ううん、いいの...。ここで見てるね。』


いつも通り他にも部活見学者はいるわけで、その大半は女の子なのだけれど、俺にとってはみょうじさん以外正直どうでもいいわけで。足痛くないのかな?とかここ寒くないかな?とか普段考えないようなことばっかり考え始めては彼女の為に何か出来ないかと慌て始める俺に周りからの視線は注がれるわけで。


『じ、神くん......、私は平気だから......。』


少しだけ周りからの視線を気にしたみょうじさんが俺の練習着の裾をちょんちょんと引っ張っては遠慮気味にそんなことを言う。その仕草があまりに可愛くて不意に胸がキュンとなった。


あぁ......こんなときめきを感じながら今から練習だなんて......やってやるしかないって感じだなぁ......


「わかった。終わるまでいてね。」


返事は聞かずにフロアへと降りた。みょうじさんが「頑張ってね」と言ってくれたような気がして俺は後ろを振り返らないままコクンと頷いた。














「どうだった?バスケ見たの久しぶり?」

『うん......やっぱりやりたくなっちゃった......。』


練習が終わり俺はみょうじさんと並んで大学を出た。今日は真っ白いスニーカーを履いていてそれはそれはとてもよく似合っている。人見知りから少し段階を経て自分の思ったことはゆっくりとだけど話してくれるようになったみょうじさん。初めて会った時から比べてみるとかなりの進歩を感じてそれは俺の心を満たしてくれるんだ。


「今度一緒にやろうよ。休憩しながらだったら、無理ない程度にやれそうじゃない?」

『本当に......?神くんみたいなすごい人と一緒にバスケ出来るなんて......。』


続けてみょうじさんは「想像以上に凄かった...」なんて呟くもんだから俺の体はさらに熱を帯びた。俺の肩くらいにあるその頭をとりあえず優しく撫でて気持ちを落ち着かせる。これ以上は触れたらダメだ、今はまだ.......。


「そんなことないよ。俺もみょうじさんと一緒にバスケしたいからさ。」

『...本当に優しいんだなぁ...神くんは...。』


照れ臭そうにニコニコしている君が愛おしくてたまらなくって...。頭を撫でたこの左手をしばらく洗わないでおこうと思ってることは俺のイメージ保護の為に内緒にしておくよ。


「そういえば...大学からマンションまで結構離れてるね。毎日徒歩なの?」

『うん...。疲れる時もあるんだけどね、健康の為に歩いてるの。』


これくらいは平気だよ、なんて笑うのはいいけれどまだこの時期夕方はすぐ暗くなるし、俺は心配でたまらなくなった。こんな可愛い子がひとりでほっつき歩いてたらどこの誰に何されるかわかんないじゃん。


「でも暗いから心配になるなぁ...。たまに練習見てってよ。そしたら俺送るし。」

『でも.......神くんすごく疲れてるのに.......。』

「みょうじさんの為なら何したってちっとも疲れないんだ。」


練習を見ていくよう提案したことを否定されなかったことがとても嬉しくて。俺が疲れるとか遠慮とかそんなのどうだっていいし、実際俺が言ったことは正しかった。俺の言葉を受けて瞬時に目を逸らし頬を赤く染める姿が可愛くてクスクス笑ってたらみょうじさんは「やめて...」と呟いた。


『なんていうか......、あの......私.........』

「思った通りに捉えてくれていいよ。その通りだから。」


好きだと言いたい、けれどこの先に控えているホワイトデーに勝負をかけようと思っていた俺は今はまだ距離を縮める段階だと明言せずにそう答えた。みょうじさんはその後マンションに着くまで何も言葉を発しなかった。














来たる3月14日。みょうじさんに勘違いされたくなくて、他の子には小さな洋菓子の詰め合わせを、そして俺にとって本命であるみょうじさんにはそれなりに値のする有名な洋菓子店のフィナンシェやマドレーヌ、そして告白を後押ししてくれそうな彼女によく似合うピアスまで用意した。


あれからみょうじさんが練習を見にくることはなくそのまま春休みとなった。けれども春休み前の選択授業の数学で会ったり、特に約束をしなくとも校内で見かけたりなんてことも多くて。その度に会話を交わしては距離を縮め今日を迎えた。聞くところによるとアルバイト先で三月を機に辞める人が多くてシフトがたくさん入っているらしい。


「...みょうじさん、こんばんは。」

『えっ......神くん.........。』


今日はアルバイトだろうか...なんて不安げに押した彼女のマンションのインターホン。しばらくして出てきたみょうじさんはいつもの洒落た服装ではなくスウェットにどうやらすっぴんらしく俺だと確認した途端扉を閉めそうになった。


「待っ.......、閉めないで。」

『ごめっ......まさか神くんが来ると思わなくて......』


顔を真っ赤にしてワタワタするみょうじさんが可愛くて俺はついつい微笑みながら持ってきた包みを渡した。


『えっ........?』

「ホワイトデーだから。ほら、俺もらったじゃん。バレンタインの時に。」

『あぁ........そんな、いいのに.........。』


そして彼女はチラッと中身を確認すると静かに驚いていた。目を見開いて固まった後、顔を上げて俺に「こんなに?」と言う。


「俺の気持ち。貰って。」

『大したもの作らなかったのに............。』


そう言うとみょうじさんは気まずそうに視線を下ろし「ありがとうね、わざわざ...」と呟いては扉を閉めようとした。


『気をつけて、帰ってね......。』

「...待って、」


半分閉められた扉に腕をいれて強引に開けばみょうじさんはびっくりしたようで半歩後ろに後退りした。先ほどから随分と俺を拒否しているようなその距離感が妙にイラついていくらみょうじさんの前でも平穏ではいられなくなる。


今日、いま、やけに感じるこの距離感は一体なんだ...?


