Love Magic (越野)





「...は?彼女連れてくる?!」

「うん。いつもみんなの話してるからさ。会いたいって聞かなくて。」


ヘラッと笑って「ごめんね、いいかな」なんて悪びれた様子もなく俺に言う仙道。ムカツク....。


2月13日、久しぶりに集まろうなんて植草に声をかけられていた。陵南の同級生たちで集まることになっているとはいっても仙道、福田、植草、そして俺。たったの四人だけれど。


大学は違うのになんだかんだ近い距離にいる俺と仙道はかなり頻繁に顔を合わせており最近コイツに彼女が出来たのも知ってはいたけど、何?!連れてくるだと?!陵南の集まりに.....?!


「ダメだって言ったらどうなんだよ?」

「俺が怒られる。あと集まりには行けなくなる。」

「彼女優先だってか...。」

「拗ねられたら面倒なんだよ。」


.....すっげーむかつく。そりゃお前の彼女のことはお前にしかわかんねーんだろうけどさ?なんかその振り回されてます感がすげーむかつくんだよ。面倒なことは嫌いな俺だけど、大学二年にもなれば少しくらい振り回れてみたい欲が出てくるわけだ。あぁーこの仙道って男はいつもいつも俺の欲しいものばっかり持ち合わせてやがる.....


「....別に俺は構わねーよ、好きにしろ。」

「本当?ありがとう、越野。」


にしてもお前だけ彼女同伴ってのもなんかなぁ。俺だってそんな相手がいれば......。


「じゃあ明後日、一緒に行くからね。」

「おー。遅刻すんなよー?」

「わかってる。あ、そうだ。俺がいいってことは福田もいいんだよね?」

「.....は?なんの話?」


福田?何が?なんて首を傾げる俺にコイツはまたヘラッととんでもねーことを言うじゃねーか。


「あれ?知らない?福田も彼女出来たんだよ。」

「..........は?!」


えっ......福田って、あの福田に?!彼女......?!


「植草にも連絡しとくか。あ......越野は、彼女いないっけか?」

「待て。植草....も?!」

「うん。彼女出来たって。あれ?越野何も聞いてないの?」


............聞いてねーよ、なんだそれ.............!


「越野は?ひとりで来る?」

「.............」


どいつもこいつもなんなんだよ...。つーかマジで聞いてねーし!植草に彼女できるんなら俺にだって.....。いや、そんな相手いるわけねーし.......悔しい.........。


「ま、仲の良い子でもさ?連れてきたら良いんじゃない?」


........なんなんだよ本当にお前らは........。












「...つーことがあってさ、明日が憂鬱なわけよ。」

「そんな集まりサボっちゃえばいいのにー。」


越野さんって本当に変なとこ真面目ですよね。なんて多分失礼なことを言ってるであろう目の前の女。バイト先である居酒屋で手際よく料理を盛り付けながら「でもやっぱ悔しいんでしょ。」と図星をついてくる。生意気な口を利いてはくるけれど仮にも俺はこの子よりひとつ先輩だ。


「いいよな、彼女持ちのやつはさ。バレンタインだって愉快なイベントなんだろうよ。」

「愉快...。」


綺麗な顔で「だったら、その日限定でカップルになっちゃえばいいですよ」なんて提案してくるこの子は海南大に通うひとつ年下、そして清田の彼女で藤真の妹。まだ19歳にしてなんとも度胸があり人生経験豊富な藤真の妹は「いい考えでしょう」なんて笑っている。


「は?意味わかんねーこと言うな。」

「見栄張ったらダメですよ。なまえー!」


藤真妹の声により皿洗いをしていたみょうじが「なに?」なんてこちらへ駆け寄ってくる。


「なまえ明日暇?」

『暇だけど...ご飯?私も行きたいと思ってたの!』

「ご飯はご飯だけど私とじゃないよ。」

『えっ...?』

「越野さんと。行ってきてくださいな!」


バシッと俺の背中を叩きその弾みで一歩前に出た俺。みょうじは目をまん丸くして俺を見て「え...?」と呟いた。


「は?!お前何言ってんだよ!!」

「もーうるさいんだから。協力してくれるんだからなまえに感謝してくださいね。」


まだみょうじ協力するも何も言ってねーしそもそもなんでこんな........。ぼけっとする俺をよそに事情を説明して「越野さんの彼女ってことで」なんてみょうじに言い聞かせている藤真の妹。いやいや、待ってくれよ、俺は別にそんな誰かを巻き込んでまで......それにみょうじはぶっちゃけすごい可愛いし......よく店に来る客にも連絡先聞かれたりしているし.......え、彼氏とかいねーのかな.......なんか..........








『わかりました。明日よろしくお願いします。』

「えっ........い、いいの.......?」

『はい。越野さんにはいつもお世話になってますし。』

「なんか、ごめんな........ありがとう.........。」


いえ、なんて笑う顔が柔らかくて可愛くて。藤真の妹と同じ海南大でも人気があるって噂なのに.........いいのかよ.............。
















「よー越野。おっ.....可愛いねー!」


集合場所に着けば既に植草も福田もあの仙道も彼女を連れて俺を待っていて、着くなり俺の隣にいるみょうじにちょっかい出し始めたのは仙道だ。隣にいた彼女に軽く背中を叩かれて「痛っ」なんて言っている。


「...つーかお前らなんで彼女出来たこと言わねーの?」


福田はまだしも植草なんてしょっちゅう顔合わせてるくせになんなんだよ....と俺がそう問えば「越野には言いづらかったんだよー」なんて答えるじゃねーか。なんだよそれ!!腹立つな!!


