Only You (牧)





『うわっ......凄すぎてどうしよう......。』


勢いよくかまされたダンクにブワッと鳥肌が立つ。震える肩を自分で抑えながら観客の悲鳴に紛れながら「牧さんすごい...」なんて呟いてみたって届きはしないのだけれど。


バスケットは昔から大好きなスポーツで、同じ高校の二つ上に藤真健司というスターがいたからか当時からこの「牧紳一」というとんでもない人のことは知っていた。大学バスケも何度か観に行ってたしこうしてプロになってからは行ける可能な範囲でかなりの試合を観に来ている。日々の癒し、息抜き、今日も牧さん最高。


高校時代からずば抜けて大人びていた容姿は今になってようやく年相応といった感じまで落ち着いたように思うけど色の黒さはちっとも変わらない。地黒なのだろう。サーフィンは控えてるって雑誌の取材で答えてたし。怪我したら大変だしね。


『牧さん....ラスト5分....!』


私が祈らなくとも勝つのだけれど。それでも牧さんは最後の最後まで手を抜かずリードを守ろうなんてせず攻めに攻め続けた。そんな姿がいつだってかっこよくて彼を観にここへ来てしまう最大の理由だ。









バレンタインデーも試合観戦だなんて...恋愛に無縁すぎてどうしようか、なんてさほど困ってもないのに焦ったフリをしてみる。24歳、彼氏無し。友達は何人か結婚してるけど別に憧れもないし「今」が楽しくて充実していてしばらくこのままでもいいか...なんて思ってしまうくらいだ。


そりゃ牧さんみたいな人が彼氏になってくれたらいいよ。でも実際そんなことあるわけないじゃん。王子様という名の藤真さんと仲が良かったら強引にでも牧さんを紹介してもらおうと試みるのかもしれないけれど...生憎私はただの同じ高校に通っていただけの後輩とすら呼べない一般人だ。話したこともなければ目があった事すらない。とにかく藤真さんという王子様はすごかった。


「...あの、落としましたよ。」


でも高校時代の牧さんを知れただけでも十分優越感に浸っているし、海南と翔陽がライバル同士だったってだけで本当にありがたいことだったんだよ。うちの体育館に牧さんが来てたりさ?藤真さんと仲良く話してたりさ?眼福だよね、本当に.......。


「あの!」

『へっ...?』


ぼうっと帰路につく私に肩を叩きながら話しかけてきた誰か。振り向けばそこには私の定期入れを持った男の人が立っていて。「これ」なんて差し出してくるではないか。


『あ...すみません、ありがとうございます。助かりました。』

「全然気付いてくれなかったのでどうしようかと思いました。」

『あ、それは申し訳な........っ、』


ついつい自分の世界に入り込んでて...なんて反省しながらその人へと目をやれば私と目が合うなり「よかったです」なんて微笑むその顔には随分と見覚えがあり...。とてつもない綺麗な顔をした目の前の男の人は固まる私に「あれ?どうしたの?」なんて不思議そうに聞いてくるけれど......どうしたのって.......あの.......


『...藤真さん、ですよね?』

「へ?俺のこと知ってるの?あれ.....?」


目の前の藤真さんは途端に慌て始めきっと私が誰なのか思い出そうとしているのだろう。しまいには私の手にあった定期入れを無理矢理とられて、「みょうじなまえさんか...」なんて名前を確認し始めた。


「...もしかして、高校同じだった?」

『.............待って、なんで?エスパー?』

「んなわけねーだろ。大体こういうパターンは高校が同じなんだよ。」


........待って、誰?え、誰?この人誰?この目の前で「わかんねーわけだわ、人数多すぎるし」なんて呆れたように笑うこの人、いったい誰?あれ?さっきまで超絶王子様じゃなかった?何年経っても王子様健在じゃなかった?......あれ?


「で?もしかして試合の帰り?」

『えっ......やっぱ、エスパー.......?』

「馬鹿かよ。鞄からタオル見えてる。」


なんでこんなに口が悪いんだ.....!そう言って私の鞄へと手を伸ばす藤真さん。強引にそれを引っ張り出すと牧さんと背番号が書かれたそのタオルを見てニヤッと笑った。いやいや、今寒気がしたんだけど気のせいかな....


「牧のじゃん。......へぇ、牧のファンかよ。」

『べっ、別に関係ないし....返して!!』

「なんだよ、せっかく連れてってやろうかと思ったのに。」

『.....?』


藤真さんはそういうと「残念だなー」なんてオーバーなリアクションを取り始めた。


「今から牧と飯行くってのに。」

『....え?!何それ!!』

「お、食いつきいいね。同じ高校のよしみで連れてってやろうか。」


なんだそれは!!なんて慌て始める私の首に藤真さんはタオルをぐるっと巻きつけながら「覚えてなかったお詫びだからな。」なんて別に気にしなくていいことを言い出すではないか。なんだこの人は.....まぁでも悪い人ではない、のかな?


