My heart has no rule (沢北)
「最近なまえさんに会いました?」
俺の問いに首を横に振る河田さんと深津さん。なんだよ、同級生だろ......近況くらい知ってろよ、使えねーな.........。
「沢北、お前まだなまえのこと好きなのか。」
「まだってなんなんすか!別に俺の勝手でしょう!」
「アメリカ行ってもなまえのことばっか考えてるピョン。」
こんなことならフラれとけばよかったピョン。
深津さんの言葉にイラッとして何か言い返してやろうかと思ったけれど生憎その通りで何も思い浮かびやしなかった。ちくしょう.....。
アメリカに行って三年半。たまたま秋田に戻っていたら駅前で河田さん深津さんコンビに遭遇し改めて飯でも行こうなんて話になった。今回の帰省は長くてあと一週間ほど日本にいられる。2月の秋田は尋常じゃないほど寒いけれど......。ちなみにこの二人は順調に大学生を全うしており今三年生らしい。二人とも揃って同じ東京のバスケ強豪校にスカウトされていつまでも仲良くしているこのゴリラとピョン吉。相変わらずだな....なんて思うけれど、何を隠そうこの二人、なまえさんと同じ大学なんだと言うではないか。
今日だってなまえさんの近況を知りたいがためにわざわざ時間作って誘いに乗ってやったってのに...使えねーにも程がある...。
「同じ大学なのに会わねーんすか?」
「学部違うピョン。それになまえは大学でも人気だピョン。」
「は?何それ......!!」
大学生ってのは学部が違うと会わねーもんなのか?高校すら途中でいなくなった俺にはサッパリで、でもピョン吉の言葉は聞き逃せなくて.......
「バスケ部の奴らにいつも紹介しろって言われるピョン。」
「ダ、ダメダメ!!絶対そんなのダメっすからね!!」
「そんな面倒なことしないピョン。」
もう!やっぱりどこ行ったって人気者なんだから...なまえさんの馬鹿......。なまえさん山王時代も超がつくほどの人気者だったし一つ年上ってこともあってかやたらと大人っぽく見えて「綺麗なお姉さん」ってな感じが俺のどタイプだったんだよな.......実際世間話するくらいには仲良かったけど俺途中でいなくなったしな.......
「確か、15日までいるって言っていた。」
「......は?何がです?」
突然の河田さんの言葉に俺が首を傾げていれば「なまえだよ」なんて意味不明な返事が返ってきた。
「秋田に15日まで。」
「.......え?!今秋田に戻ってきてんの?!」
「あぁ。確かな。」
.....は?!え、ちょっと待って.....?
「ガッツリ近況知ってんじゃねーか、ゴリラめ...!」
「...さーわーきーたー!!」
いや、ありがてーけどさ!そんなこと知れて!!でも知ってたら知ってたで「なんで河田さんがそんなこと知ってんだよ」って言いたくなるし、つーかなんで先に言わねーかな?15日まであと3日しかねーよ!
羽交い締めに合う俺に隣の深津さんが「チョコレート作戦だピョン」なんて可愛い作戦名を口にしてくる。は?可愛いけどピョン吉が言うと気持ち悪いわ。
「...チョコレート?」
「バレンタインだピョン。今年は逆チョコが流行ってるピョン。」
「逆チョコ...ってなんです?」
アメリカ在住、日本の流行にはめっきり弱い俺がそう聞けば何故かゴリラの方が「男が女に渡すんだ」なんて言うじゃねーか。
ん?男が女に......?
「あぁー、だから逆チョコか.......。」
「流行ってるしなまえも憧れてたピョン。」
「え?!何それ!!」
「聞いたピョン。逆チョコって女的にはどうか...なまえ「いいと思う」って言ってたピョン。」
な、なんでそんなこと聞いたんだよ!なんてもう言わないでおく。それはいい情報だ、ありがとうピョン吉...たまには役に立つ...。
「っし、じゃあ俺!チョコレート渡します!!」
「もういっそのことフラれたほうがいいピョン。好きにしろピョン。」
「なんで!まだフラれるって決まったワケじゃ...俺アメリカでもそこそこ頑張ってるし日本でも有名人でしょ?!」
「自惚れるな、馬鹿め。」
「痛っ........。」
なんだよ!なんだよ!なんなんだよ!!少しくらいチャンスあるだろうが。ん?チャンス.....?
