■ 勘違いも甚だしい





「なまえ」
『はい、ケチャップ』
「サンキュ」

俺ん家での夕食中、名前を呼べば希望通りのものが目の前に来て満足しながら受け取った。母さんが隣で苦笑いしている。俺らの関係は別に今に始まったことじゃない。

隣の家に住む同い年のベタな幼馴染である俺となまえは物心付いた時にはもう隣にいるのが当たり前だったわけだ。何をするにも一緒。家の中には入園式入学式卒業式、七五三に初詣、そしてつい最近は高校の修学旅行、翔陽バスケ部の集合写真までこれでもかと写真がビッシリ飾ってあるがどれもこれも俺の隣にはなまえが写っている。
なまえん家の両親は共働きだからいつからか学校帰りはそのまま俺ん家に帰宅して夕食を共にするのが普通になっていた。翔陽バスケ部のマネージャーなんて大変だからやらなくてもよかったのに”入る部活が見つからなくて健司より先に藤真家に帰ってくるのは気まずい”って理由で入部してくれた。中学ん時までは女バスだったけど高校ではやる気はなかったらしい。

ケチャップをつけながらなまえを見やれば目が合った後俺が何を考えてるのか探っているような顔をしている。その後うまく汲み取れなかったのかはたまた俺が特に何も求めてないとわかったのか知らん顔して食事を進めていた。そういうとこも完璧だ。

そう、俺らの関係は完璧なんだ。誰にも邪魔されない、誰にも変わりが務まらない。どこからどう見ても完璧。

『ごちそうさまでした』

箸を置いてパタパタと台所へ食器を運ぶ姿を見て俺はふと思ったわけだ。なまえって、やっぱりいい女だよな。近くにいすぎてあまりそう考えたこともなかったけれど家庭的だし気がきくし俺のことわかってるし、何より...かなりの美人だし。

「なぁーにボーッとしてんの健司」
「痛ッ...んだよ母さん」
「なまえちゃん見つめてどうしたの?」
「いや、なんつーかアイツ...家庭的だよな」

俺がそう言うとそんなの今に始まったことじゃないでしょう?と返されて確かに...と思ったわけだ。昔から何かあるたびに差し入れだって可愛いラッピングのお菓子とか手作りのケーキとかくれてたしたまに母さんがいない時なまえが作ってくれたご飯を食べる時もある。今まで好きとか嫌いとかそんな風になまえを見たことはなかったけど、実際誰かと付き合ったり彼女を作るとなるとやっぱり頭に浮かぶのはなまえ以外誰もいなかった。

もしかしたら、俺結構マジな感じでなまえのこと好きだったりして...

高3の冬、ついにそんなことを考え出してからは幼馴染としてだけではなく、”女"としてなまえを見るようになってしまった。




世間がバレンタインだと騒ぐ2月14日。部は引退し、学校も受験の為自由登校だが、俺は大学でも続けることを考え体が鈍らないようにバスケ部に顔を出していた。普段部活にはいたりいなかったりするなまえも今日はバレンタインだからと体育館に顔を出していた。休憩中、手にたくさんの包みを持ったなまえが順番に後輩たちにチョコレートを渡していた。

「ありがとうございます、なまえさん」
『これ食べてこの後も頑張ってね〜!』

その中に1つだけ、他とラッピングが違うものが混ざってて一目で俺はわかったわけだ。あれ俺のものだな?うん、絶対にそうだ。

「俺らの分もあるのか!サンキューな!」
『当たり前でしょ、ほら食べて』

同じく部に顔を出していた暇人の高野と永野もデレデレした顔でなまえからチョコを受け取っていた。気持ち悪いその顔面なんとかしろよな、もうすぐ大学生だろお前ら...

そんなことを考えてるとなまえの手にはみんなと同じ小さな包みと明らかに本命だろっていう包みが2つだけ残り俺はニヤける顔を抑えながら待っていたわけだ。

『健司、よかったら食べて』
「...毎年毎年悪いな、サンキュ」

...あ、あれ?
俺のこれじゃねぇんじゃねぇの?

みんなと同じ小さな包みを渡されてそう言い返そうと思えばなまえはすでに俺の前からいなくなっており少し離れたところで顔を赤く染めながら特別なラッピングが施されたそれを誰かに渡していた。

...は?なにこれ、どんな状況...?

『花形、これ...』
「おぉ悪いな、サンキュなまえ」
『多分おいしいと思う...』
「多分じゃない、絶対美味い、ありがとうな」

花形のそんな言葉に嬉しそうに笑ってなまえは業務に戻っていったわけだが...え?なにこれ?花形?それ俺のじゃねぇの...え?!

「おいなまえ!」
『なっ、なに健司どうしたの?』
「なんでコイツだけ特別なんだよ?!それ俺のだろ!」
『いや、あの、健司、そんな大きい声で...ッ』
「んでだよ?!お前は俺のもんだろうが!」
『え?な、何言ってるのか...?』
「俺とお前は夫婦同然だろ?俺の嫁だろ?!」



つい大声でそんなこと口走った俺に彼女は冷たい目線を向けたわけだ

(...何言ってるのかサッパリわからない)
(なっ?!今更そんな...?!)
(ただの幼馴染でしょ?笑わせないで)
(...ッんな?!バッサリ切るなよ悲しいだろ!!)

(つーか花形!100発殴らせろ!!!)
(...このチョコは俺のものだ、藤真にはやらん)
(んだとテメェ?!調子に乗んなこのメガネ野郎!)



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