その男、要注意人物なり (流川)
「センパイ、いいすか。」
2月末。数日後に湘北高校卒業式を控えた三井は練習後の体育館で後輩である流川に呼び止められていた。
珍しい......そういやコイツ最近やけに俺に闘志燃やしてきてるけど...なんかあったのか...?もしや俺が卒業する前に湘北のエースの座を奪い取ろうってか...!
見当違いなことを考える三井が「何だ」と返事をすれば流川は手に持っていたタオルを力強く握りしめ口を開いたのだ。
「...1on 1、相手して欲しいす。」
「...やっぱり、エースの座を賭けた戦いってか...。」
そりゃ俺が卒業しちまえば永遠に俺の勝ち逃げだもんな...なんて嬉しそうに納得する三井に対し「手加減しねーす」と言い切った流川。その言葉はますます三井をやる気にさせたのだった。
「上等じゃねーか、かかってこい!」
来たる3月14日。その日は土曜日であった。流川は午前練を終え軽く寄り道してから帰宅。シャワーを浴び姉に選んでもらった服を着て片手に荷物を持ち家を出た。自転車ではなく徒歩だ。
ホワイトデーというものは今の今まで縁遠く、バレンタインこそ山盛りのチョコをもらうもののお返しなどしたことがなかった。本当にお返しを必要とする相手には母親が勝手に焼き菓子を用意して渡すところまでしてくれていたし、ホワイトデーに限らず女相手にプレゼントを渡したこともない。自分から「女」、それに加えて「好きな子」相手に何かを用意するのは生まれて初めてであった。
同じ中学であったみょうじなまえとは家もさほど離れてはいない。こんな日は自転車ではなく徒歩で一歩一歩彼女に近づくことを意識しながら歩いてみる。約束はしていないけれど彼女は今家にいるのだろうか。
「........流川と申します、なまえさんは..........」
インターホンを押すなり「はーい」と出た女の声が本人なのか母親なのかわかりかねた流川は母親相手と想定し最大限丁寧な言葉を選んだ。しかし途中で「キャーッ!」と騒ぎ始める家の中。言い途中にも関わらずインターホンはブチッと切られ途端に中からバタバタと音が聞こえてきた。
「...なんなんだ......」
慌ただしく足音が近づき勢いよく開いた扉。中からは何故だか息を切らしたなまえが出てきて流川を見るなり驚いて「なんで...!」と口を開いた。
『なんで、ここにいるの.......?』
「ホワイトデーだろ、お返し。」
『べ、別にいいよそんなの...。ていうか、帰って!』
「は......ちょ、おい!」
裸足で出てくるなり玄関先に立つ流川をグイグイ押すなまえ。しかしそんな彼女の努力も虚しく中からは「流川くんだー!」なんてなまえそっくりの女が出てくる。しかも二人。
『はっ...お姉ちゃん!出てこないでって言ったでしょ!』
「はじめまして〜なまえの姉です〜!」
「......ども、流川っす。」
親族なら無視できんとそっくりな姉に挨拶する流川。聞くところによると下の姉はなまえの二つ上でまだ新入生として入ってきたばかりの一年だった流川を知っているらしかった。「ますますかっこよくなったね〜!」なんて騒ぐ姉たちの後ろでこっそりとこちらを覗き見る人物。流川は多少見覚えのあるその顔に、はて、誰だったか...と考え始めた。
「......あ、みょうじのトモダチ......」
散々騒ぎ倒す姉たちに説教をかますなまえはそんな流川のセリフを聞いて姉から流川へと視線を移す。
『あ......うん、そう。今遊びに来てて.......。』
奥からひょっこりとこちらを覗いては顔を赤くしているなまえの友達はあの日共に三井にチョコレートを渡しに行こうとしていた子で。同じクラスなのにさっぱり名前を覚えていない流川になまえは呆れるもののそれでも顔だけは覚えてたのか...と感心していた。
姉二人、友達、そして目の前のなまえ。全員の視線が自分に向いている。けれども流川の目にはなまえ意外入っていなくて。ずっと背中に隠していたものを目の前に差し出せば後ろからは「キャーッ!」なんて声が聞こえるものの流川の耳には入らない。
「...チョコレートうまかった。」
『...................。』
「勝手に食って悪かった。」
『.....................。』
「...まだ怒ってんのか?」
