恋愛天邪鬼 (越野)





「あ、魚住さんの妹......」
『...越野さんまたですか?!私はなまえです!』


大体廊下ですれ違ったくらいで何反応してんだか俺は。1年マネージャーの魚住さんの妹は名前を呼んでもらえないことに普段から腹を立てている。無理ないだろう。3年の池上さんの友達らしき先輩からも「魚住の妹」と呼ばれてるのを何度か見かけたこともあるし、その時の様子はやっぱりこうやってプリプリ怒っていた。


『ところで何か用ですか?』
「...別に用なんかねーよ。じゃあな。」
『.......なんなの本当に.......。』


ぶつぶつ文句を言いながら移動教室らしい魚住さんの妹は隣の友達と歩いていった。そもそもなんで声なんかかけたのか自分でも呆れてしまう俺はため息を吐きながら廊下を歩く。目的地のトイレにたどり着く前にどこからか現れた仙道に声をかけられた。相変わらず周りの女子がうるせーな。


「よぉ越野、俺のなまえちゃんに声かけてたな?」
「いつからお前のもんになったんだよ。どちらかと言えば魚住さんのもんだろ。」
「ハハ、確かに。いい加減好きって認めたらいいのに。」
「誰が誰を好きだって?!意味不明なこと言うな!」


ドカッとパンチを決めれば痛い〜〜なんてヘラヘラ笑いやがる。本当に仙道って奴はムカツク......。周りの女子も「越野くんひど〜い」やら「越野くん乱暴!」やらうるせーんだよ。休み時間ごとに何仙道の周りをうろついてんだか。趣味悪い。







放課後いつも通り部活に出る為体育館へ入ると何やら楽しそうな声が聞こえてくる。気になって視線を向ければやけに楽しげな顔の魚住さんの妹と植草と彦一が準備をしながら雑談をしているようだった。


「でも、わいのクラスでもなまえちゃん可愛い可愛い言われてモテモテやで。」
『何それ...彦一くん詳しく聞かせて!』
「なまえは可愛いし2年からもモテるけどやっぱりお兄さんが魚住さんだからね......。」
『植草さ〜ん......なんとかしてくださいよ...もうすぐクリスマスだし私も彼氏と過ごしてみたい〜......』
「俺にはなんとも出来ないね。」


あっけらかんと言い切った植草の腕にしがみついて「えぇ〜」なんて可愛い声出してやがる。可愛い...?いや、耳障りな声。なんだか無性に腹が立ってわざと間に割って入れば「ねー越野」なんて植草の同意を求めるような声が聞こえてきた。


「何がだよ。ペラペラ喋ってねーで働け。」
「なまえ俺らの学年からも人気だよね?」
「んなもん知るかよ。性格が可愛くねーから彼氏出来ねーんじゃねーの。」
『......本当に越野さんって......。いいですよ、別に。自分でもわかってますから!』


確かに魚住さんの妹はモテる。だって見た目可愛いし中身だって気さくで面白いし普通にモテる要素しかねーだろ。でも俺にとっては何もかもが面白くない。そもそも植草と彦一と談笑してる姿も植草の腕にしがみついてたことも学年問わずみんなからモテるってことも何もかも全て。彼氏ができない理由に魚住さんが関連しているのであればそれはもう魚住さんに感謝しかないし、産まれてくる家大正解だったな、って言ったやりたい。


思いとは裏腹に自分の口から出てくる言葉は本心とはかなりかけ離れていて、相変わらず言ってから自分に落胆して後悔する。その全ての理由がなんなのか、とっくの昔に気付いてはいるけれど、何もかもが今更すぎて自分を変えられない。急に優しくなったりよそよそしくしたりなんて出来ないだろ。悪態ついて気を引くなんてあまりに餓鬼で幼稚で情けない。








茂一の機嫌の問題か、それともイブにすら練習している俺らへの配慮か。普段より1時間近く早く終わった練習。引退しても顔出してばっかりの魚住さんに急かされて、魚住さんの妹は片付け終了後早急に体育館を出て行った。家族で食事の予定があるとのことだった。


いつまで経っても帰る気配のない仙道のことは今日は待ってやんない。だって外で女子達が待ってるのわかってるし。イブの夜に少しでも仙道の気を引こうと待ち伏せしてるんだろ。知ってる。


ひとりで繁華街を歩く。普段はまだ練習している時間だからなのか、はたまたイブだからなのか、街中はやけに明るく、そして賑やかに感じられる。両手はポケットに突っ込み、いつからか冬の相棒と化したマフラーに鼻辺りまで顔をいれて極力露出を減らす。神奈川の冬もなかなかの寒さだ。


通りがかった百貨店のガラス張りに並んだ香水やら化粧品やらを見て思わず足が止まる。普段なら「なんで止まったんだ俺は」ってその理由を認めたくなくてスルーするのに、今日はやけに胸が騒がしく、そして自分自身の言動を無視出来ない。


