どんなキミでも構わない (諸星)





仕事帰り、クタクタになりながら一人暮らしのマンションへと帰ってきて早々、居間の電気をつける。パァッと明るくなった室内にはキラキラ輝く金目のものがたくさん置いてあり泥棒にでも入られたら間違いなく真っ先に持っていかれるであろういくつもの腕時計の隣に今はめていたものを外して置いておく。


着ていたスーツをハンガーにかけてクローゼットをあける。この中で確実に一番高いであろうコートの隣にそれを掛けるものの、コートに引けを取らない程に高級感溢れるスーツ。今着ていたってのに、もう何度も着ているってのに高い物は素材がいいらしい。


身に付けていたものが一体総額いくらになるのか考えたくもなくてネクタイやワイシャツを脱ぎ捨て、上下セットで2000円もしないスウェットへと着替えればやっとのことで心が落ち着いた。「ふぅー」と息を吐いて冷蔵庫へ缶ビールを取りに行く。途中通ったテレビの横に飾られた高校、大学時代の写真を目にしては相変わらずため息が出た。


「...この写真飾るのやめようかな。」


ソファに座る際、缶ビールを持っていないほうで写真立てを手に取る。どれもこれも飾られている写真の中の俺はユニフォームを着ていてバスケット関連の写真だ。今となっては全てが悔しくて、未練がましい自分に腹が立つ。


「何が愛知の星だよ...自惚れてたな、俺....。」










愛知の星と呼ばれた高校時代、そのまま愛和学院大学に進学し元々のチームメイトたちと再びプレーした四年間。七年もの間、生きてきたどんな瞬間よりも最高に楽しかった。現在25歳、今のところ俺の人生を振り返れば「バスケット」と「なまえ」それ以外なかった。そしてバスケットが無くなった今、俺に残されたのはなまえだけだ。


大学を出てありがたいことに愛知のチームから誘いを受け俺はプロになった。それでも一応ルーキーから試合には出ていたしそこそこ良いスタートを切っていたように思う。けれども入団して丸一年が経った頃。今後を左右するような衝撃的な大怪我をした俺は戦線離脱だけでは無くバスケットボール自体から離脱する羽目となったのだった。


歩けなくなると言われたけれどそこだけはなんとか回避したく手術やリハビリに精を出した。今となっては日常生活にさほど支障はない。少し前に始めた仕事もデスクワークが基本であまり歩き回ることもないから助かっている。


現役だった頃もバスケットが無くなった今も、こんな赤ん坊からの幼馴染で三個年上のなまえはいつだって隣にいてくれたのだった。だからこそ今の俺の人生は何かと問われれば「なまえ」以外出てこない。あの人の為に生きているといってもおかしくない、ってかそれが真実だ。


「........もしもし?........うん、家。大丈夫。」


ぼうっと物思いにふけっていたら鳴った携帯電話に表示された名前はやっぱりなまえであり、「家着いた?」「仕事どうだった?」「体平気?」なんていつもの調子で質問攻めに合う。


「わかった、早く寝るよ。なまえもね。うん。」


「おやすみ」と言って切れば途端に「ハァ」とため息が漏れた。彼女のことは大好きだ。それこそこんなにちっちゃいガキの頃から。けれどもいつだって俺には釣り合わない高嶺の花であったなまえ。ガキの頃から感じていたそれがいよいよ超現実としてふりかかってくる今。隣に並ぶには情けなさすぎるとため息が止まらなかった。










なまえとは中学校までは同じであった。学年は被らないから同じ時期に一緒に中学校へ通えたことはないのだけれど。高校は愛和に行った俺に対しなまえは名古屋の女子高へと進学。その後、名古屋にある有名な国立大学へと進学したなまえは完全にお嬢様でエリートコースまっしぐらだった。


元々凛とした雰囲気や育ちの良さが垣間見える品のある子で、それに学歴が相まってなまえはもう無敵であった。案の定、名古屋1大手の企業に就職が決まると俺の両親は「あの子は本物だ」と拍手をしていたし、当の本人は「これからも頑張ります」なんて笑って答えていたのだった。


付き合い始めたのは俺が高二の頃。ちょうどこの時期、バレンタインデーにチョコレートをもらったタイミングで当たって砕けろと告白した。大学でも相当なモテっぷりを発揮していたなまえと、ガキとしか思われていないだろう俺。けれども笑って「いいよ」と言ってくれた時は死ぬほど嬉しかった。


それから「大ちゃん」だった呼び名を必死に「大くん」に変えようとしていたなまえ可愛かったなぁ。少しでも子供扱いになるようなことを避けようとしていたらしく、彼女の気の利きようはあの頃から健在であった。ま、俺はそのまんまでいいって言ったから今でも「大ちゃん」なのだけれど。


付き合い始めた当初からアルバイトをしていたなまえは記念日や誕生日になると高校生には手の出せないようなブランドのものを俺に贈ってくるようになったのだ。それは今となっても変わらず、結局のところこの部屋中に置かれた金目のものたちがそれを物語っている。プロになる際にお祝いにもらった腕時計と鞄は怖くて使えてない。簡単に挫折した自分には相応しくない気がする。今の会社になんとか就職が決まった時もらった超高級ブランドのスーツは今日も着てた。あれは最高に着心地がいいけれど汚さないようにいつも不安になる点だけはなんとか改善できたらいい。


プロになってやっと隣に並んで歩けると思っていたのに。少しくらいブランドものの何かを贈ってあげたりできるかもって期待していたのに。なまえの隣はいつだってハードルが高くて、横に居させて欲しいけれど俺でいいのかなって思う瞬間も多い。




















『大ちゃん、来たよー!』

「........っ、ん.............」

『寝てたんだね、ごめん、起こしちゃって.....』


ハッと起き上がりぼうっとした頭で状況を判断する。えっと........今日は.........あ!2月14日...........!!


