君という永久迷路 (清田)





今年こそ。今年こそは絶対に渡す。去年もその前も渡す渡すって意気込んでは渡せずやけになって自分で食べてしまったチョコレートたち。高校生になって初めてのバレンタイン。今年こそは絶対に.........!


「おーなまえ。おはよー。」


朝練終わりなのだろう。若干髪が濡れてるノブは今日もかっこいい。汗なのかそれともシャワー後なのかそんなのはどうでもいい。ニカッと笑うその顔が昔からちっとも変わらなくて私は大好きなんだ。


今日は絶対に渡す。ノブに食べてもらう。少しでも可愛いと思ってもらえるように髪も巻いてきたしメイクも少し気合い入れた。味見も何度もしたしノブの好きな甘さに仕上げた。


いける。今年はいける.....今年こそ.....!


『...髪濡れてるし。汗臭い。』

「なっ、仕方ねーだろ!朝練終わりなんだしよ!」


.......ミスったぁあ!そんなこと言いたいわけじゃないよ!何いつもみたいに喧嘩売ってるんだ私は!!今年こそ渡すんじゃなかったのか....!!いやでもそもそも普段が普段なだけに今更「おはよう」なんて可愛く挨拶できないし、したところで「え?お前頭大丈夫?」なんて言われるのがオチだ。


でもだからって、今のは無いだろう!!朝練終わりのお疲れの人にそんなこと.........あぁ、神様......私には微笑んでくれないのですね..........え?神様関係ないって?だってもう神頼みくらいしか方法ないよ!!


「どーせ俺からは爽やかな匂いなんてしませんよーだ!!」


フンっと言い残してノブは教室へと向かっていった。







『......ど、どうして......私の馬鹿.......。』










幼馴染というのは便利でもあり時に厄介だ。その厄介が具体的にいつなのかと言えば関係性が「幼馴染」から「男」に変わった時だ。もう昔のことすぎていつノブのことを「男」として見出したのかなんて覚えていない。けれども毎年毎年このバレンタインデーは後悔と反省の1日になり、その反省は翌年に生かせないという負のループが続いているのを見る限り相当長い期間片想いしていると思ってもいいのだろう。


幼馴染。響はいいしその名の通り距離も近い。けれども近すぎてとてつもなく厄介なのだ。「幼馴染」という壁が分厚すぎて「好き」を伝えられない。近寄ろうとするほど壁にぶつかって跳ね返される。告白したら「幼馴染だろ」と言い返されるのが本当に怖い。そしてフラれるのが怖くて告白はできないけれど友達よりは距離も近いからとこの「幼馴染」という立ち位置に依存しすぎている自分がもっと怖い。


私が今年、その怖さを知った上でもノブにチョコを渡し告白しようと意気込んでいるのには理由がある。ノブは高校に入ってから信じられないほどにモテるのだ。中学までは猿要素が強くて運動神経が良くても「清田は本能で生きてる」なんて言われていたのに、この海南大附属という一種のブランドのような名前のおかげか彼が5割増でカッコよく見えるらしく、特に年上の先輩たちから「清田くん」「清田くん」と言い寄られている姿を何度も目にした。


確かに高校に入ってからのノブはかっこいい。私の目にもフィルターが掛かったのかってくらいたくましくかっこよく映るのだから間違い無いんだろう。こんなに長く見てきた私が認めるくらいだからね。


だからこそ焦っていた。いよいよこの出口が見えない清田信長という深い長い迷路から脱出しなければいけない。入り込んでからずっと迷っていたけれど、もうその先を行かねば.....先手必勝。誰よりも先に.....。













『って......昼休みになっちゃったよ.......』


ガックリと肩を落とした私に隣の席の男子生徒が「どうした?」なんて心配してくる。どうしたもこうしたもない。チャンスを見計らっていたらあっという間に昼休みですよ。放課後は部活行かれちゃうし終わるまで待ってるっていうのも多分チャンスないし幼馴染としての特権を使って家で渡す?でも........もしかして今?今がチャンス?もう今しかないんじゃない?!


思い立ったらすぐ行動!!私がチョコレート片手に教室を出ればすぐ近くでお目当ての人物が立っているではないか。拳を握りしめて近寄ろうとしたところで「清田くん!」なんて声がして、ノブが誰かと向かい合って立っていることがわかり慌てて柱の影へと隠れた。


「これ....食べて下さい!!」

「お、俺にすか?あ...ありがとうございます.....」

「清田くんのために作りました!」


照れ臭そうに笑う女の子は同じ学年で可愛いことで有名な子で。同じように少し照れ気味に受け取るノブに女の子は「他の男子には作ってないから」なんて言い切るではないか。


「えっ.......」

「清田くんにしか作ってないから....。」


それはイコール本命......。


ぼうっと立っていた私の近くをいつのまにか顔を赤くしたノブが通り過ぎていって。自然と自分の手に力が入るのがわかった。


あぁ、もしかして...出遅れたのかな...いやそもそも...チャンスなんてなかったんじゃないのかな....だって「幼馴染」じゃん。

















結局渡さないまま放課後となった。あの女の子の赤く染まった顔が頭から離れない。あんな可愛い子がノブを好きだなんて。そっか、やっぱりアイツかっこいいんだな........他の子から見たって.....。