「ていうか!なまえさん彼氏いないんすか?」
「........今はいないピョン。」
「え?!今は......?!いたってことっすよね?!」
肝心なこと聞き忘れてたー...なんて思ってたらピョン吉の引っかかる返事。ま、あんな綺麗な人だし彼氏くらいいるだろって思うけれど実際言葉にされるとショックではある.........ま、でも!今はいないんだし!俺が告白してもチョコ渡してもいいってことだよね!
「ま、今はいないみたいだ。気にするな。」
「......よし!!逆チョコ作戦だ!!」
「フラれてスッキリしろピョン。」
「......そこは応援するとこっすよ!ピョン吉め!」
「...よし、10分前。」
なんとか必死にお願いして深津さんになまえさんと連絡をとってもらった。14日、午後8時。待ち合わせの場所にひとりで待っている俺の手元には小さな紙袋。あの後ねーちゃんに散々頼み込んで一緒に生チョコを作った。いや、ほぼねーちゃんが作ったけど。料理ってマジで難しい。
『......沢北くん?』
「...あ、なまえさん!こんばんは!お久しぶりっす!」
『本当に久しぶりだねー!すっかり有名人になっちゃって...もっと変装しなくていいの?』
トコトコと俺の元に駆け寄ってきたなまえさん。相変わらず綺麗で...つーかなんか...高校生の時でさえ大人っぽくて綺麗だったのにさらに美しさが増して...なんかもうすごい、直視できねー......。
「平気っす。誰も気付かないし。」
『本当?かっこいいし目立つけど.......。』
か、かっこ....いい....。体が震えるほどにその言葉に衝撃を受けてしまう。なんだよ、そんなサラッと...心臓に悪いよ...。
けれどもなまえさんは多忙のようで約束を取り付けたのはいいもののほんの15分ほどしか時間がとれないと深津さんから聞いていた。だからこそ少し移動して俺は持っていた紙袋を差し出す。
「なまえさん、ずっと前から....好きでした。」
『.........え.....、』
「これ、もらって下さい。俺と付き合ってほしいです。」
年下なんだから年下男子らしく逆チョコ作戦!なんて心の中での叫びも虚しく、頭上からは「ごめんね」なんて聞こえてきて...。
「え.......」
『すごく嬉しい。沢北くんの気持ち全然気付いてなくて、ごめんね。私少し前まで付き合ってた人がいて...まだ全然気持ちが切り替えられてないの。』
そう言うとなまえさんは「これ手作りなの?」と問う。
「あ......はい...。」
『そっか。図々しいけどこれだけはもらってもいいかな。気持ちだけ受け取っておくね。ありがとう。』
俺の手から紙袋をもっていくなまえさん。
.....なんで、なんでだよ!俺バスケも頑張ってるし日本でもニュースや新聞に出てるってたくさん連絡くるし実際山王時代の女の子たちからアプローチだってすごいんだぞ....なのに、こんな俺に興味なんてねーってか...元カレ忘れられなくて俺を振るってか...。
「...それでもいいって言ったら?」
『えっ?』
「俺がそんな男忘れさせるって言ったら...?」
なまえさんは目を見開いて固まった。「遠距離になっちゃうけど...」と続けた俺に何も返事を返してこない。
「どんな状況であってもなまえさんが好きだから彼女になってほしい。そりゃ彼氏がいるんなら諦めるけど、そうじゃねーんなら........」
ダメですか?
そう問う俺になまえさんは「ダメだよ...」と呟く。
「なんで...?」
『まだ、大好きなの。未練がましいけど忘れられないの。』
.....ムカツク。どこのどいつだよ、なまえさんにこんな事言わせる野郎は!!大好きだって?!こんな綺麗な人にそんなこと言わせて、当の本人は今どこで何してんだよ!!
