Monkey Battle (桜木)
「...おい!野猿!待ちやがれ!」
「......は?ストーカーかよ!!」
3月上旬、辺りは薄暗い中、海南大附属高校の正門前で大きな声が響く。「野猿」と呼ばれた清田を待ち伏せ来るなり大声で叫んだのは「赤毛猿」こと桜木花道だ。
「もうすぐホワイトデーだろう!野猿はなまえさんになに贈るんだよ!教えろ!」
「......いきなり何の話だこの赤毛猿!」
いきなり待ち伏せされていたことも出てくる話も意味がわからない清田がそう問えば桜木は「この天才の質問に答えろ!」なんてまたまた強引なことを言ってくるではないか。自然と漏れるため息。それを見た桜木は余計に騒ぎ始め野猿のくせに生意気だのなんだのと暴れ出したのだ。
「...とりあえず静かにしろよ、近所迷惑だろうが。」
「おのれ野猿め...!なまえさんのカレシだからって常識人ぶりやがって......。」
「意味わかんねーよ!つーか俺が何お返ししようがテメーに関係ねーだろ!」
「そもそももらったチョコレートも赤毛猿とは雲泥の差だ!」と付け加えれば途端に拳を握りしめ「ふぬーっ!」とキレた桜木。しかし清田の目の前で止まった鉄拳はふるふると震えながら下へと下がり、桜木はガックリと肩を落として「...ハァ」なんてため息をつく。
「...な、なんなんだよ気持ち悪いな...いきなりどうしたんだよ...。」
「...野猿のくせに...なまえさんから本命チョコなんてもらいやがって...俺なんてハルコさんから義理チョコだぞ...。」
「貰えただけマシだろ......。」
清田の慰めにもならない発言に一瞬ガンを飛ばすもすぐさま落ち込み「そうかもな...」と涙目になる桜木。聞けば片思いの相手である自分の彼女なまえの妹、赤木晴子はあの流川にゾッコンらしかった。
「...どうしたら俺も本命チョコ貰えるんだよ...教えてくれ、野猿...。」
「どうしたらって...流川に勝つ以外ねーだろ...。」
ごもっともな意見を言う清田に「この天才が負けてるわけねーだろ」なんて強気発言をする桜木。だったら本命もらえてるはずだろ!と突っ込みたくなったが面倒なことになりそうなので「そうだな」と適当に相槌を打つ。自分的には流川なんかに負けていないらしいが晴子がまだそのことに気付いていないという認識らしい。とんだポジティブ野郎だと清田は肩を落とす。身の程知らずな猿め.......。
「で?なまえさんには何あげるんだ?参考までに教えろ。」
「...嫌だよ!!なんでテメーに教えなきゃなんねーんだよ!!」
「将来ハルコさんと...ケ、ケッコンでもしたら...なまえさんはお姉様になるだろうが...!今のうちに距離を縮めておきたいんだよ...!」
なんだそりゃ、まず彼氏になってから言え......なんて正論はもはや言い返す気にならない。諦めモードの清田は「甘いもの全般好きだ」なんて仕方ないから教えてあげることにしたのだ。
「ほうほう...。甘いものか...。」
「特にマカロンが好きみたいだ。俺がお返しするからテメーは違うもんにしろ。あとなまえに余計なちょっかい出すなよ!お姉様とか言うんなら彼氏になってからにしやがれ!」
桜木が晴子を好きでいることに口を挟むつもりはないがいくらなまえが自分の彼女でも周りを彷徨かれるのは納得いかない。しかも元々湘北のマネージャーであるわけだし。釘を刺すように清田が言えば桜木は「わかってらい!今に流川なんぞ倒してやる!」なんてマカロンの話はどこへやら、謎に意気込んでいた。
「......とりあえず帰れ。馬鹿猿め。」
来たる3月14日。
その日は土曜日であり桜木は練習後に部員たちにお返しをたんまりもらうなまえを目の当たりにしていた。そして片付けて着替えが終わるなりそそくさと門を後にするなまえ。その後ろを赤頭がゆっくりと追う。
『信長くん、遅くなってごめんねっ。』
「いや...お疲れさん...んな慌てて来なくても良かったのに...。」
案の定なまえが向かった先には清田がいて二人は会った瞬間から甘い空気を出している。それを見るなりギリギリと歯を食いしばっているのは桜木である。
「......どうにかしてでも.......奪い返さねば......!」
