毎日が君色に染まる (深津)





「なまえ」

『...もう!こんな暇あるなら練習して下さい!』

「もうしてきたピョン。」


大学が終わりアルバイト先で労働を終えると、必ず店の前に立っているこの深津一成。私が出てくるなり平然と後をついてきて「なまえ」と名前を呼んでくるのだ。ちなみにストーカーではない。彼氏でもない。家まで送ってくれるっていうだけなのだけれど。


「これ、使うピョン。」


赤信号で止まれば私の首にぐるっとマフラーを巻いてくれる深津さん。目が合うとほんの少しだけ笑ってくれた。


『.......あ、ありがと...ございます......。』


あぁ、もう。調子狂うなぁ...。そもそもこの人プロのバスケットボール選手でかなりの有名人だしこんなとここんな時間に歩いてていいのって思ってしまうのだけれど...。


「風邪引くなピョン。あと、チョコ期待してるピョン。」

『......ふぇっ?!何それ!!』

「もうすぐバレンタインだピョン。」


ちなみに本命以外は受け付けないピョン、なんて追加された台詞。あわあわと慌て始める私に深津さんは冷静に「楽しみだピョン」なんて抜かしているではないか。うう、なんだよその前もって欲しい宣言する制度は!!作らなきゃいけない気になってくるじゃんか....もしやこれが狙い?あぁ、もう。


「明日はバイト?」

『あ、いえ...次は15日......。』

「わかったピョン。これ、来るピョン。」


あっという間にマンションの前に着き深津さんはそう言って私の手に一枚の紙切れを握らせ「おやすみ」と手を振って帰っていったのだ。


『.....14日の公式戦のチケット.......。』











深津一成というプロのバスケ選手と特に普通の大学生の私が何故出会ったかと言えばそれはまさしく「合コン」であった。普段そんな所行かないのに友達から「すごい人が来るの!」なんて強引に連れて行かれ、それは深津さんもまた同じであったらしくお互い嫌々参加した先で顔を合わせた。何故だか最初から深津さんには積極的に話しかけられていたような気がするし今でもこのありさまだ。それ以来彼が勝手に迎えに来るため頻繁に顔を合わせている。そもそも聞かれてシフトを素直に教える私もどうかと思うけど...。


けれども本当にあの「深津一成」なのか疑問に感じる時があったのだ。だって彼は深津一成にして一切私にバスケの話をしない。そして試合に誘われることも一度もなかったのだ。だからこそ今手の中にある一枚数万円はするであろうこのチケットが珍しく、そしてやっぱりあの人は「本物」だったのだと胸が熱くなってしまう。


『行くからにはチョコを........』


持っていかなきゃいけないような気がする。でも本命以外は怒られそうだし...。まぁ他に渡す予定の男もいないのだからいいのだけれど。でも改めて「本命」と意識しちゃえばドキドキしてくるのが素直なところだ。あぁ...深津一成の作戦にはめられたような気がしないでもない...。













『.......本当にあの深津さん、だよね.......?』


目の前で華麗にコートを駆け回るあの人は本当に私の知っている深津さんなのだろうか。バスケットにはそれほど詳しくないけれど出身校の湘北高校はなかなか強かったように思う。特に二つ上の流川楓、桜木花道の代は凄かった。今でも伝説級に語り継がれているだろう。


さほど詳しくない私でさえ深津さんの動きが並大抵のものじゃないことがわかってしまう。一瞬でも目を離せばもう別のところにいる深津さん。瞬き厳禁とはこのことだ。


『あっという間に勝っちゃった........。』


ただただ「すごい...」なんて見惚れている間に試合は終了となった。呆気にとられながらも荷物を持って座席を立つ。とりあえず作ってきたチョコレートは当然の如く渡すタイミングなんて無く明日でもいいだろうか、なんて思い始めていた。人の流れに乗りながら出入り口へと向かう途中、横から「みょうじなまえさんでしょうか?」なんて声をかけられた。


『...あ、はい......。』


警備の格好をした人だった。私が不思議そうに答えれば「こちらへどうぞ」なんてどこかへ歩き始める警備員さん。次第に「立ち入り禁止」と書かれた扉の先へと入っていき私は慌てて「あの...」と声をかけたのだ。


「平気ですよ。みょうじさんを見かけたら連れてくるよう言われておりますので。」

『へっ...?』

「深津選手のご指示でございます。」


な、なんだそれは...なんて驚いている間に「控え室」と書かれた部屋の前に到着してしまう。警備員さんは「どうぞ」なんて言葉を残しさっさと去っていくし私に一体どうしろと.......。


コンコン、と控えめにノックした。中からは「はい」なんて男の人の声が聞こえてきた。


『...あの、深津さんは...』


ゆっくりと開けて顔を覗かせればそこには「あ」なんて声を出す深津さんがいて。よく見れば彼ひとりで広い部屋は他に誰もいない。


「入っていいピョン。」

『...失礼します......。』


私が入るなり「来てくれてありがとう」なんてお礼を言ってくる深津さん。さっきまでの面影はなくてのんびりとした口調がいつもの深津さんらしい。正直とってもかっこよかった。もう鳥肌が止まらないくらい。


『深津さん、普段と違いすぎますよ......。』

「?」

『勝ちましたね。おめでとうございます。それと、これ。』


持ってきていたチョコレートを差し出せば深津さんは私に近寄りながら「本命ってことでいい?」なんて落ち着いた様子で聞いてくる。反対に試合中からドキドキが止まらない私は平常心を装いながら深津さんが来るのを待っていた。


本命でいいのかと聞かれたらなんだか恥ずかしいし素直に頷けないのだけれど、でもそう言われた上で用意したってことだから、自分でもこれは本命だと認めることになるんだよね...?なんかもう、わからなくって。でも深津さんはいつも優しいしのんびりしているように見えて男らしいし、何より今日は......


「なまえ、答えて。」

『......最高に、かっこよかったです......。』


深津さんは固まり何度か瞬きを繰り返した。けれどもすぐさま私の手からチョコを受け取るとそのままの流れで引き寄せられる。


『わっ.......!』

「......ずるい、なまえ。」


気が付けば深津さんの腕の中で。いい匂いに包まれて私の胸はどんどん鼓動が早くなる。


『深津さん......、』

「なまえ、好きだよ。」


耳元で囁かれるそれに肩がビクッと跳ね上がってしまった。深津さんはそんな私の様子にクスッと笑い「いつか同じ気持ちになってくれたらいい」なんてこれまたそんな甘いセリフを耳元で言ってくるんだからずるいのは完全に深津さんだと思う。


『.......もうなってますよ........。』

「...それはない。俺の愛は深いから。」

『なにそれ...ていうか、ピョンは?どこ行ったんです?』

「どこかへ消えていきました。.......ピョン。」


ぎこちない使い方......そう笑えば深津さんは「もうわかんねーや」なんて楽しそうに笑い始めた。ゆっくりと腕の中から解放されてどちらからともなく引き込まれるように唇が重なった。


















「好き」がこんなにも溢れてる


(なまえ、一緒に帰ろう)
(...深津さん明日の予定は?)
(午後から練習)
(............うち、泊まっていきます?)
(い...いきます、ピョン...)
(珍しく動揺してますね...)



深津さん!!深津さん!!ついに深津さんの短編が(;_;)全く動じないところが本当に大人っぽいのに変な語尾使うもん......最高です........。深津さんの登場をひとりでも多くの人が喜んでくれたらいいです☆








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