「俺、好きなんだよ。みょうじさんのこと。」


彼女は喜ぶわけでも驚くわけでもなく無表情で固まった。視線は俺の腹あたりで止まっている。


「みょうじさんは俺のこと、どう思ってる?」


仮にそれが「好き」ではなくても、俺と同じじゃなくてもよかったんだ。友達だとしても好感があるのならそれを「好き」に変えていける自信はあったし、完全に脈がない相手に告白したりなんてしないから。


『......ごめん、神くん.......。』


俺の返事を待たずとも閉められた扉。


バタンと音が鳴り、彼女は俺の視界から消えた。




















あ..........。

4月になり学年が一つ上がって久しぶりの大学で俺はみょうじさんとその友達を目にした。いつも通りの光景なのに俺の気持ちはちっとも晴れなくて。


あの日どうしてあんな風に拒絶されたのか、一言で振られてしまったのか、悩んでも俺にはちっともわからなかった。


みょうじさんは友達にコソコソと何かを耳打ちすると友達は驚いた顔でみょうじさんの肩を掴み「ちょっと来て!」なんて彼女の腕を引いて、売店を出て行った。それに気づかれないようついていく俺は相当趣味が悪く諦めも悪いらしい。


「...どういうこと?!神くんの告白...断った?!」

『ちょっと!声が大きいよ.......!』


タイミングが良かったのか悪かったのか、なんと二人の間で持ち上がっていたのは俺の話題で。影でコソコソと耳を澄ます俺。


「あんなにいい感じだったじゃん。好きかもしれないって言ってたよね?!」


ぼうっと聞き耳を立て、ボロクソに悪口でも言われるのかと思っていた俺は友達のそんな声に思わず背筋をピンと伸ばした。...だったらどうしてみょうじさんは...


『よく考えたの。あんなにキラキラした人の隣に私なんて...無理だよ。それにデートの時とか、ヒール履けないし...。』


毎回スニーカー履いてくる彼女なんて嫌でしょ?


みょうじさんはそう言って悲しそうに下を向いた。


「そんなの関係ないよ!なまえ、神くんもなまえと同じ気持ちでいてくれてるんだよ?それなのに......」

『好きだけど...気持ちがついていけないの。』


なんだそれ.........すげぇムカツク...........。












『へっ...?!』

「......!!!」


友達の前だとか、コソコソと聞き耳立ててたとか、そんなことどうだっていい。なんなら俺が君の頭を撫でた後手を洗わなかったことも、チョコバナナマフィン食べた後歯を磨かなかったことも、教えてあげてもいい。もうなんだっていいから、俺が君をどれだけ好きでいるか教えてあげるから.......


「...お願い、俺の隣にいて。」


後ろからギュッと抱き締めればみょうじさんはビクッと肩を上げて「神くん...?」と呟く。ドキドキとうるさい心臓は俺のものなのかみょうじさんのものなのかちっともわからない。


『.......聞いてたの........?』

「うん、ごめん。俺、みょうじさんが好きなんだよ。みょうじさんがいてくれるなら他はどうだっていい。」

『私はよくないの.......。』

「だったら.........、」


どうしてわかってくれないかな...。


「俺も同じスニーカー履く。いつも一緒に履いてようよ。みょうじさん、俺にはみょうじさんもキラキラして見えるんだ。」

『私が.......?』

「うん。すごく可愛くて、綺麗なんだよ。」


どうにかして伝えたい。必死に紡いだ言葉にみょうじさんは何も答えず俺の腕から抜け出した。くるっと振り向いて俺と目を合わせると「やめてよ...」と言う。


『恥ずかしいよ.......。』

「本心なんだ。俺の隣に、いてくれないかな?」


みょうじさんは笑った。「神くんってどこまでもかっこいいね」そう言って俺の足元に視線を落とす。


『何センチ?同じスニーカープレゼントしたい。』

「えっ......、」

『この間のお礼したいの。』


みょうじさんはそう言うと今日はおろしていた綺麗な茶色い髪の毛を耳にかけた。途端に現れる俺がプレゼントしたピアス。


「......そんなのはいいから、俺の彼女になって。」

『それは、なる。でもそれだけじゃ足りないと思って......』


なんなんだよ、本当に......。ギュッと正面から抱き寄せれば「わぁっ」なんて可愛い声が聞こえた。


「頼むよ.....これ以上可愛いこと言わないで.......。」

『神くんこそ...かっこよすぎるんだよ.......。』


俺の腕の中から脱出した彼女は目を合わせてくると「本当は大好きだったよ」なんて笑うから、可愛いこと言うなって言った俺の忠告を無視するから、有無を言わさず唇を奪ってやった。さて、どうしようか。彼女を抱きしめた腕も触れた唇ももったいなさすぎて...お風呂に入るのやめようか。












君は永遠に僕の胸で咲き続ける


(神くん、これプレゼント)
(...わ、同じスニーカーだ!)
(よかったら履いてね!)
(...もったいなくて履けないなぁ。保存用と履く用と用意しなきゃダメだな...。)






神くん!大学生神くん最高です。キャンパスに通う神くん想像するだけでニヤケが止まらない......( °_° )興味ない相手には全然心を開かないだろうけどロックオンした相手にはガンガン攻めそうだなと思います。振られた!なんてなれば、OKもらえるまであの手この手を使って相手にバレないように淡々と距離を縮めそう。。いい。とてもいい(^^)






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