『....で、でもいきなり私なんかが行ってもいいのか...。』

「は?後輩なんだから別にいいだろ。来ねーの?こんなチャンス二度とないと思うけど。」


一生ファンでいるならそれでいいけど?なんて突然冷たくなる藤真さんに「お願いします!行きます!」なんて必死にしがみつく私。


「そうと決まりゃ行くぞ。来い。」

『うぐっ.....、苦しい......!』


当然首に巻かれた牧さんのマフラータオルを引っ張って歩き出す藤真さん。なんて強引なんだ....とため息が出ている間に「ここだ」なんて解放されて私は「ふぅー」と息を吐き身なりを整えた。


ここに入れば牧さんが..........。









「あ、いた。」

「おう、藤真。.........あれ?」


.....やっば.....本物......。さっきまで会場でプレーしてた牧さんだ......。アワアワと落ち着かない私に隣にいた藤真さんが「俺の後輩、牧のファン」なんて雑な紹介をしてくれる。いやもう少し何か無かったの...。


『あ、あの、はじめまして.......!みょうじなまえと申します......。さっき試合観てました、すごかったです...!』


....あぁもう!すごかったって何が!もっとマシな感想なかったのか...なんて自己嫌悪に陥る私に向かって「ありがとう、照れるな」と返してくれる紳士、牧さん。うわぁぁあ!その笑顔は反則だぁ.......。可愛いにも程がある......。


藤真さんの隣に座って向かい合う形で斜め前に牧さんがいる。.....よくよく考えれば隣に藤真さんがいるってだけでも相当な出来事であり数十分前までの自分にこの状況を教えたのなら絶対ひっくり返る案件だと思うけど。でも今は牧さんがすごくて藤真さんが霞んで見えるよ...ごめんな、腹黒王子......。


「バスケ好きなのか?」

『あ....はい。高校の時から....。』

「翔陽出身だもんな、藤真に憧れてたんだな?」

『いえ、それはないです。』


元々それはないしこんな姿見たら余計ないしそもそも私あなたにしか興味ないし!なんて速攻で返事すれば隣から「先輩をたてろ」なんて肩パンが飛んできた。痛すぎる.......ていうか何この人......女子相手にこの力?これのどこが王子様.......あぁもう!睨むなよ!


「...牧にしか興味がないんだと。高校時代から。」

「........あ、そうか........なんか、反応に困るな.......」


藤真さんの突然のストレートアッパーにタジタジし始める牧さん...。速攻で気持ちバレちゃったけどそんな照れ臭そうに笑ってくれるのならもう何度でも告白します。私。


「言われ慣れてないもんで...だな......。」

『そんなわけないです、牧さんどれだけ人気者だと思って.....』

「それがそうでもないんだよな...特に藤真と比べたら雲泥の差だ。」


いやいや待てよ!雲泥の差は確かにそうだけどそれは藤真健司のこの曲がりくねった性格と紳士すぎる牧さんのことでしょうよ!謙遜しないで...かっこいいだけだから...


『でも私にとってはいつでも1番です!』

「.....あ、ありがとう.....照れる......。」

「ここぞとばかりにアピールし出したな....、」


なぜだかつまらなそうな顔で「ケッ」なんて言ってる藤真さんは最早無視して。あぁ、もう...最高すぎて何も言えないわ...牧さんが目の前で赤くなっている。私の言葉に照れている...。あぁー.........幸せ!!


「つーかみょうじ、チョコとかねーの?」

『.....ハッ!!!』


こそっと耳打ちしてきた藤真さんの言葉に私が過剰に反応すれば牧さんは「どうした?」なんて心配そうに見てくる。だ、だって...ただ試合観に行くだけだったし...まさか牧さんにチョコを渡すタイミングがあると思わないじゃん...!全然用意してない...!


それでもなんとかならないかとガサゴソと鞄を漁る私。今日試合に向かう前に買ったコンビニの袋からは自分用にと購入したチロルチョコが3個ポロッと転がっている。


『......渡さないよりマシ?いや、でも.......。』


とりあえずひとつを手に取り藤真さんに差し出せば「は?」なんて言いながら受け取ってくれる。


『今日連れてきてくれたお礼です。』

「....チロルチョコ1個の働きってか?」

『そんな!滅相もない!持ち合わせてるのがそれだけでして.......!』


流石にそこは否定せねばと慌てた私に藤真さんは「仕方ねーな」なんてチロルチョコを開け始めた。それを見た牧さんが「お、うまそう」なんて言い出すもんだから私は残りの二つを牧さんの前に置く。


『すみません、今日会えると思わなくて...チョコないので気持ちだけこれで...。』


こんな小さな二つには私の気持ちの5分の1も乗らないよ!なんで思いながら牧さんの反応を待つ。恐る恐る牧さんを見やれば目を丸くして瞬きしていた。


「...二つも、いいのか?」


な、なんて謙虚なんだ...!と震えながら「はい!」と頷けば「ありがとう、いただくよ」なんて嬉しそうに食べ始めた牧さん。あぁ、もう...なんて可愛い人なんだ...と見惚れる私に藤真さんは「結構脈アリじゃね?」なんて口の端にチョコレートをつけながら笑っていた。











大好きすぎてどうしよう


(牧さん本当に可愛いなぁ....)
(...あんな老け顔のどこが可愛いんだよ、気持ち悪い)
(...藤真さんいっぺん黙ろうか....)





ホワイトデーに続く!(^^)牧藤真のコンビって最高だと思います。ついつい出してしまいました(^^)二人に挟まれたバレンタイン最高!!これにてバレンタインは終了となります☆全てホワイトデーが続編となりますので引き続きお楽しみ下さいね〜☆相変わらず楽しかったです(^o^)v




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