形勢逆転恋愛 (宮城)





「ハァ?!告白断ったくせにホワイトデーにお返ししたいだと?!」

「ちょっ...アンタ本当に......!」


いつもの居酒屋であぐらをかきながら「どういうことことだ宮城ぃぃ!」なんてキレてる歯抜けこと三井さん。


「頼むから静かにして。マジで恥ずかしいから。」

「にしたってお前...、突き落としといて持ち上げるような真似して何がしたいんだよ?」


確かにそうだ。俺はバレンタインの時、なまえちゃんの告白を断ったはずだ。三井さんに報告したら羽交い締めにあったけど生憎この人はあまり力が強くないから助かった。三井さんすらも驚愕させてしまう俺の発言、「告白は断ったけどお返しはしたい」。やっぱり言ってることとやってることが一致しないだろうか。


「だって...可哀想じゃないっすか。あんなうまいもんくれたのに...それにはちゃんとお礼したいんすよ。」

「あのなぁ.....中途半端が一番可哀想だろうが。」


確かに...と何も言えない俺だったがやっぱりお礼はお礼でちゃんとしたい思いが強くてどうにもこうにも解決しない。告白を断った身なのだから何もせずが一番いいのだろうか。


「...つーかお前、そんなこと思ってる時点で少しは意識してんじゃねーの、そのなまえちゃんのこと。」

「は...?」


固まる俺に三井さんは「本当に何も思ってねーんならそんな考えにすらならねーよ」なんてビール片手に捲し立てる。


俺が彼女を意識してる.......?


「いや、そういうんじゃなくて......傷つけたくないんすよ、出来る限りのことをしてあげたいっつーか......」

「だーかーらー、それが一番傷つけることになんの。」


なんでわかんねーかなー?と続けた三井さんはやけに大人っぽいことばかり言いやがって、普段なら完全に立場逆なのに...と悲しくなる俺。でもそんなことはどうだっていい。三井さんの言うことは正しいように思える。でも........


「んなこと言うんなら、ちゃんと好きになって付き合えばいーだろうが。」

「...んな、無茶な......」

「だったら、何もしないことだな。」


歳を取るにつれ、確実にレベルアップしていったらしい三井さん。高校を出て数年だってのにやたらとそれっぽいことを言ってくるからこの人も成長したな、と変なとこに感心してしまう。


「とにかく、気になるなら付き合え。違うなら何もするな。」

「あーはいはい......。」


わかってる。そんなこと、言われなくたって......。













あれから俺がなまえちゃんと話をすることはなかった。彼女があれだけ顔を赤く染めて「宮城くん」と声をかけてきていたのに、それもすっかりなくなったのだから俺の日常はぽっかり穴が空いたようだった。


「好き」と言われて「ごめん」と返し、「好きになってくれてありがとう」まで伝えておいて、何もなかったかのように「おはよう」だなんて声かけれないよな、普通......。俺だってアヤちゃんに振られた経験もあるわけで。なまえちゃんの気持ちはよくわかるはずだ。


わかるはず......なのに......


「なまえ〜、今日合コン行こうよ。」

『えぇ〜?行かないよ〜!』

「何言ってんの。行くって言ったら行くの。」


えぇ〜...なんて煮えきらない返事をしながら友達と楽しそうに歩いているなまえちゃん。「合コン」という単語にやたらと引っかかる俺。


「合コン........」


そりゃね、失恋には新しい恋が効くって言うし?振られたのなら新たな出会いを求めてってのも十分わかるよ。わかる、わかるけど......


なんつーかさ、なんかこう、ここらへんが......モヤモヤッとするのなんでだろうな.........。

自分から振っておいて、チャンス潰しておいて、一体何言ってんだかわかんねーけど、あ、あれだよ。三井さんが変なこと言うからさ。「それって気になってんじゃねーの」とかこの間連呼されたしさ?それでだよ、その.......