渡さないんじゃなくて、渡せないんだ。怖くて渡せない。やっぱり私は「幼馴染」。


トボトボと歩き下駄箱にたどり着いたところで「おい」なんて声が聞こえてくる。なんとなくノブの声のような気がして、でもきっと私に向けての言葉じゃないだろうなんて決めつけて無視していたら急にガッと肩を掴まれた。


『えっ........』

「無視すんなよ。帰んのか?」


そこにいたのはやっぱりノブで、どうやら私に向かって声をかけたらしい。今から部活なのだろう。手には大きな鞄が持たれていてその鞄の隙間からひょこっとピンク色のリボンが顔を出していた。


あれ、さっきあの子があげてたのはリボンなんてついてなかったはず.........。


追い討ちをかけるようなそれにやっぱり気持ちはズンズン沈んでいく。


『部活頑張ってね、それじゃあ。』


渡せない。大勢の中のひとつに埋もれるのも、彼女が出来たなんて聞かされるのも怖くて何も出来ない。もう逃げでもなんでもいい。早くこの場から居なくなりたい。


「......待てよ。」


でもそれを阻止したのは紛れもなくノブで。


『え、なに.....?』

「なまえ、チョコレート誰かに渡した?」

『............なんで、?』


突然の問いに意味がわからない。長年共に過ごしたせいかノブの考えてることなら大抵はわかるのにこればっかりは意味不明であった。なぜそれを聞く?


「いいから。答えろよ。」

『?......友達に配ったけど......。』

「友チョコ...........男は?」


お、男?


『.............ねぇそれ聞いて、どう...........』


どうするの、まで言わせてもらえなくて。ノブの「渡してねーならそれでいいから」なんて声にかき消されてしまう。


『.........、』


願ってもいないけれど、もしかしたらこれはチャンスなのかもしれない。今ここで渡す絶好のタイミングなのかもしれない。


でもそれを阻止するのは先ほどからずっと見えているノブの鞄の中から顔を出したピンク色のリボン。怖い。もう誰かに告白でもされたのかもしれない。


『.......もらってたよね、たくさん。』

「.....は?」

『見てた。ノブ、たくさんいろんな子からもらってたよね。』


言わなくてもいいことがポロポロと口から出てしまう。だめだ、こんなの言ってどうする。彼女でもないのにそんなこと言って、ただ気持ち悪いだけなのに........


「.....まぁ。......で?誰かに渡したのかよ?」


どうなんだよ、なんてすっかり話題を元に戻して一歩近づいてきたノブ。もうこうなれば.......!


『.....ひとり。』

「......男だぞ?!ひとり?!.....誰だよ!!!」


どうにでもなれ。なんて半分諦めモードでノブの前にチョコレートを差し出す。昨日何度も味見してノブが美味しいと思ってくれるよう改良を重ねたこのチョコレート。いつか小学生の時に素直に渡せなくて、夜遅くノブの家に「これ余ったから」と強引に渡しに行った時以来だ。


『いま、渡した。ひとり。』


私の言葉を聞いてノブは目を丸くして固まった。ワンテンポあけてから「あ、ありがとう...」なんて呆気にとられたような顔で受け取ってくれる。なにその顔、なんか........悲しくなってきた........


『じゃあ、私帰るね。』


渡した。渡したからもういいや。さっさと帰ろうとした時ノブは私の腕をガッチリと掴んだ。


『?!』

「確かにもらった。他の子にも先輩にも.....。」

『....知ってるよ。』


何を今更。ムカつく奴......。


「でも、俺が欲しかったのはこれだけだから。」


ノブはそう言って私のあげたチョコレートを見つめた。


『........え?』

「やっと、やっと手に入った.....。」


ノブは私があげたチョコレートをぎゅっと抱きしめるように握りしめ幸せそうな顔で笑っていた。


『....ノブ、』

「ありがとう、なまえ。」

『................』

「っし、部活行ってくるかな.....。」


ノブ、ずるい。なんでそんなこと言うの、ずるい.......。


色々なことが重なって頭がパンクしそうな私。部活に向かうノブを黙って見つめながらどういうことなのか考えていたら彼は突然止まって私の方へ振り向いた。


「...ホワイトデー、300倍にして返すから!楽しみにしとけよ!!」


私の大好きな笑顔でニカッと笑って軽くスキップしながら体育館へと消えていく。


『.........なんなの......馬鹿野郎...........。』


ムカつく。なんかすごいムカつく。でも、やっぱり......


『......だいすき。』



彼という迷路からはまだ出られない。











高鳴る鼓動、全て君のせい


(神さ〜〜ん!聞いてくださいよ〜!....うおっ?!)
(......部室がチョコで溢れかえってる......)
(しかも全部牧さんと神さん宛............)




最後は部室を開けた瞬間溢れ出てきたチョコに驚くノブちゃん。奥の方でチョコに埋もれた宗ちゃんが「ノブ、ごめんね、もらいすぎちゃって」と悪びれた様子もなく言ってくるというね。そこまで考えてました(^o^)v笑
こーゆー好きだけど恋人まで行かない関係がとても好きです。しかし文にするのは難しい。お気付きかと思いますが学年順に描いてます!1年ズは全員高校でのバレンタインという設定ですが、2年ズと3年ズはもう少し大人になる予定!





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