04




クリスマスもまだだっていうのに友達はもう「華金だし忘年会して語り尽くそう」とか言い出した。いつも仲良くしている三人と、授業終わりに居酒屋へ行けば、毎日顔を合わせているにも関わらず次から次へと話題が出てきて、やっぱりマシンガントークになる。いつものことだ。


「いや、本当に二股かける男はやめておきな?」

「でも私が一番だって言うんだよ。そんなこと言われたら無理。」

「一度やる奴はまたやるの!さっさとやめなさい!」


自分のことは誰にも話していないから、彼氏もいないし好きな相手もいないという設定だ。友達は私と全く同じ状況にいて、ついつい「わかるわかる」と言ってしまいそうになった。危ない。


「仮に彼女と別れて付き合えたって、ゴールじゃないからね。」


割と恋愛経験豊富な子がそう言うと、その場が静まり返った。あまりにも説得力のある言葉に誰も口を開けない。…南に限って絶対に違う!なんて言い切れない。そもそも私以外にもそんな存在がいるかもしれない。確認したわけじゃない。体だけで繋がってる子が他にもいたら?…どうするの、私は。体の相性がいいからって、ただの欲求を満たす為だけの道具だったとしたら?それでも本当に平気?


仮に付き合えてもゴールじゃない…そこからが始まりってことか…確かに恋人になってしまえば、話は変わってくる。次は浮気しないでいて欲しいし、自分にしたみたいに体を求めて誰か違う子をキープするかもしれない…そうなったらどうするんだ?確実にないとは言い切れない。だって既にやってみせたのだから。私が一番よく知っている。

大学で抱かれた日から南はまた気まぐれに私の家に来ては私を抱いた。あれ以来栄治のことを気にしてか、来る前に連絡が来るようになり「今いい?」と短い文が届くたびに胸が高なった。栄治といえばここのところ、私の元へは来ていない。進路のことでテツさんと揉めてるのかもしれないし、もう外泊は禁止されたのかもしれない。さすがに三泊はなぁ…まずかったよな…


「なまえも可愛いんだから、変な男に捕まんないようにね!」

『ありがとう…そこら辺は、大丈夫。』


何が大丈夫だ。ちっとも大丈夫じゃない。


二軒目行こう、なんて話になりブラブラと繁華街を歩く。よさそうな店を見つけた瞬間、隣の友達が「あぁ!」なんて言い口を手で押さえた。


「どうしたよ!気持ち悪い?」

「違うよ!見て見て!南とあのミスコンの彼女!」


口元を手で覆い、抑え気味の最大限の声量でそう言う友達。どれどれ…なんてみんなが楽しそうに目をやる。私はというと突然出てきたその名前に動揺してしまい指差す方向は見れなかった。南と先輩…?


「あ、もしかして入るんじゃない?あそこ…」

「うわぁ…リア充爆発しろ…!」

「うわ、入ったし。盛んな年頃だな!」


下品なヤジに気を取られて不意に目を向けてしまった。手を繋いで歩く南と先輩が、ラブホテルに入っていく決定的瞬間を目撃してしまったのだ。あまりの衝撃にほろ酔い気分だった私は一気に酔いが覚め、涙が溢れそうになる。そりゃそうだ、付き合ってるんだから、私以外とだってそんなことするし、むしろそっちが本命だよ。わかりきってるのに、なのに…











入った二軒目で、これでもかと酒を煽った。


得意でもなければ飲めなくもない。寂しさや苛立ちを隠すようにぐいぐい飲めば友達たちは「どうした!」なんて心配してくる。もういい、何もかも……嫌だ……


「なまえ歩ける?タクシー呼ぶか〜?」

『平気…家近いし、また月曜日ね。』

「うそぉ、あんなに飲んだんだよ〜?」


まだ何か言っている友達を無視して帰路につく。とっくに日付は変わっていて頭も痛い。あんなに飲んだのに思ったよりも酔っていない自分に余計に腹が立つ。いっそのことベロンベロンになって記憶をなくしたかった。忘れたかった…見たもの全部…


少しだけよろける足取りで家へと着実に近づいて行く。その時突然隣から腕を掴まれて、私の腕は誰かの肩へと回す形になった。


『へっ…?』

「…馬鹿野郎にも程があるだろ!いったい何時だと思ってんだよ!ひとりでフラフラ出歩く時間じゃねぇし、そもそもそんな無防備な状態で…」

『栄治…?』


何やらガミガミ怒っている栄治がいて、もしかして夢の中にたどり着いたのかも…と栄治に向かって手を伸ばす。私の手は栄治の頬に触れ、冷えた頬っぺたを触ることができた。肩で息をするくらい呼吸が上がっていて鼻は赤い。私が触れた瞬間栄治は怒っていたのにピタッと止まり、微動だにしなくなった。


『栄治、なんでここにいるの…?どうしてそんなに、怒って…』

「…探してたんだよ、家行ってもいねーから…」


「馬鹿なまえ」と言い捨てた栄治の顔は真っ赤だった。私は栄治の頬を両手で包むようにして触れたまま動かず、栄治もまたそれを許してくれるかのように、その場に止まっていてくれる。


