超積極的彼女 (南)






大阪に転校すると両親に切り出された時、私の一生をかけてこの二人を呪ってやろうかと思うくらいに前の高校では充実した生活を送っていた。


それがどうしたことか。


『南くんおはよう!』
「.........」
『おはようってば!南くん!』
「.........チッ。」
『チッ、じゃないよ!このカリメロ!』
「...誰がカリメロやバカ、うっさいねん。」


あ、しゃべった。

それだけで私はものすごく幸せでとんでもない幸福感で天に昇りそうになる。だって今の言葉は私だけに向けられたもの。南くんの口から、南くんの意思で出た、南くんよって作り出された、南くんの声が私に向けて発せられた、そんな素敵な一言なんだから。


今日も私は豊玉高校へ転校して来たことを幸せに思い、両親へ感謝の気持ちでいっぱいなのだ。え...都合がいいって?何を仰る、人は単純なくらいが扱いやすくてちょうどいいんだよ。


南くんは自分の教室へと入っていく。私は3年6組で南くんの隣。かれこれ大阪に住んで1年半になるけど未だに関西弁には慣れないし、自分の口からは出てこない。南くんについてもバスケ部のキャプテンでありエースということくらいしかわかってないのだけれど、大阪在住1年半にして南くんに片想い歴1年半。これだけは自信を持って言えるんだ。


「まーた南なんか追っかけよって...そのへんでやめときや?」
『おはよう岸本くん。何を仰るやら。』


あんなん追いかける価値ないで?と岸本くんはそう言いながら私の隣の席へと座った。同じクラスに岸本くんがいるなんて私はなんてついているんだろうとクラス替えの時喜んだのを忘れるわけがない。もちろん南くんと離れたのはショックだった。でも南くんと一心同体の岸本くんさえ近くに置いておけば、必然と南くんは引き寄せられて私のクラスへとやってくるのだ。








「岸本ぉー」


ほら、やっぱり来た。

ポケットに手を入れて、学ランはどこかへ消えて、黒いセーターに、第一ボタンを開けたワイシャツに緩くネクタイを巻いたどこかゆるっとしているのに完璧な着こなしの今日も最高にかっこいい南くんだ。その黒いセーターの毛玉になりたいと何度願ったことか。南くんのその綺麗な指につままれてゴミ箱へ捨てられたい。。


「なんや南。」
「数学の教科書、頼むわ〜」


気の抜けたフワッとした声がやけに可愛くてまだ眠いのかな?とか完全にオフモードの声だな?とか色々な妄想が膨らむ。机の中から教科書を探る岸本くんの横で、ニヤニヤしながら南くんを見つめていたら一瞬目が合った後、南くんの顔は不愉快とでも言いたげなものに変わり、それもまた私にとっては嬉しいことであった。


「ほれ...あ、なまえ届けてきてや。立つのだるいねん。」
「いい、俺が入るから。」
『私が届ける!南くんはそこでストップ!』


ズカズカと歩みを進めようとした南くんにそう声をかけ、私は岸本くんの手から数学の教科書を奪うと教室の扉へと向かった。半分くらい嫌そうな顔をした南くんに「はい」と差し出せば無言で受け取り教室へと戻って行く。


『後ろ姿も完璧......。』
「なーにが完璧や。そもそもアイツ数学の教科書持ってきてるくせに何を借りに来とんねん。」
『......何それ詳しく!』
「アイツ、ロッカーに全教科書入れてあんねん。予習するタイプちゃうし絶対持って帰ってないねん。いっつも部活ん時、鞄の中弁当しか入ってへんもん。」


南くん、それなのにどうして教科書なんて借りに来てるんだろう......?


「ま、少しは期待してもええんとちゃうの?」
『何を?......もしかして、次は私に教科書借りにくるかも?!』


そうとなればこうしちゃいられねぇ.....!

慌てて全教科書を持ってきて1枚ずつページをめくる。案の定所々に「南くん」とか南くんの似顔絵とか、「カリメロ」とかそんなことばっかり書いてあって、とてもじゃないが貸せる状況にない。消しゴム片手に徹底的に消して行く。


「......そういうことやないねんけどなぁ。」


岸本くんの嘆きは聞こえなくて私は目の前の作業に夢中だった。










あっという間に世間はクリスマスになった。高校生は何かと面倒で、クリスマスだろうが学校はある。朝いつも通り登校すればいつももう少し遅くて、必ず同じ時間に来るはずの南くんが既に下駄箱でローファーを履き替えていた。


『南くん、おはよう!』
「.........」
『今日は早いね?朝練あるって岸本くんが昨日言ってたような......?』
「......急に無くなったんや。」


その返事に「あ、なるほど。」と返せば南くんはフッと笑った。その笑顔があまりにもかっこよくてとんでもなくて、一気に頬が赤くなってしまう。そもそも普通に会話のキャッチボールしたことが信じられないし、、笑ってくれるなんて...。


朝練が無くなるとは珍しい。バスケ部は強いからいつもきっちり朝練やってるし、だからこそ朝練終わりに必ず同じ時間に南くんは廊下を通るんだけど。靴を履き替えてるなんて貴重な姿を拝められて最高のクリスマスプレゼントです、ありがとう......。









「岸本ー」


岸本くんの名を呼ぶ南くんが現れて私は途端に慌てた。岸本くんは部活の先生に呼ばれてるといい職員室へ行ってしまったからだ。


『南くん、岸本くんなら職員室に行ったよ。』
「......なんや。なら数学貸してや。」
『...わ、私?!』


「おん」と当たり前と言ったような南くんの声が聞こえてついにこの時が来たと思った。この間綺麗に落書きを消した数学の教科書を震え出す手で南くんへと差し出せば南くんはそれを受け取ってくれた。


「サンキュ、次返しにくる。」


.........サ、サンキュ......?!