別に俺は好きとか....そんなんじゃねーし。アヤちゃんいるし、だから断ったんだし。


「中途半端はダメなんだって......。」


自分に言い聞かせてその場を去った。














3月14日、俺は部活終わりに街中を歩いていた。どこもかしこも見渡せばカップルだらけで腹が立つ。あぁ、俺みたいなひとりもんは歓迎されないんだなぁ...


なまえちゃん、今頃何してんのかな.......今日はバイトかな......それとももう、合コンで出会った人と付き合ってたりして......こんな天気のいいデート日和には外でランチなんかしてたりして........


「つーか俺、どうしちまったんだよ.......。」


断ったんじゃなかったのか。ごめんね、と誠心誠意伝えたんじゃなかったのか。


ふと立ち止まる。目の前に佇む物静かな外観の花屋の前から俺は動けなくなった。


「........すみません、このお花で花束を........。」















『いらっしゃいま.........、』


どうしちまったのか、自分でもわからない。俺はいつも振られる側だったから。俺の目にはアヤちゃんしかいなかったから。だからこんな時どうしたらいいのかも、こんな自分の気持ちも全てがわからない。わからないからこそ、悩むのをやめた。


だって考えたってわかんねーんだもん。


『宮城くん......。いらっしゃい。』


カウンターに差し出すのは君に似合うオレンジ色の花がたくさん使われた花束だ。


『ど、どうしたの、これ.........?』

「...なまえちゃん、本当にごめん。」

『えっ、な、何が.....?』


ありがたいことに店内は空いていて俺によって作られたこのおかしな現場は誰にも見られていない。カウンター越しに店員に花束を渡す怪しい男。


「...この間の返事、もう一回させてくれないかな。」

『えっ........?』


もし君が、他の男に気が向いたのなら、俺なんてもう綺麗さっぱり忘れたのなら、俺は潔く振られてやる。だって断られることにはなれてるから。断られることも、それでも負けじと振り向かそうとすることも...。


「気になるんだ。君が今どこで何してるのか、気になって仕方ないんだよ。」

『......でも宮城くん、好きな子いるんだよね......?』


それは私に告白されたから、だから意識してるってだけで...


『好きってことにはならないと思うよ。』


あぁもうどうして、そんなこと言って悲しそうに笑うんだよ...!!


『...注文がないなら帰って。私バイト中なの。』


あまりに冷たい態度、無理もない。こんなとこまで押し寄せていきなり意味わかんないこと言うんだから。けれども俺は......


「帰らない。これ、受け取って。」


グッと差し出した花束はようやく彼女の手に渡る。


「ホワイトデーだから......。」

『わかったから、お願い、帰って。』


彼女は下を向く。「お願いだから期待させないで」そう呟いては顔を上げず固まっている。


「.......好きなんだよ!!」


俺の口から強く出た言葉が店内に響き渡り途端に周りがざわざわと騒がしくなった。彼女が花束を持っていることもあり完全に告白現場となったここに一気に視線が降り注がれる。


『ちょっと....み、宮城くん.....!』

「好きったら好きだ!なまえちゃんで頭がいっぱいなんだよ!」












それから俺はしばらくカフェへと出入りが禁止になった。なまえちゃんに「来ないで」と怒られたのだ。おしゃれな洋楽が流れる店内で花束渡しながらデカい声で告白した男として有名になった俺と、その相手としてこれまた有名になってしまったなまえちゃんが晴れて恋人同士となるのはもうしばらく先のことだった。













僕を好きな君と君が好きな僕


(おまっ、やっぱりすげぇな...ただものじゃねーと思ってたけど...)
(三井さんに褒められるとなんか気持ち悪いや)
(ハァ?!人がせっかく感心してるってのに...)




リョーちんはひたすら恋に悩めばいい。悩んで悩んで突き進んでいって欲しい(^o^)vリョーちんは最高にいい男だと思ってるので彼にベタ惚れになる女の子が出てきてもおかしくないと思ってます...(^^)




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