「…迎えに来た。帰ろう。」

『栄治、ありがと…』

「説教は家でね。寒いから行くよ。」


頬を包んでいた手を優しく下ろされて今度は栄治の手と繋ぎあって家までを歩く。本当に寒くて息は真っ白だ。それなのに栄治と繋がれたそこだけは熱を持っていて不思議な感覚になる。温もりってあったかいんだなぁ…










「…で?なんでこんな時間まで?」

『忘年会だよ。女子四人でねぇ…えへへっ、』

「何笑い出してんだよ、俺は怒ってるよ。」

『だって…栄治来てくれて嬉しかったの…』


家に着いた途端、私は隣に栄治がいてくれることにやけに安心していた。あんな場面を見た後、ひとりぼっちになってしまえば確実に泣くから。栄治がいてくれるだけで笑顔になれる。ありがたい…本当に。


それと同時に最近の私も以前と同じように、南にここで抱かれている…それを思い出し、うしろめたさと申し訳ない気持ちも湧いてくる。栄治、あんなに怒ってくれたのに、私は懲りずに…


「はいはい、忘年会もいいけど、タクシー呼ばないとダメだろ。それとこんなに遅くなったらダメ。」

『ごめんね、栄治…』

「最近来てなかったからな…この時期もっと注意しておけばよかった。」


最近進路のことで忙しくて…と栄治は呟く。やっぱり自分の将来について考えている大切な時期なんだ…それなのに、こんなに遅い時間に私のわがままに付き合わせてしまって、なんだかいたたまれない。それを察したのか「今日は親にも泊まること言ってきたから」と言ってくる。どうやら私が帰ってくるのをマンションのエントランスでずっと待っていたらしい。忠犬だなぁ…わんこ…


『ごめんね栄治…寒かったよね、なんか飲む…?』

「いいから、もう寝ろ。明日バイトは?ねーの?」

『無いよ、だから栄治と一緒に寝る。』


とりあえず適当にパジャマに着替えて歯だけ磨けば栄治も部屋着に着替えていた。ベッドで寝るのはこの間も経験したし大丈夫だから、ポンポンと隣を叩けば少しだけ顔を赤くした栄治がよそよそしく隣に座った。


『座ってたら寝れないよ…中、入ろう?』

「本気で、一緒に…?」

『この間も寝たじゃん…電気消すね。』


返答はなかったけど豆電球にして部屋を消灯した。モゾモゾとベッドに潜り込む。冷えた体を温めようと丸まっていれば何故か栄治は向かい合うようにしてベッドに入ってきた。


至近距離で目が合いそこから少しも動けなくなる。あれ、この間は同じ方向見て寝たのに…私がそう口を開こうとすれば、栄治はさらに距離を縮め息がかかるくらいまで近くなった。


『え、えいじ…?』

「そう何回も、我慢できねーぞ、俺は…」


この間も触れた唇。でも前回とは違い何度も何度も深く絡み合うようにキスしてくる。完全に上に乗られてしまい軽く胸板を押してもびくともしない。ちょっと…待った…!


『…栄治っ、……苦しいよ……』

「ごめん…なまえ。またここで…アイツに抱かれたろ。」


ギクッとして肩が跳ね上がる。何でわかったのか…そう顔に出てしまう。真上にある栄治の顔が瞬時に曇って睨みをきかせた怖い顔へと変化した。


「だと思った…ダメだろなまえ。早く忘れてよ。」

『…なんで、なんでよ…』

「俺にして。ずっとずっと、なまえしか見てこなかった俺にしてよ。」


そのセリフとあまりにも艶っぽく色っぽい表情に、瞬時に胸がキュッと苦しくなり、ドキドキが止まらない。この子は栄治。なのに、私の知らない栄治であって…いつのまにこんなにしっかり「男の人」になってしまったのだろう…


「抱きたい。」

『…えいじ、』

「めちゃくちゃに抱きたい。なまえのこと壊したい。」


もういい、と思った。利用するなんてひどいことするのはわかってる。それでも…忘れたい…南のこと…


『…栄治、お願い…栄治以外見えなくなりたい…』

「…もう無理だからな、可愛すぎか…」


一秒が惜しいくらいに必死に求められて、私はすべてを栄治に捧げた。ずるい女だってことはわかってる。傷付いた後慰めてもらおうだなんて…最低な女だとつくづく思う。でも、栄治の真剣な顔から目が逸らせない。もうなんでもいい。壊して、お願い。私の頭から南を消して。栄治以外考えられないようにしてよ…


「なまえっ、可愛い…動くからね…」

『う、うん…えいじ…』

「もっと、俺の名前…呼んで…」


何度も何度もその名を呼んだ。呼ぶたびに栄治は
「なまえ」と私の名前も呼んでくれる。南じゃない人に抱かれるのは初めてなのに、南とする時よりもずっとずっと愛を感じて、愛されている感覚が嬉しくて、幸せな時間に感じた。


「なまえ、本当に大好き…俺のものっ、」


外が明るくなっても、私達はベッドの上で乱れ愛し合い、そして繋がっていた。
















このまま二人で旅に出ようか


(…うわぁ、とまらねぇ…可愛い…)







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