■ 王子の嫉妬は恐ろしい





「あぁそれは確か高野が...」
『そうですか...高野さんに聞いてきます!』
「あ!待てみょうじ!」

俺の声なんて届くはずもなくみょうじはパタパタと廊下を走って行った。その様子を少し離れたところで見ていた翔陽の王子こと藤真がゆっくりとみょうじのあとを追い始めた。ヤバイ、これでは高野がやられる...隣の長谷川を見やればやってしまったというような顔でその様子を見つめていた。お前が簡単に高野の名を出すからだ、全く。

「花形、高野がやばいよな...」
「もう遅い」
「俺のせいだ...」

休み時間俺と長谷川のところにトコトコやってきたその瞬間から藤真が遠くから目を光らせてこちらを凝視していたのに高野のとこに行くとなればそりゃもう黙っていないはずだ。何を隠そう高野はみょうじがマネージャーとして入部した頃、真剣に彼女に惚れていたのである。何度も顔を真っ赤にして話しかけているのを見ていたし俺らはまぁ別に恋愛は自由だと温かい目で見守っていたが、その後藤真も高野同様みょうじに惚れ込み、彼氏になる前から凄まじい嫉妬で高野に攻撃していたのである。彼氏になった今は昔みょうじに惚れていただろうと高野にだけ当たりが強く、みょうじと高野が2人きりで話そうとすれば命はないと言いたげな態度で高野に接するのである。嫌な男だまったく...どこが王子なんだかサッパリだ。

それに加えみょうじがあまりにも鈍感で危機感がまったくないからそこもまた厄介だ。平気で色々な男に話しかけその男が後に藤真に締められるのを度々目撃してきた。なんとまぁ不運である。





「まずは外周30、そうだ...高野」
「...はい」

放課後部活の時間になり監督でもある藤真の指示を待っていると高野のみ不意に呼ばれて本人のみならず俺と長谷川まで背筋が凍ったわけだ。

「高野は外周50だ、心当たりは...あるよな」
「...はい」

ついに消えそうな声で返事をした高野を見てなぜか涙が出てきそうになった。いやぁ本当にひどい極悪人だ藤真健司...ただみょうじが話しかけただけなのにこんな仕打ち...みょうじからなんで高野だけ特別メニューなのか聞かれてスタミナに自信がないって相談を受けてだなって説明してる藤真本当に鬼畜だ。

「高野...悪かった、俺が高野の名を出したから...」
「いいんだ長谷川、俺が悪いんだよ」

後々藤真の彼女になる予定だったあんな美人に惚れた俺のせいなんだ...なんてもう意味わからないことを言いながら遠くを見る高野。俺は悲しいよ藤真、お前は本当に変わったな...

『あぁそうだ!伊藤くん、これさぁ』

突然何かを思い出したように伊藤に話しかけるみょうじを見て俺はこれまた寒気がした。なに?!今日は伊藤まで犠牲になるのか...?みょうじは楽しそうに伊藤に話しかけ伊藤もまたダメとはわかっているであろうについつい笑顔でみょうじに答えている。仕方ない、あの子は絶世の美女なんだ。そりゃ藤真も惚れるくらいだからな...それに伊藤とはクラスも同じとかそんな感じだった気もするし...高野のように前科(?)もないし勘弁してやってくれ...と心で願ってみたものの藤真は無表情で伊藤を見つめているから多分そんな俺の願いなんぞ叶わないんだろう。

「...伊藤、ほら外周行くぞ」

仲良く話す2人の間に割って入り伊藤の腕をグッと掴んで引っ張っていく藤真。伊藤の後ろ姿は明らか藤真にビビっており何を言われるかビクビクしているのが伝わってくる。あぁ、かわいそうに...藤真の前でむやみに話しかけるなよ...みょうじめ...

「伊藤、席が隣なんだってな」
「は...はいっ...」
「この間なまえの筆箱から伊藤のペンが出てきたぞ」
「...(ギクッ)」
「随分可愛がってくれてるみたいだな」

ヤバイ...こりゃ相当ヤバイぞ。あの藤真の凍りついたような笑顔...口角は上がっているけれど目はこれっぽっちも笑ってない。フルフル震えながら藤真に肩を組まれた伊藤はヒィッと声を出していた。そりゃ悲鳴じゃない。正直な感想だ。

「...ありがとうな、伊藤」
「...す、すみませんでした...!」
「これからもなまえを頼むよ、な?」

な?のタイミングで首を少し傾げた藤真は今まで見た中で1番と言っていいほど恐ろしい顔をしていた。整った顔の使い方間違ってるぞ藤真!イケメンがそんな顔したら怖いだろ、目も大きいわけだし...

「が、外周、50行ってきます...!」
「いってらっしゃい、...伊藤くん」
「...(ヒィッ!!)」

何かを言われる前に自ら言い出した伊藤に対してみょうじが呼ぶように真似して君付けで呼んだ藤真。ヤバイ、かなりご立腹だ...こうして2人は別メニューとなりなかなか戻ってこない伊藤をみょうじがこれまた心配し出してその後も伊藤は散々な目にあったのである。



言っておくがこれ日常だからな?!

(頼むから俺に話しかけないでくれと)
(全部員が思っているであろう...)

(あ!そういえば!永野さん!)
(...俺の名を呼ぶなぁぁあ!!)



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