......アイツ、喜ぶのかな。


少し歳の離れた姉貴がいるから、女子がこういうキラキラしたようなものを好むってことはわかってるつもりだ。このブランドだってよく姉貴が使っていた気がするし、彼氏からだと化粧品を貰って喜んでいる姿も幾度となく見てきた。


悩み始めたら終わりだ。そこから一歩も動けなくなった俺は普段素直になれなくて悪態ばかりつくにも関わらず何かを贈ってみたい、喜んだ顔が見たい、そんな純粋な感情によって店内へと足を踏み入れたのだ。俺の中に残っていたのか、こんな少年のような真っ直ぐな想いが。


そこそこの値がする香水を購入したのにはワケがある。ただ純粋に見た目がアイツっぽくて、匂いも俺好みだったから。それに加えて、自分が選んだ香水をアイツがつけてくれることを想像したら容易に頬が緩む自分がいたからだ。


意外にも自分の中に存在したそのドロドロとした独占欲にいよいよ気持ち悪くなってくるのだが、普段は意識しないようにしていた「好き」を考え出してしまえばもう止められない。店員さんが丁寧にラッピングしてくれて「喜ばれるといいですね」と言ってくれたそれを手に俺は帰路に就いたのだ。












翌日、クリスマス当日も普段通りの授業がある為普段と変わらず高校へと向かう。俺の手には昨日のソレが握られていて、休み時間に徐に廊下へと出てみる。通らねぇかな.........なんて都合のいいことばっかり考えていたら廊下の奥でやっぱり植草と仙道と談笑している姿が目に入った。


また植草といるし.........。


そんな俺の視線に気付いたのか話を終えるとこちらに向かってくる魚住さんの妹。何故だか俺は緊張や動揺もなく、逆についに認めてしまった自分の気持ちにすっかり落ち着いており、これをどんな顔で受け取ってくれるのか楽しみにすら感じていた。


『おはようございます、越野さん。何見てたんですか〜?』
「別に。.........これ、やるよ。」


後ろに隠していたソレをスッと差し出せば魚住さんの妹は紙袋をジッと見つめた後パッと俺を見上げた。


『......何ですか、これ?』
「クリスマスだろ。プレゼント。」


強引に押し付けるようにすれば慌てて受け取ってくれる。紙袋を覗いてギフト用にラッピングされた中身を手に取ると途端に慌て始めた。


『......これ、クラスの女子みんなにあげてるとか?!』
「んなわけねーだろ、どんな発想だよ。」
『そ、そうですよね...こんな高価な物...えっと、私貰っていいんですか...?』
「おう。なまえが喜ぶかなと思って買った。じゃあな。」


スッと出た名前に自分でも鳥肌が立つ。もっと何か言いたい気持ちにもなったけど普段が普段だからか思うように上手く言葉が出てこない。踵を返して教室へ入ろうとすれば「待って!」なんて慌てた声が聞こえた。


「、何?」
『......ありがとうございます越野さん、......すっごく嬉しいです......!!』


見たこともないくらい可愛い笑顔でそう言うなまえがいて、俺は昨日の自分を褒めてやった。ほら、素直になってみるのも悪くないだろ。


「別にいいよ。...いつもありがとう。」


精一杯の気持ちだった。
本当は信じられねーくらい感謝してる。1年なのにひとりで、それでも文句言わずに俺らの為に働いてくれて、どんなにつらくともいつも笑顔で部活に参加している。鬼のような顔の茂一の隣でいっつも癒しを与えてくれるその柔らかな笑みにどれだけ救われてきたことか。


一瞬目を見開いた後「こちらこそ、ありがとうございます」なんて深々と頭を下げてきた。


『これからも、よろしくお願いしますね!』


あまりの眩しさにコクリと頷くので精一杯だった。自分の気持ちを伝えるにはまだ時間がかかるかもしれねーけど、でも思いのままに行動するってのも悪くねーなと思った。













その笑顔の為ならなんだってできるのかもしれない


(あれ?なまえちゃんいい匂いするね〜?)
(ふふふ、仙道さんさすが!わかります?)
(うん。どうしたの?香水?)
(ふふふ〜これ越野さんの香りなんです〜ふふっ)
((((((......?!?!)))))))
(ばっ、馬鹿!!誤解を招く言い方するな!!)



姉妹シリーズの魚住さんの妹ちゃん続編みたいな。越野くんはプレゼントのセンスありそう(^∇^)本当にお姉ちゃんいそうだし。ツンツンしてるし負けん気強いし面倒なこと嫌いだし正義感たっぷりで、女心には敏感な方じゃないだろうけど贈り物とかは抜群のセンス発揮しそう......。越野くんいいですよね〜( ;_; )( ;_; )永遠に仙道くんの隣にいてくれ!!





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