君といく新世界 (清田)




「...朝早く来て悪い。今から部活だから。」

『......?!』


3月14日、早朝。深い眠りについていたはずの私はドタバタと階段を駆け上がり何故だか私の部屋の扉が開いた音によって目が覚めた。何事?!と思い寝ぼけ目で体を起こせばそこには完全に今から「部活行きます」といった格好をしたノブがいたのだ。


『どっ...どうしたの...?!』


段々と意識が鮮明になり、今の私完全に寝起きじゃない?顔も洗ってなくない?よだれ出てない?だなんて不安要素だらけで冷や汗が出そうになる。

でも、一体何の用があってこんな早くに........


「...今日、17時に終わるから。」

『えっ.......?』

「そ...そしたら...会いたいからよ...!」

『...!!』


...あれ?私まだ寝てる?これは夢...じゃないよね...?


「だから迎えに来る。待ってろ。」


これは一体どういう.......。

ノブは顔を真っ赤にして勢いよく扉を閉めて出て行った。「お邪魔しました」そんな声が玄関から聞こえてお母さんが「頑張るのよー」なんて答えていた。


『.......やめてよ、ノブの馬鹿.......。』


ボワッと熱くなった体がこれは現実なんだとお知らせしてくる。なんでこんな朝早くに突然女子の部屋に入ってくるのかな....非常識な奴め....。でも、でも.......


『どっ...どーしよ...!!』


まだ約束の時間まで何時間もあるっていうのに私の体は落ち着きなく慌て出しバタバタとクローゼットの中を漁り出す。何着て待っていようか、どんな髪型にしようか、あぁもうどうしよう!落ち着かない...!!


『ノブのくせに........!!』


ノブのくせに...なんでこんなにドキドキさせてくるんだよ馬鹿...!そんな今日はホワイトデー。ノブなりにあのお返しをしてくれるつもりなのだろうか。ちょうどひと月前、「300倍にして返す」と言われたあのチョコレートのお礼をどんな形でしてくれるのだろうと思うと少し楽しみでもあり、それでも心臓はドキドキとうるさくて。もうずっと長いこと一緒にいるし家に出入りするのも慣れたものなのに、「好き」の感情ひとつが私をここまで落ち着かなくさせるんだから恋というものは恐ろしい。





思えばあれから1か月、私は完全にノブを意識して普通に話すことすら難しかったし、ノブはノブでぎこちなく「おはよ」とか「じゃあな」とか声をかけてきていたような気がする。今年のバレンタインデーがいつもと違い特別なものになったのは認める。でもかと言って「恋人」になったわけじゃなく日常に劇的な変わりはなかった。


だからこそ...少しだけ期待してしまう自分がいる。もしかしたら...ノブから告白なんて.........


『あるわけないっか........。』


期待して何もなかった時がつらいからやめよう。必死に自分を落ち着かせて変な期待を抱かないようにと言い聞かせた。














「悪い、遅くなった........。」

『ううん、平気。お疲れ様。』


バタバタと足音が近づき今度は遠慮気味にノックされてから開いた扉。ノブは私と目が合うなり「おっ...」と言いながら目を逸らした。その顔は少しだけ赤くなっていて理由はわからずとも私もつられて赤くなる。


『...一回、家に戻ったの...?』

「え....あ、あぁ、うん....。汗臭いと思って....。」


ノブは私服でシャワー後なのか少しだけ髪が濡れていてだいぶ慌てて準備してきたのがうかがえる。その全てがなんだか愛おしく感じて余計に落ち着かなくなってしまう。


「あ.....飯でも食い行こうかと思ったけど.....だいぶ遅くなったし......俺ん家、来る.....?」


時計を見れば既に18時半を過ぎていた。ノブが計画していた通りにしてほしかったけれど、計画変更となるのならそれはそれでノブの考えに従いたい。私がコクッと頷けばノブは「じゃ、行くか」なんて私の部屋を出ていく。


ノブの家にお邪魔するのはいつ以来だろう。少なくともバレンタインからは来ていなかったからなんだか久しぶりのような気がしてしまう。ノブのお母さんもお姉ちゃんも家にはいないらしく、幼い頃から挨拶はしっかりするノブが「ただいま」と言いながら家に入っても返事はなかった。


「...お、俺、飯用意してくるから...座ってて...!」

『う、うん.......!』


わかりきっているのに丁寧に自室に案内してくれたノブがバタバタと台所へ降りていく。料理なんて出来ないノブのことだから、お母さんが用意してくれたものでもあるのだろうか。ノブの姿がなくなった瞬間私は「ハァー」と息を吐きその場にぺたんと座り込んだ。


『どうも緊張してしまう...........。』


「好き」という感情は時に幸せで時に恐ろしいものだとつくづく感じてしまう。恋って本当にすごいなぁ...見慣れたこの部屋も「ノブの部屋」だと思うと途端にソワソワしてしまうのだから。だってここでノブが寝たり着替えたり起きたり勉強したり...!!