自分が差し出した「花束」を見つめては動かず言葉も発しないなまえに流川は柄にもなく不安になった。姉に相談した結果、「大きな花束渡して男らしく告白してこい」なんてアドバイス通りに用意したそれ。けれどもなまえには受け取ってもらえない。気に入らなかったか...それとも花が嫌い...?なんて考えてもわからないことに思考を巡らせる流川にようやく口を開いたなまえ。
『......怒ってるよ、まだ......。』
「...悪かった。」
『結局三井先輩に渡せなかったし.......。』
出てきた「三井先輩」という名前に流川は心の中で舌打ちする。あの後1on1で三井に勝った流川。負けられまいと必死になり掴んだ勝利。三井は「やっぱお前がエースだ」なんて笑ってたけどそんなことはどうだっていい。あの人に勝ってからじゃなきゃここへは来れない。一方的ではあったが流川にとってあの勝利は大きかった。
「...センパイより俺にしろ。」
『.....................。』
「みょうじ、好きだ。」
絶対誰にも負けねーし誰にも渡さねー。なんて心の中で固く誓う流川。けれども差し出し続けてもまだ受け取ってもらえないこの花束。ねーちゃんの作戦失敗だったか...と今晩は姉と共に反省会をするべきだと考え始める流川だったが「...ずるいよ、流川」と聞こえたなまえの声。
『人のチョコ勝手に持っていくし食べちゃうし...』
「...悪かったって...。」
『...花束なんて持ってきてドキドキさせてくるし...』
「ハァ」と息を吐いたなまえは照れ臭そうに自分と目を合わせないよう斜め下を向いていて。その言葉の意味を理解しかねる流川だがもしかしたらこれはみょうじも同じ気持ちなのでは...なんて勝手にいいように思い始める。
「みょうじ、.......」
『私怒ってたのに...それなのに...なんかもうどうでもよくなっちゃったよ...。』
「...なんで?」
しっかり、はっきり聞いておきたい。自分と同じレベルにまで達していなくとも、彼女が思っていることは全て知っておきたい。なまえは顔を上げた。流川と目が合うなりこんなことを言う。
『流川がかっこいいから.......。』
最高にかっこいいから........。
そう言って流川の手から花束を受け取るなまえ。自分の手に渡るなり綺麗な花を見て嬉しそうに笑い「ありがとう」とお礼を言う。流川はそんな姿を見ていてもたってもいられずなまえにチュッと触れるだけのキスをした。
『......っ?!ちょ、ちょっと.......!』
こそこそ見守っていた後ろの外野たちがキャーキャー騒ぎ出すため余計真っ赤になるなまえの顔。そんな姿すら可愛くて仕方がない流川は「みょうじだろ」と口を開く。
『え...?』
「ずるいのはみょうじだろ。」
かっこいいだなんて言ってくるし、そもそもそんなに可愛いこと自体ずるいんだよ、と流川が再びキスすればなまえは顔をさらに真っ赤にしながら「流川の馬鹿!」と暴れ出したのだった。
『ねー、離れてよ...こんな近い距離にいたら私親衛隊に...』
「うるせー口は塞ぐぞ。」
『...もう.......!』
月曜日、仲良く登校する二人。塞いでやると本気でキスしにかかってくる流川をうまく避けてため息が出たなまえ。教室に入るなり当然注目の的となる。ことの次第を全て見届けてきた親友以外誰も知らないこの関係。親衛隊の中の一人の勇者が「流川くん、この子は...」と問えば流川は「彼女」とストレートに答えたのだった。
「俺の彼女。手出した奴は手加減しねー。」
周りに聞こえる声でそう言った流川になまえは顔を真っ赤にして俯き親衛隊は絶句していたのだった。
12本の赤いバラ
(流川の彼女になるなんて.....)
(...どーゆー意味だオイ、)
(...センパイの彼女になりたかったって?)
(そんなこと言ってません...どんだけ敵対視すんの...三井先輩...)
流川に興味なくともどんな女の子もまんまとやられちゃえばいい( ˙-˙ )流川楓とはそれほどまでに魅力的な男であること間違いなし!!元々ガーデニングが趣味なのですが花言葉が好きでよく調べたり気に入ったのを植えたりしてます(笑)一度でいいから花束をもらってみたい(笑)友情出演:三井寿センパイ。わけもわからず勝負してエース譲ったみっちゃん...愛おしき(;_;)!