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「なまえちゃんなら帰ったけど?」
「...バレバレな嘘つかないでくれる?」


ある日の陵南高校。
テスト前の為部活はない。正門前で立っていた神に近寄って声をかけたのはバスケ部のキャプテン仙道だった。


「いや本当だよ、約束してないんだろ?」
「毎日迎えに行く約束だから早く連れてきてくれる?」


国体合宿での騒動以来、なまえは申し訳なさと恥ずかしさから部活は出るもののみんなと話をせずにいた。あんなに仲が良かった越野仙道福田植草とも必要最低限以外は口を交わさないようにしていた。自分の感情に加えこれ以上彼らを危険な目に合わすまいという考えもあったのだが。それは男達にとって残酷なことであった。

そこである日、男達は立ち上がった。
陵南高校にいる間、神はいない。その時間、その時だけはなまえは俺たちだけのものだ。俺たちと話し俺たちに笑いかけ俺たちだけのなまえ。今まで当たり前だった日常を取り戻す為一致団結したのだった。


(そっ、そんなことしたら怒られるよ!)
(大丈夫、いいから俺らに任せろよ!)


その日の昼休み、なまえは越野たちに呼び出されていた。今まで通り仲良くしたいと告げられなまえはパァッと顔を明るくした。いいの?そう聞けば男達はみんな笑った。なまえはあんなことがあったとはいえ本心を言えばまたみんなと仲良くしたかった。陵南の仲間を大切に思っている。もちろん神は別格だ。幼馴染であり昔から一緒にいるのが当たり前であった。今更離れるなんて考えられなかったしこのままずっと隣にいたいとも思う。でも日頃から汗水流し同じ時を過ごす中で特に同学年のこの4人はまた違った特別な存在であった。

そして仙道と越野は提案した。
部活が無い今日、放課後勉強会を開こうと。教室に残ってベダベダ話しながらまたみんなで楽しく過ごそうと。なまえは神が怒ることを簡単に想像出来たし約束なんぞいちいちしないが多分こっちのスケジュールを把握しており迎えに来ることは容易に想像が出来た。


(絶対迎えに来るよ?どうするの?)
(大丈夫だよ、放課後帰るなよ?あと教室から出るな)
(神と会ったら大変だからな)


なまえからいい返事をもらえないまま放課後になり越野は彼女が勝手に帰らないよう隣の席に座った。なまえは自分の席に座りながらもチラチラと正門の方を窓から覗いている。そこには背の高い男2人が話している姿が見えた。


『大丈夫かなぁ仙道...』
「大丈夫だよアイツなら上手くやるっしょ」


なまえはこの間怒らせてしまった時の神を思い出し身震いがした。国体合宿の時だ。今まで何度も怒らせてきたことはあったけれどあそこまで神が爆発したのは初めてであった。その場ではキスされただけで済んだ(それでもみんなの前でするなんて恥ずかしかった)が、家に戻ってからはそれはそれは大変であった。帰宅直後に神の家で乱暴に抱かれたあげくオフが被った日に1日中でろんでろんに溶けるまでベッドの上にいたことを思い出す。またあんなことになったらもう...


『やっぱり仙道のとこ行ってくるよ!』
「いやいや、ここにいろってほら福田来た!」
『福ちゃん...お疲れ様』


窓の外を見つめ2人を早急に見つけた福田はそのまま教室を出て行った。なまえと越野はポカンとしたまま福田を見つめていたがその後ホームルームを終えた植草が登場し3人で先に勉強を始めることにしたのだった。


**


「仙道...いい加減に...」
「ジンジン」
「あ、フッキー...」


なまえを渡すだ渡さないだ帰っただ帰ってないだ言い争っていた2人の元にのそっと福田が現れた。仙道はその瞬間助けが来たことを察し教室へ戻った。福田が来た。この勝負、俺らの勝ちだ。仙道は確信しこの後の時間なまえを独占できることに思わずガッツポーズが出た。

(久しぶりに色々話したい...)

仙道は相変わらずなまえに惚れていた。なまえが誰の彼女であろうと別に関係なかった。


「なまえはジンジンのことも俺らのことも大切に思ってる」
「それはわかってるよ、でも」
「たまには俺らに貸してくれないか」


神は薄々気付いていた。なまえがたまに元気が無く落ち込んでいること。その原因が自分にあり本当は陵南の奴らの輪の中にいることを望んでるんだということも。でも簡単には叶えさせてあげられない。神は昔からなまえのことが好きでありそれ故にずっとずっと隣で守ってきた経緯がある。どんな時も彼女のそばにいて、モテるが故にいじめにあった時もストーカーにあった時も変な男に絡まれた時も何もかも自分が解決してきた。高校は絶対海南を受験させる気でいたがなまえはそれを断った。なまえにはなまえで神にこれ以上迷惑をかけたく無い、1人でも大丈夫だという好き故にくる思いから陵南を選んだのだが神にはうまく伝わっていなかった。これ以上、彼女が自分から離れていき自分の知らないところで何かが起こるなんてことがあってはたまらない。今すぐにでもなまえを返して欲しかった。


「なまえは大丈夫だ、俺らも一緒に守る」
「フッキー...」
「ジンジンがいて俺らもいる。それでいい」


福田の拙い言葉に神はなぜか肩の荷が下りた気がした。中学の自分をたくさん知っている福田だからこそ言える言葉だった。

神もいるし、俺らもいる。
みんなで大切に大切に守っていけばいいということ。別れろなんて仙道にも福田にも言われなかった。もちろんなまえにも。それはみんな神を悪く思ってないということ。大切だからこそ一緒に守らせてほしいという陵南バスケ部の願いだった。


「ジンジンにとって大切な彼女であるように俺らにとっても大切な仲間だ。ジンジン俺たちは敵じゃない」






「ただいま」
『福ちゃん!宗ちゃんは...?』
「20時までに帰ってこいってさ」


福田のその言葉を聞きなまえの顔はみるみる明るくなっていった。仙道はひどく感嘆した。コイツはすごい、この福田というオトコは...。すでに5つの机が丸く並べられていて空いてる席に福田は腰を下ろした。越野から差し出された手に自分の手をパチンと合わせた。


『ありがとう!みんな本当に大好きだ...』
「今のみんなの部分を仙道に変えて?」
『...仙道大好きだ?』
「ヒェェ、破壊力あるわ」


ニコッと笑う仙道になまえも思わず笑った。久しぶりにたわいもない話で盛り上がった。途中植草が購買でお菓子を大量に買ってきて終盤はもうお菓子パーティー。なまえはすっかり神のことを忘れていた。

午後8時、4人に見送られなまえは家の中に入った。ゆらゆら手を振ると揃って男達は振り返した。たまにはいいな、こういうのも。ルンルンで居間に入ったその時だった。


「おかえりなまえ」
『...ッ?!...宗ちゃん...』


にょっと顔を出したのは目の奥が笑っていない神だった。なまえが夕飯を食べ終えるまで何も言わず隣に座り、勉強をすると親に断ってからなまえの部屋へとついてきた。部屋に入ると同時にベッドに押し倒されなまえは自分を恨んだ。この人が簡単に許してくれるわけないんだった...!


「どうだった?楽しかった?」
『宗ちゃんッ...やめッ...』
「いいじゃん一緒に居られなかったんだから」
『でも宗ちゃんがいいって言ったんでしょ』
「優しくするから抱かせてよ」












チクリと感じたその痛みの跡に気付いたのは仲間たちだった

((...キスマーク!!!))
(みんなどうしたの?)
((あのあと神に抱かれたのか...))




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