愛のカタチ (南)





今日もまた龍生堂のレジ横でぼうっと座ったまま動かない店の店員。いつかのカリメロヘアは卒業し少し短めの髪に金色のピアス。白衣を着て目はいいくせに眼鏡をかけた完全薬剤師っぽくない容姿でぼうっと座っている。お客さんからは見えない位置にテレビが置いてあるのも知っているし普段は音を出さずに字幕を出して見てるのも知ってる。


『しっかり働かないと。客ゼロやん。』

「....あ、なまえ。何しに来てん。」


座ったまま私に視線を移したこの無気力幼馴染、南烈は私が手に持っている紙袋を見て「なんやそれ、旅行でも行ったんか」なんてちっとも女心がわかっていない間抜けなことを抜かしている。


『カレンダー見いや。今日14日やで。』

「......?なんかあったか?」

『...これなのにモテるもんなぁ、不思議やわ...。』


純粋に疑問に思うそれを口にすれば南は途端に怪訝そうな顔になり「はよ正解教えろや」なんて半分キレているではないか。


『バレンタインでしょ。はい、チョコレート。』

「......バレンタイン、か......」


差し出した紙袋を「なるほど、それがあったか」なんて納得しながら受け取る南。今年お互い26になろうとしているもうすっかり大人になってしまった私たちだけれど、関係性は変わらなくって。幼い頃からずっとこの日は手作りのチョコレートを渡している。きっとこの先も変わらないんだろうな。私が結婚して地元を出ていくことがなければ。


「サンキュ。ありがたく頂きますわ。」

『そうしてや。ほな実理のとこも行かなあかんから。』


サボってばっかやなくて仕事せなあかんで。いつもの調子でそう南に言えば「うっさいわ」なんてこれまたいつもの調子で返事が返ってくる。


『実理おるかなぁ....お邪魔しました〜。』


龍生堂の二軒隣にある実理の家へと向かう為、南に手を振って歩き始めればそれは後ろから引っ張られたことによって止められてしまったのだった。


『.....私せっかくの休みやねん。南の暇つぶしには付き合わへんよ。』


振り向けば真顔で私の腕を掴む南がいて。かわりに店番させられることや暇つぶしに付き合わされることが容易に想像でき言われる前に丁重にお断りする。せっかく仕事休みだってのに振り回されたくないもん。


「......ちゃう。そんなんやあらへん。」

『......ほな、何?』


珍しく南の考えていることが読めなくて返事を待っている間、南はジッと私の手を見つめた。実理の分のチョコレートが握られたその手。


『...何?実理に用でもあるん?かわりに伝えてくるからはよ教えて。』


ジッと見つめられたらそう思うのが普通だと思うんだけどね。










「......なんで、岸本は「実理」呼びなん?」

『......は.......?えっ......?』


何を今更...。戸惑う私を他所に不機嫌全開といった顔で「なんでや」と続けた南。それこそ私の方が「なんでや」って言いたいけど......。


「そんで、なんでアイツにも俺と同じもん渡すんや。」

『....なんでって....二人とも幼馴染だからやろ....。』


意味がわからない。昔から南と実理は私にとって幼馴染で何をするにも一緒であったから。こんな日は昔から二人に平等に同じものを渡していたわけだし.......だってそうせな二人喧嘩するやんか.......


「幼馴染...なんやのそれ。」

『なんやのって...南どうしたん?さっきからおかしいで...。』


「ハァ」なんてあからさまにため息をついた南。一体どうしたというのだろうか。幼馴染やめるなんて言い出しそうな勢いの南から早く逃れたくて強引に掴まれた腕を振り解く。南は無表情のままでそんな彼から逃げるようにして龍生堂の出入り口へと走った。


「...なまえ、待たんかいな。」


ワンテンポ遅れて喋った南に捕まりたくなくて急いで出ようとするものの出入り口手前で再び私の腕は南に掴まれてしまった。






『なんやの.......離してや。』

「離さへん。」

『......ほんまに意味わからんわ......。』


どうしたら正解なのか、私にどうして欲しいのか、何もわからないまま、けれども腕を離してくれる気はないらしい。次南が何か言うまで絶対に口を開かないと決めた私。どれくらい時間が経っただろうか。突然パッと掴まれていた腕が解放され自由になった。


『..........帰る。』

「...........なまえ。」

『もうさっきからほんまに何.....っ、』


言い途中の私の両肩をガッと掴む南。私より15センチほど高い位置から真剣な視線が降り注ぐ。かなりの至近距離で目が合ったまま、そのまま時が止まったようなそんな感覚になった。






『南........?』

「なまえ、結婚しようや。」


...........は?この人今なんて言った.........?私の聞き間違えやなかったら「結婚」とか言わへんかった?


『.......いま、なんて......』

「せやから結婚や。お前も南になればええよ。」

『な、何言うてるん......結婚て......私ら付き合うてもないやんか.......。』


正しいことを言ったはずの私に「だからなんやねん」なんて言い返してくる南。え?私が正しいよね?違うの?結婚って、あれよね?私と南の考える結婚って違うもんなんか?


「付き合うだけ時間の無駄や。必要ないやろ。」

『なんなんそれ.......、ぶっ飛び過ぎてて意味わからん.....。』

「今日から俺のことは「烈」やで。南はなまえもやからな。あとこれは没収や。」

『あっ......実理のチョコ......!』


私の手からヒョイッと取り上げられたもうすぐもうひとりの幼馴染の元へ渡るはずだったチョコレート。南はそれを自分の背中に隠すと「あかんで」なんて笑ってる。


「人妻が他の男にチョコレートなんぞ許されへんやん。」

『...は、はぁ?!誰が人妻やて...?!』

「俺の奥さんやろが。これは完全なる浮気やぞ。」

『痛っ......』


意味不明なことを楽しそうに言いながらデコピンしてくる南。まだ何も言ってないっていうのにすっかり「妻」扱いされている私。なんなんほんま意味わからんけど.......


「明日不動産屋でも行こか。新居探しや。」

『........ちょっと、考える時間すらくれへんの......』


けど、目の前で余裕たっぷりに笑う南を見てると「あぁ、それもありかもな」なんて心のどこかで思ってる自分もいて。それに、そんな私の考えでさえもこの人にはお見通しなんやろな。だってその笑み、相当自信に溢れとるやん.........馬鹿。


「そんなん必要ないやろ。何?断る気なん?」


あぁ、もう。なんでこんな......南の大馬鹿者.....。


『...断ったら?』

「んなことさせるかいな。」


フッと笑って近づいてくる南の顔。「馬鹿」と呟き目を閉じれば「どっちが」なんて返事が聞こえた後私と南の唇は重なったのだった。








「一回しか言わへんぞ。」

『......うん。』

「俺の嫁さんになってください。」

『......仕方ない。なってさしあげましょう。』

「馬鹿。」

『痛っ.......』













大事な人ほどすぐそばに


(...ちょい、店番しとってや。)
(へ?!何で?!)
(オカンに結婚する言うてくる。)
(お前ん家は明日挨拶に行くわ。)




南ぃ〜〜(;_;)☆☆最近再び南くんがキテます...つよしみのりのコンビと幼馴染になりたかったです。なんだかんだお互い回り道しながらも最後は結婚して欲しいなっていう思いで描きました(^^)ホワイトデーにはみのりくん出てくるよ!!










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