あれから色々考えたもののやっぱりあの野猿なんかになまえさんじゃもったいなさすぎる。身の程を知れ野猿の野郎......!桜木は甘い空気を醸し出す二人にそっと近づいた。
『....あれ、桜木?』
「はっ?!また....?!」
「あ...あぁー!奇遇ですねなまえさん!」
野猿は完全に無視し視界には入れない桜木。よそよそしく偶然を装う桜木と本当に偶然だと信じているなまえ。「よく会うね!」なんて桜木相手にニコニコしている。
「...そういえばなまえさん、これを渡し忘れていました...!!」
偶然を装う桜木が「そうだそうだ」なんてあからさまにわざとっぽい演技で鞄から取り出したのは縦に長い箱であった。リボンがついており可愛くラッピングされているその箱を受け取ったなまえは首を傾げ、それを見ていた清田はあんぐりと口を開けたのだ。
『どうしたの、これ...?』
「きょ、今日はホワイトデーじゃないっすか!」
『...あぁー!そうだった!ありがとう.......ん?待って?』
なまえはそう言うともらった箱をジッと見つめ次第にワタワタと慌て出す。
『うわぁぁ!これマカロンだよね?しかも私の大好きなお店の...!!』
その言葉を聞き桜木は軽くガッツポーズを決めてみせる。そしてそんなやりとりを見ていた清田はふるふると震え始め桜木の胸ぐらを掴んだのだ。
「...テメェ赤毛猿...!!マカロンは渡すなっつったろーが!!」
「なんだい野猿くん、聞こえないねぇ...!」
「ハァァ?!テメェわざとやりやがったな!!」
『ちょっと信長くん、やめて!』
慌てて止めに入るなまえ。二人の間に割って入ると清田はそんななまえを見つめて「そんなの受け取るな」と言った。
『えっ...でも.......、』
「なまえにはこれやるから。こっちにしとけ。」
清田は彼女の手から箱を奪い取ると自分の鞄から取り出した別の箱を渡す。それを受け取ったなまえは「あ...」と声を出した。
『おんなじ箱だ.......!』
「マカロン好きだろ。俺からのがあれば十分だ。」
なまえが大好きなマカロン。それも結構な値段がするお気に入りのお店のやつ。嬉しそうに箱を受け取っては「マカロンだー!」なんて喜んでいるなまえを見て清田はつられて幸せな気持ちになりつつあったがすぐさま「怒り」を呼び戻す。清田の手にある桜木が渡したマカロン。それを不意打ちに桜木に引ったくられて「何すんだ野猿!」と声をかけられた。
「何すんだはこっちのセリフだろうが!!しかもなんでここのマカロン買ってくんだよ!ムカツクな!」
「そりゃなまえさんの為なら何だってするに決まってんだろ!この天才桜木!いつだってなまえさんを思ってますから!」
鼻高らかに言い切った桜木になまえは「おぉ〜」と嬉しそうに声を上げた。桜木は再びマカロンをなまえに渡す。なまえはそれを受け取ると既に持っていた清田からの同じ箱のマカロンと見比べて「幸せだなぁ」と呟いた。
『二人ともありがとう!今後共よろしくお願いしますっ!』
ニコッと微笑むなまえに、あんなに怒っていた清田もなまえが嬉しいんならそれでいいか...なんて思い始め、桜木花道に至ってはその笑顔に完全ノックアウトされてなまえの肩を優しく掴むのだった。
「...なまえさんなら構いません。例えこの天才桜木に隠れてウワキしていたとしても...!陰でコソコソと野猿と関係を持っていたとしても...!なまえさんならそれでも構わない...!!」
「....は?......つーかなんで俺が二番手なんだよ!」
「野猿クン、どう見てもこの天才と野猿なら天才が本命に決まってるだろう!」
「馬鹿言ってんじゃねーよ!なまえに触んな!!」
『.......どういうこと?』
「なまえ!何も考えなくていいから!こんな赤毛猿んとこに置いておけねーな...そうだ!海南に転校してくればいい!!」
『...?私は湘北の生徒だよ?』
この男心をわかってくれないか
(そうだけど...!でも心配なんだよ!!)
(いいのか野猿〜なまえさんオメーんとこのジイに惚れるかもしんねーよ?)
(ハッ...........その可能性は大いにある...........)
とにかくこの二人にはいつまでも喧嘩するほど仲が良
い関係でいてほしいです。本当に可愛い二人(^人^)流川くんも入るともう最高です!