禁断のスカーレット (仙道)





数週間後に引越しを控え俺はひとり部屋を片付けていた。その時不意になったインターホン。よっこらせと立ち上がり玄関を開ければそこには見慣れた顔があったわけだ。


『久しぶり、仙道くん。』

「なまえちゃん。珍しいね。」


ほら、入って。と彼女を引き寄せれば「大した用じゃないよ」なんて遠慮気味に言うなまえちゃん。彼女は大学の同級生で同じ学科であり、互いにもうすぐ大学卒業を控え、もう大学へは行っていない為久しぶりに会った相手でもあった。


『ごめんね、引越しの準備忙しいよね。』

「ううん。それで、どうしたの?」

『あ、今日バレンタインでしょ。これ。』


カーペットの上に座ったなまえちゃんが俺へと差し出すのは可愛くラッピングされた箱で。あ、そうか。今日2月14日だったんだ...。俺がそんな顔してたのか「やっぱり日付の感覚なかったでしょ」なんてなまえちゃんには見透かされていた。


『どうせ釣りか家にいるかどっちかだな。』

「そんなことはないよ。バスケの練習もしてる。」

『でも釣りの方が多いでしょ。プロになったら釣りなんて行く暇なさそうだし。今のうちに釣り溜め?とか思ってるな。』


...本当にこの子は鋭いんだから。ニコッと笑った俺に「ほらね」なんて悪戯っ子みたいに笑い返すなまえちゃん。その顔があまりに可愛くて不覚にもトクン、と胸がときめいてしまう。


そうだ、最近忙しくてすっかり忘れてた。この感じ、なんだか懐かしい........


「ありがとう。美味しくいただきます。」

『そうしてもらえると嬉しいです。』


正直俺は大学四年間この子のことが好きだったと思う。近寄ってくる女の子は多かったけれどこれ程までに距離を縮めた女の子はいなかったから、二十二年の俺の人生の中で一番大切な女の子であることは間違いないだろう。


けれどもそれに気づかぬフリをしたり「そうじゃない」と言い聞かせていたのには理由があった。


俺は人のものには興味ないんだ。


「でもいいの?俺もらっちゃっても。」

『仙道くんが言いふらさない限りバレるルートがない。』

「お、そりゃ責任重大。」

『なんでよ。黙ってればいいの。』


もう...なんてため息をつくなまえちゃんには俺が出会った頃からすでに彼氏がいて。だからこそ俺の想いは封印しておくべきだったし、ましてやその彼氏も知らないやつじゃなくて。


「.....帰ってこないの?日本に。」

『さぁ?どうだろうね。』

「彼女が大学卒業するってのに?」

『大したことじゃないんじゃない?就職も地元だしなんら変わりないよ。』


そうかなぁ......なんて首を傾げる俺になまえちゃんは「東京に遊びに行った時は試合観に行くね。」なんて話題を変えてくる。きっとあのことには触れられたくないのだろう。なまえちゃんの彼氏の......流川のことには........。


「おー、いつでも連絡して。特等席用意しとくよ。」

『それは楽しみ。しっかり試合出てね。』


4月から東京の地元のチームでプロになることが決まっていた俺になまえちゃんは「楽しみだなぁ」なんて嬉しそうに笑ってくれる。俺が誘いを受けてチームが決まった時も一番喜んでくれたのはなまえちゃんだった。あ、あと大学は違うけど越野もね。


『それじゃあ...帰るかな。引越し頑張ってね。また卒業式に。』

「......待って。」


急にフラッと帰ろうとするなまえちゃんの腕を掴み彼女を静止させた。しばらく大学へは行っていないしなまえちゃんと会ったのも久しぶりだからか抑え込んでいた想いがつらつらと溢れ出てくる。まだここにいて欲しい。先ほどから流川の話を避け、ふとした瞬間ほんの少しだけ暗い表情をするなまえちゃん。それがアイツとうまくいっていないことを示していることくらい俺にはわかっていた。






「なまえちゃん、そんな顔されたら帰せないよ。」

『........何の話?』

「寂しいなら寂しいって言っていいんだよ。」


俺の言葉に表情を曇らせて「平気だよ」と呟くなまえちゃん。そのか細い肩をそっと抱き寄せて俺の腕の中に閉じ込める。俺の中で「仙道くん...、」と口を開いたなまえちゃん。