『沢北くんが傷付くだけだよ。』
「そんなことない。俺はいつだってなまえさんが好きだった。隣にいてくれるんなら絶対傷付かない。」
『......稔くんでも?』
「へ......?」
なまえさんはそう言って俺を見つめる。その顔は少し寂しそうだった。
『私の忘れられない人が、沢北くんの先輩でも...?』
「........それ、どういう.........。」
『松本稔。私の元カレだよ。』
ま、松本さんって、あの松本さんであってるよね....?山王時代の一個上の松本さんで、あってるよね....?えっと...あの人がなまえさんの..........
「...松本さんと、付き合ってたんすか...。」
『うん。高校の時からずっと好きだったの。』
「えっ........!」
『大学に入ってやっと付き合えたと思ったら...こんなことになっちゃって......』
なまえさんは続けて「だからごめん」と俺に言う。
『本当にありがとう...。沢北くん、アメリカ戻っても頑張ってね。』
「.........嫌だ。」
『......え?』
嫌だ、嫌だ、絶対に嫌だ。こんなの無理だ。相手が松本さんってのもすげームカツクけど....そんなの置いておいて、このままなまえさんが傷ついたままってのが絶対嫌だ。なんだよ、そんなのいつまでも引きずらないで新しい恋でも始めてみりゃいいだろうが。
「....俺が忘れさせる。」
『沢北くん...?』
「なまえさんのことこのままにしておけない。」
このままアメリカなんか戻れねーよ...何が頑張れだよ、頑張れるかよ。応援するんじゃねーよ。
『いいの。私は平気だよ。ありがとうね。』
「平気じゃねーのに笑うな........。」
『................』
「そんな悲しそうな顔で笑うんじゃねーよ。どこが平気なんだよ。全然そんな風に見えねーし....このままなまえさん置いてアメリカになんて戻れない。」
平気だと言うんならもっと平気そうに笑って欲しかった。そんな姿見たら最後。俺はもうこの人から離れられないんだろう。心の底から心配だ。好きすぎてもうどうにかなりそうだよ.....
『ご、ごめん....そんなこと思わせて....。』
「俺じゃダメですか?俺じゃ松本さんのかわりになれないのかな...」
こんなに好きなのに.......
『沢北くんを傷つけたくないの...。』
「....傷付くか傷付かないかは俺が決めることだろ。」
俺が彼女の腕を引っ張って歩けば黙ってついてきた。初めこそ「沢北くん!」なんて声がしていたけれどそれも次第に止まった。その全てを肯定だと捉える俺は間違っているのだろうか。でも、もうそんなことどうだっていい。
「.......可愛い、なまえさん。」
俺の下でジッと俺を見つめるなまえさん。瞳の奥がゆらゆらと揺れている。その理由に松本さんがいるのもわかってるし、口を開けば「やめて」だの「なんで」だの言いそうだ。
『沢北く.......っ、』
うるさい口は塞ぐしかない。何かを言い始める前に唇を奪ってやった。
「......もう、何も考えなくていい。」
今から俺に黙って抱かれればいい。俺に興奮して俺を求めて俺の為に鳴けばいい。
『沢北くん......ごめんね.........。』
「違うよ、なまえさん。ごめんじゃなくてありがとうにして?」
なまえさんの目から一筋涙が溢れた。あまりに綺麗なそれに一瞬目を奪われる。
「...俺だけ見てればいいよ、なまえ。」
彼女は俺の下でコクッと静かに頷いた。
『......栄治だけ見てるね.......。』
控えめに涙目で発されたそれ。これでも抑えていた全てが爆発する合図だった。
「.....栄治って、もっと呼んで.....っ、」
『......っ、栄治......』
「なまえ....可愛い....俺のものになって......。」
お願い 君しかいないんだよ
(.....栄治、かっこいい.....ずるい......)
(.....待って。そんなに煽らないで。)
(でも嬉しいから後でもう一回聞かせて。)
エイジ〜〜〜〜(*^o^*)(*^o^*)栄治は一途でずっと同じ子好きでいそうで手を出すのが早そう。どうもそんなイメージです。別に悪い意味じゃないんだけれど、意外と女の子抱いてそうだなっていう....たらしとかじゃなくて好きな子だけに一直線って感じです(^^)へたれなんだけどへたれじゃないエイジが好きです。最初はギャグでいこうと思ったけどついつい最後そんな感じにしてしまった.....(>_<)エイジ可愛い、とても好きです。