「.....お、お待たせ.....!」

『あ、ありが...........えっ、これノブが作ったの?』

「う、うん.....。別に麺茹でるくらい出来るし......。」


トレイに並べられた美味しそうなパスタに感動してしまうのには訳があった。だってノブって料理と無縁だし...台所に立つ姿すら想像できないっていうのに...


「こんなもんでごめん。今度ちゃんと飯食いに行こう...。」

『う、うん...!』


別になんだっていいのに。ノブは申し訳なさそうにそう言うけれど「今度があるんだ...」だなんて私にとっては嬉しい言葉で。テーブルに並べられたパスタの前に座ればノブは私の隣に腰掛け「映画でも見るか」なんてテレビをつけてくれた。






「.....やべ、来る!来る来る!」

『ちょっと...私も怖いんだけど...っ、キャー!』

「ヤベェ!!なまえ!!怖い!!」


.......なんでホラー映画選んだ?この馬鹿め.......。しかも一応女子である私の背中に隠れてるしこのヘタレ...なんだかんだで最後まで見たけどさ...なんでホラー映画にしたの?って聞いてもいいのだろうか....。


「あぁー怖かった.............。」

『本当だよ....心臓に悪いし.....。』


ノブは「ふぅー」と息を吐いて空になったお皿を簡単に片付けると「なまえ」なんて私の名前を呼んだ。


『うん?』

「...今日、ホワイトデーだろ。」

『あ、.........そうだね。』


そう言うとノブは私の隣に座り直して「この間はチョコレートありがとう」と言いながら可愛い包みを渡してきた。


「すっげー美味かった。」

『...ありがとう。食べてもらえてよかった...。』

「俺の好みの甘さにしてくれたのかなって自惚れたりしてたわ。」


ノブは照れ臭そうにガシガシと頭をかいた。「その通りだよ」なんて私が答えればノブは余計顔を赤くして「マジか...やっぱり...」なんて嬉しそうに笑っている。


「...なまえ。」

『...ん?』

「300倍とか言っちまってさ...どんなことしたら喜んでもらえるかなってすげー悩んだんだけどさ...。」


ノブはそう言うと私に向かって小さな箱を差し出した。先ほどもらったはずのお礼。けれども受け取らないわけにはいかず手を差し出せば受け取った瞬間「開けて」と言われる。


『.......わぁ...!可愛い...!』


ゆっくりと開けばそこには可愛いネックレス。


「結婚する時って指輪渡すだろ。だから交際を申し込む時も何か渡すべきだって思ってさ.......。」

『えっ........?』

「なまえ、幼馴染やめようぜ。」


真っ赤な顔で真剣な目で私を見てそう言うノブ。吸い込まれるような真っ直ぐな瞳に私は目を逸らせないままだ。


「俺と付き合ってください。」


あぁもう、どうしてこんなに喜ばせてくるの....。ノブの馬鹿、ノブのアホ...........


『.....よろしくお願いします。』

「......あぁー....よかった..........うおっ?!」

『ノブ...大好き.......!!』


大好きだよ馬鹿!!私がギュッと抱きつけばノブは慌てながらも受け止めてくれる。


『300倍どころじゃないよ....!!』

「...俺も大好き、なまえ。」


どうしよう...幸せすぎる......。ゆっくりと離れて目が合うと色っぽい目をしたノブと唇が重なったのだった。














さようなら、幼馴染


(ただいまー信長、誰か来てるのー?)
(か、母さん.......えぇっと......)
(あぁーなまえちゃんかぁ。いらっしゃい!)
(お、お邪魔しております........!)
(あらやだどうしたの?そんなにかしこまって...)
(い、いえ.......別に......)



幼馴染から恋人になるって一度は憧れると思うんですけど(私だけ?)実際はなんだか大変そうだなぁって感じもします。。ずっと幼馴染として築いてきた関係が壊れるのってすごく怖いことだと思うし、何かが変わってしまうくらいならそのままがいいっていうのもすごく理解できる...。実際異性の幼馴染はいたけれど今でも「幼馴染」のままでその距離が縮まることは一度もありませんでした(笑)ノブちゃんみたいな子が幼馴染や仲の良い友達だったら毎日賑やかなんだろうな.......(^^)






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