『...戻れなくなる前に、離して欲しい。』


その言葉が意味することを俺は瞬時に理解した。


「許されるよ、きっと。」

『どこが......。絶対だめだよ。』

「だったら、そのまま別れちゃえばいい。」


人のものに興味はなかったはずだ。横取りしたり奪い取ったりだなんて悪趣味だと思ってた。けれどもどうやらなまえちゃんのこととなるとそうはいかないらしい。今目の前で俺に向かって「離して、お願い」と涙目で訴えてくる彼女だけはどうしても手に入れたいらしい。


今までずっと我慢していた想いがブワッと溢れ出す。


「...離さない。」

『嫌だ......。楓を困らせたくない......。』

「俺ならそんな顔させないよ。なまえちゃんのこと泣かせたりしない。」


どんな時もそばにいるし、いつも笑わせてあげる。俺がそう言っている最中から腕の中で鼻を啜るような音が聞こえ始めた。あぁ、もう。いつもこうやってひとりで溜め込んで泣いてたんだろうか。こんな姿を知ってしまってはもう後戻りできない。


「さっきなまえちゃんが言ったんじゃん。」

『.............』

「 “ 黙ってればいいの “ ってさ。」


そっと優しくなまえちゃんの唇にキスを落とす。軽く触れて離れたそれ。至近距離で目が合うとどちらからともなく引き寄せられるように何度も何度も深いキスを繰り返した。


「......なまえちゃん、俺多分、手加減出来ない.......」


繰り返されたキスと今までの想いと彼女の甘く漏れる吐息によって俺の体は制御不能となっていた。そんな俺の必死の言葉に彼女は「いいよ、来て」なんて煽るようなことを言うではないか。


「なんだよそれ...随分余裕だな......」

『よく喋る...仙道くんの方が、余裕じゃん...。』


そのセリフを聞いた瞬間流川の顔が浮かび上がりたちまち心がモヤッとする。長い時間一緒にいれば徐々に似てくるものなのだろうか。時たま「流川に似てるな」と思うことはあったけれどこんな時にそう感じたくはなかったな.......


頭に浮かび上がった流川という男を掻き消すかのようになまえちゃんにキスを落とす。手際良く彼女が身に纏うものを脱がせてしまえば「あんま見ないで」なんて恥ずかしそうにシーツに包まるなまえちゃん。見ないでってそんなの「見て」にしか聞こえないな....


「可愛い、綺麗だよ。なまえちゃん。」

『......見ないでってば、』

「そんな、無理だよ........。」










気持ちよさそうな顔をするくせにその度にギュッと目を瞑るなまえちゃん。恥ずかしいのか、それとも俺と目が合わないようにしているのか。抱いているのは俺なのに頭の中には流川がいるのだろうか。そう思えば思うほど嫉妬と俺だけを見て欲しいなんて欲望で腰を打ちつけるスピードが速くなってしまう。


『いやっ......もっと、優しく......、』

「無理......手加減.....出来ねーって........、」


手に入れたいと思えば思うほど彼女はどんどん俺の元から離れていくような気がして柄にもなく必死になってしまう。余裕ねぇな、本当に.......


「俺だけ、見てよ......目開けて.......。」


涙が溜まった大きな瞳と視線が交わる。奥の奥まで突くように腰を打ちつければなまえちゃんの表情は歪み甘い声が漏れる。


「......好きだよ、なまえちゃん...........。」


俺の言葉に彼女は涙を流すだけだった。

もう、今だけでもいい。今だけでもいいから俺のことだけ見ていて欲しい。俺のものにならなくたってもういいから、どうかこの時だけは夢を見させて欲しいと願いながら、甘い吐息が漏れる彼女の唇を乱暴に奪った。


















想いをぶつければぶつけるほど彼女は悲しそうだった


(.....この時が永遠に続けばいいのにね.....)






あぁー...なんか思った通りにかけなかった.....。迷いに迷って仙道くんは少し大人っぽく禁断の恋っぽく仕上げようと思ったのですが.........(;_;)楓ちゃんには内緒です!!二年ズこれにて終了。三年ズは社会人編....これがまた個性豊かでな......。








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