「なんだ、そういうことなら言えばよかったよね。」


植草は隣にいるみょうじを見て「ごめんね、越野」なんて謝ってくる。まぁ、彼女じゃねーんだけどさ。でも話してくれないのはムカツクわ。例え気を遣ってくれてたとしてもだ。






「越野の彼女で、合ってる?」


予約した店へと歩いている途中、「仲の良い子」なのか「彼女」なのかはっきりさせようとした仙道がコソッと聞いてくる。


「あー、実は.....」


完全に俺の彼女だと思い込んでいる植草には言いたくねーけど、仙道にはどっちにしろばれそうだし...なんて本当のことを言おうとすればそれはみょうじの声により掻き消された。


『ひろくんの彼女です。』

「........!!!」


ブフッて吹き出した俺なんて無視して仙道は「ひろくんかぁ〜お熱いな〜」なんてヘラヘラ笑ってやがる。



い、いやいやいや......!!



ひ...ひろくん?なんでそんな...あっ!藤真の妹が吹き込んだな?!あいつマジで......!!


「大学生?年下?」

『はい。海南大の1年です。』

「そうなんだー。越野とはどうやって知り合ったの?」

『バイト先が同じなんです。ひろくん本当に優しいし仕事も出来るし困ったら助けてくれるんですよ。』

「わぁ.....越野やるじゃん!」


さすがーなんて仙道に肘で突かれて俺は真っ赤な顔を隠すように下を向いて「うるせーな」なんて言い返すのに精一杯だった。


わかってる。藤真の妹が仕組んだことだと。言わされてるってことも。それでも顔は赤くなるし体は熱くなる。みょうじみたいな可愛い子に言われたらもう仕方ねーんだけどさ。













未成年であるみょうじに合わせて俺も酒は飲まなかったし、帰りはそれぞれ行き先が違うから店の前で解散となった。仙道は終始ヘラヘラしながらみょうじに絡み、最後の方は「仙道くん」「なまえちゃん」なんて呼び合っていた。心の底からムカついたのは秘密にしておく。


「ごめんな、今日は本当に....。」

『いえ!すごく楽しかったです!』


越野さんの友達、面白い人ばっかりですね。なんて笑ってくれたのは嬉しいけど呼び名が元に戻ってしまったことに少しだけ寂しくなった自分がいた。


「そうかな...あー見えてもバスケでは中々の成績だったんだよ。」

『聞きました!高3の時、全国で準優勝したって。』


本当にすごいです。そう言って小さく拍手してくれるみょうじ。なんだよそのパチパチパチっての。可愛いからやめてほしいわ。


「つーか今更なんだけどみょうじ、彼氏とかは......」

『いないですよ。いたら今日引き受けてないです。』

「あ、そうだよな...。本当にありがとう。すげー助かった。」


だよな。彼氏いたら引き受けねーよな、普通。その通りだ。なんて納得しながら歩いていれば不意に俺の手とみょうじの手がバチッと触れてしまいピリッと流れる静電気。


「あっ、........悪い。大丈夫?」

『平気です。すみません....。』


........あぁぁぁ!もう!!なんでこのタイミングで手がぶつかるかな?あぁもう...心臓に悪すぎる...さっさと帰ろう.......。


『家ここなので。ありがとうございました。』

「あ、おぉ。本当にありがとう。おやすみ。」

『楽しかったです。おやすみなさい。』


バタンと扉が閉まり彼女の後ろ姿が俺の視界から消えた。


「......ハァ.......」


「ひろくん」と呼ばれ高鳴る胸。「越野さん」に戻り痛む心。


「帰ろう.........」


これ以上は危険だ。













「越野さん、昨日どうでした?」


世間的には今日はバレンタインデーらしく俺が出勤した頃には店内はカップルで満席であった。


「あー楽しかったよ。」

「なまえどうでした?越野さんの彼女になりきれてました?」


俺が着くなり早々話しかけてきたのは藤真の妹で興奮気味に俺の返事を待っている。


「うん、なりきれてた。あの仙道も信じてたし。」

「嘘ー!さすがだわなまえ...。」


今日はみょうじは休みらしく彼女の姿はない。更衣室に入り着替えようと俺がロッカーを開ければそこには心当たりの無い箱が置いてある。


「ん?なんだこれ...?」


よく見れば可愛くリボンもついていて.....「越野さんへ」とか書いてあるんだけど.....?


「えっ....!!」


え、待って。俺にチョコレートってこと?!あ、もしかして藤真の妹からか?今出勤してるメンバーで俺にチョコ渡す可能性のあるやつといえば....あいつしかいねーしな。あ、そうかそうか。いつも仲良くしてやってるからお礼ってか。


完全に義理だとわかりホッと肩を撫で下ろす俺はその箱を手に取る。


「義理にしちゃ随分立派に包んでくれたな......」


さすがは藤真の妹....ぬかりねーな....なんて思っていれば「越野さんへ」と書かれ貼り付けられた紙切れの右下に何か書いてあるではないか。


「ん.....なまえより.......?!」


えっ......!!


いやいや、待って。だってあの子今日休みじゃなかった?!なんでロッカーにチョコが.........







「あーあの子さっき来てましたよ。みんなにクッキー配って帰ってったけど。」

「く、くっきー.........」

「それが何か?越野さんの分もロッカーにあったでしょ?」


クッキー.....。さっき俺は見た。中身を確認した。俺のは.....クッキーじゃなかった。


「あんなケーキみたいなクッキーって存在しねーよな...」

「ん?」

「中がスポンジでしっとりしてて上に白い粉が...」

「...それガトーショコラじゃないですか?越野さん?どうしたんですか?」














これ以上はダメだと言ったのに......


(.....ダメだ、勘違いするな俺.....)



越野くんが「ひろくん」って呼ばれて怒る感じが本当に好きです(笑)誰にでも呼ばせたくなっちゃいます...(^^)







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