「ごめん、寝てた.......。」

『ううん、仕事お疲れ様。これ作ってきたよ。』


仕事終わりに眠っていた俺の元に合鍵を使って入ってきたなまえ。持っていた保冷バッグから出てくる山のようなタッパーたち。順番に電子レンジに入れられて途端に部屋の中にはいい匂いが充満する。


『最近ちゃんと食べてた?大ちゃんのことだから面倒だって食べてないかと思ったの。』

「ご名答......苦労かけます.......。」

『多めに作ったから冷凍しておくね。』


勝手知ったる俺の台所で手際よく働くなまえ。テーブルの上にはいつのまにかご馳走が並んでいて「食べよっか」なんて声をかけられる。


『さて、今日は何の日でしょう。』

「付き合って8年?」

『ご名答!今後ともよろしくお願いします。』


本当ならこの長い付き合いに甘えず何処かへ連れてってやるべきなのだけれど。生憎そんなお金も時間も気力も持ち合わせていない俺に合わせてくれる文句一つ言わないなまえ。黙々と料理を食べる俺に「いっぱい食べてね」なんて可愛い笑顔を見せてくる。


あぁもうどうしてこうなんだ。本当はもっと男らしくしていたいのに。好きな女に気ばっか使わせて、増えていくのは君からの贈り物。周りは俺がいっときでもプロだったからこんなにブランドのものばっかり身につけてると思っているようだけれど実際はそうじゃない。








『綺麗に食べてくれてありがとう。』

「美味いから。ありがとうは俺のセリフだよ。」

『大ちゃん.....いつもありがとうね。』


照れ臭そうにそう言われて差し出されたのは可愛い箱。中からはいい匂いがして開けてみると顔を出したのは俺の大好物、ガトーショコラ。


「うわっ、うまそう.......!」

『食べて食べて!』


遠慮なくパクッとかじればまた一段とレベルを上げたようなうまさが口の中に広がった。あっという間に完食した俺になまえは何故だか神妙な面持ちで。


「.....どうかした?」

『......大ちゃん、あのね。.........これ。』


空になったガトーショコラが入っていた箱の隣にそっと差し出されたのはさらに一際小さな箱で。記念日だから贈り物にしては雰囲気が......。不思議に思い俺がそれをあげれば中にはネックレスが入っていた。


「...珍しい。」


もらったことのなかったそれ。普段あまりつけないからか、使用頻度の高い腕時計やピアスが贈られることが多かったのに。なまえは黙ったまま下を向いていた。俺の反応が良くなかったのかと慌てて挽回しようと試みるものの「あのね」と顔を上げた彼女の声にかき消されてしまう。


「.....どうしたの?」

『いつだって大ちゃんのそばにいたいの。』

「......今も、いるじゃん......?」


普段穏やかで察しのいいなまえ。俺が不機嫌だと空気のように存在を消すし上機嫌だと一緒に盛り上がってくれるそんな大人な彼女が珍しく不安そうな顔をしていた。


『いるけど.......。』

「...何?何かあった?」

『私、大ちゃんと結婚したい。』

「..........えっ、?」


「結婚」という二文字に、そしてそれが彼女の口から出たという現実に、俺の脳には電撃が走った。次第にこの贈られたネックレスの意味もわかって...。ここで指輪を用意するのは違うと思ったのだろう。さすがにそれは俺からもらいたいと思ったのか、それとも俺のプライドを守ろうとしたのか、それはわかんねーけど、確かネックレスには「束縛」みたいな意味合いもあったような気がするし...。


『もっともっと、そばで支えたい。』


不安そうな顔が全てを物語っている。

きっと彼女には何もかもお見通しだ。それを見越した上でもこうやって俺に結婚を提案してくるあたり、相当本気なのだろう。


「.....ごめん、今は出来ない。」


俺の返事にやっぱり彼女は表情を変えない。


「我儘だけど、手離すこともできない。」


クローゼットにしまっていた会社帰りに買ってきた赤とピンクの花がたくさん使われた花束を差し出せばなまえは驚いた顔をして俺を見た。目には涙が溜まっていて、自分が情けなくなってしまう。こんな顔させるなんて最低だ。


「いつもありがとう。もう少しでいいから待っててほしい。」

『......大ちゃん......。』

「ちゃんと考えてる。なまえの隣に並んでもおかしくない男になる。」


俺がそう言えば彼女はフルフルと首を横に振った。ポロッと涙が溢れて「大ちゃんじゃなきゃダメなんだよ」なんて可愛いことを言っている。


「...俺もだよなまえ。これからもそばにいてください。」


手を伸ばして花束を差し出せばボロボロ泣きながら「断られたついでに振られると思ったよー」なんて言いながら受け取ってくれる。どうやら別れを覚悟でプロポーズしてくれたようだった。そんなことさせて俺ってば情けない...なんて落ち込むのだけれど、男としての覚悟と、自分への自信が俺の背中を押す日まで、もう少し待っていてください。

















ハイスペック彼女と年下彼氏


(なまえ、俺トイレに行きたい...)
(嫌だ。離れたくないー!)
(...可愛いけどさすがにトイレは行かせて...)



大ちゃんは年上彼女に甘やかされたりでろっでろに愛されてたり、そんなイメージもあります(*^_^*)!うまく話がまとまらなかった...とりあえず、大ちゃん大好き贈り物したいそばにいたい心配でたまらない!彼女と、彼女が高嶺の花すぎて万年悩み倒す大ちゃん(*^o^*)ハイスペックなのはとにかく大ちゃんに気に入られたい、バスケダメになっても私が養う覚悟から来ている設定...(*^o^*)






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