「ん?なまえそないなとこ立って何してん。」
『.........来たんだよ、岸本くん!』
「何がや?」
『サンタクロースが来てくれたんだよ!!』


ハァ?!と声を出した岸本くんにガッツポーズをして見せれば「よかったな」なんて呆れながらも拍手してくれる。うわぁぁあ!!ついに感謝される日が来た!この私が、南くんの役に立つ日が...ついに来たんだわ.........。


『サンキューはこっちのセリフよ、神様!』
「...ついに頭逝ったんやな。」


次南くんが返しにくるまで、約1時間ほどあるわけだ。もちろんその間は授業なのだけれど、でも少しでもいいから可愛い自分でいたい。だって南くんは私の教科書を持って、私に返すためだけにわざわざ来てくれるわけだよ。


『岸本くん、もう少しスカート短い方がいいかな?』
「ハァ?マジでどうしたん?」
『生脚は女の武器でしょ。髪もポニーにしよっかな?』
「......わからんけどなまえはいつでも可愛いで?」
『何それ岸本くん.........ありがとう.........!』


ギュッと両手を包むようにして岸本くんの手を握れば少し戸惑ったような顔で「おん」と言う。それ南くんも言うやつだよ〜〜最高。





あっという間に授業は終わり、いつもと違う自分を見せる大チャンスだとスカートを短くし髪をアップにしてその時を待つ。まもなくして「おい」と声をかけられて、扉へと視線を向ければやっぱり南くんが立っていたのだ。


「これ、返しに来たで。」
『あ、わざわざありがとう......。」


途端になんだか恥ずかしくなってモジモジしてしまう。やっぱり南くんって最高にかっこよくて、普段なら平気なことも今は平気ではない。こんなに気合いを入れた私は南くんの目にどう映るのか考えただけで身体が震えるくらいに緊張してきた。


「......ええやん。」
『...うえっ、?!』


何故だか私のポニーテールに人の手のようなものが触れてくすぐったく感じた。変な声が出てその正体を辿れば何故だか南くんにたどり着いた。


.............はっ?!


「じゃあな。」
『............っ、う、うそ............?』


今、私の髪に触れたよね?
南くんがスッと撫でたんだよね?
ええやんって......髪型ってこと?!


何も聞き返せないままその場に立ち尽くす。



どこか上の空のまま次の授業が始まり次は数学だった。南くんから返ってきた教科書を指定されたページへと開けば、なぜだか隅の方に落書きがある。全部消したはずなのに...と目をやれば私は信じられないものを目にしたのだった。









“教科書サンキュ。
メリークリスマス。 南 “











『あ、あの!南くん!』


普段からよく食堂でバスケ部の後輩たちとお昼を食べる南くん。まさに今行こうとしていたようで私の方を振り向くと少しだけ機嫌の悪そうな顔で「なに?」と言った。


『......期待してしまうので、嬉しいんだけど......今度からはいつも通り、岸本くんに借りてください...。』


「そんなの当たり前だと思ってるだろうけど」と付け加えれば「お前やっぱりうるせー奴だな」と吐き捨てられた。怖くなって南くんの方は見れない。いくらなんでもおこがましかっただろうか。


だって、あんなメッセージもらったら無理だよ。好きが爆発してどうにかなりそうだよ。完全に遊ばれてる。私の反応見て楽しんでる。そりゃ好きだし普段からアピール頑張ってるけど、私だってこんな風に接するのにかなり勇気を出してるんだ、これでも。遊びで相手されたら傷付くよ。


『ご、ごめんなさい...。失礼しました......。』


慌てて南くんの教室を出ようとした時、なぜだか腕を掴まれた。


「うるさいねん、ほんまに。」
『ご、ごめんってば...。』
「うるさいのに、なのに、声が聞けると嬉しいねん。」


私の中のありとあらゆるものを全て駆使しても、その言葉の意味は理解できなくて考えてもわからない。何も言わない私を見て南くんは「ハァ」とため息をついた。


「俺かて勇気出したんやで、あれ書くのに。」


だから、岸本に借りろなんて返事聞きたくない。


そんなこと言うみょうじはほんまにうるさいわ。





『南くん、あの.........、』
「メリークリスマス、みょうじ。」
『......メ、メリークリスマス......』


南くんは笑った。

今まで見た中で一番綺麗に笑った。そして私の頭を撫でた。私の元にサンタがやってきた。最高のプレゼントを本当にありがとう.........!!!














ツンデレとはこのことを指すのかと頭の中が爆発しそうだった。


(いやいやいや、今の何?!無理!イケメン!!)
(...今日も一段とどうしたんやなまえ!)
(岸本くん〜〜〜〜私今ならしねる。)
(...南のやつやりおったな?!)



南くんAになりました〜〜( °_° )これにてクリスマス企画は終了です。ありがとうございました!好きなのに無視して、でも顔見たくて嘘つきながら教科書借りにきてる南くん。。岸本くんは気付いていながらもヒロインちゃんを軽くいいなと思っており応援したり半分本気で南なんかやめとけって言っていたり。。そんな感じであって欲しいな。。





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