『...(ビクッ)』

国体の合宿中。マネージャーとして招集された陵南高校2年のなまえは冷や汗が止まらなかった。ある人物からの視線が痛い程刺さるからだった。


「なまえちゃん?大丈夫?」
『だっ!大丈夫...ヒッ?!』


普段より明らかに様子がおかしいなまえを見て仙道は首を傾げた。汗がすごいなぁ...熱でもあるのかと仙道はなまえのおでこを触った。熱くはないな、うん。納得する仙道をよそになまえは顔を真っ青にしながら肩を震わせた。そんな姿を見てやはり心配になるのはもはや仙道だけではなかった。


「マジで大丈夫かよ?汗すげぇけど」
『大丈夫、越野、大丈夫だからッ』
「体調悪いなら言えよ?倒れたら大変だからな」


普段は無口な福田でさえもその場に寄ってきてなまえの顔を覗き込む。その仕草に勘弁してくれとなまえはガクッと肩を落とした。

(福ちゃんまで...!)

仙道越野福田に加えここにいない植草、そしてなまえの5人は陵南高校の同学年としてかなり仲が良かった。5人でよく遊びに出かけたり放課後グダグダ語り合うことも多かった。去年までは。

2年に上がってからはなまえがなんとなく4人の輪の中から抜けるような感じがあり一緒にいる時間も減った。男たちは少し疑問と寂しさを感じていたがそれでも練習中顔を合わせれば紅一点癒しの存在であるなまえにデレデレしていたしやっぱり仲が良いことに変わりはなかった。

普段から仲が良くお互いによく自分のことを話す為こんなにわかりやすく冷や汗をかいていれば大丈夫かと心配するのは当たり前だった。


『みんな私は大丈夫だから、練習に集中して』
「う〜んでもなぁ、顔色悪いよ?」
「なまえ、女の子なんだから体大事にしろよ」


困ったように眉を下げる仙道に少し怒り気味の越野。無理もない。彼らはただ心配しているんだ。目の前で具合の悪そうな自分たちの大切な紅一点を。

「なんだなんだお前冷たそうに見えて案外優しいんだな」
「なっ、なんすかもう!」
「もしかしてお前マネージャーのこと...」
「ハァ?!もう何言ってんだこの人」


ツンツンと肘でついて冷やかしに来た湘北の三井に越野は顔を真っ赤にしながらプリプリ怒った。無理もない、図星である。越野は入学当初からなまえに心底惚れていた。それはまた隣のこの男も同じで...


「ほら汗拭いて?...ちょっと触るよ」
『わっ?!仙道?!自分でやるから...』


まるで自分のことを気にかけないなまえに仙道は痺れを切らして自分のタオルでなまえの額を拭いた。ゴシゴシ。強めに拭かれされるがままのなまえ。


「このままここにいるんだったら」
『?』
「ここに座ってこれ着てて」


自分の上着をサッとなまえの肩にかけ無理矢理その場に座らせた。仙道の力にガクッとその場に座ったなまえの目の前に屈んだ仙道の顔がグッと近づき思わず声が出た。


『セッ?!仙道、近いよ...』
「大人しくしてるんだよ」


なでなで。その瞬間、


ゴゴゴゴゴ...


「えっ、じっ...神さん?どうしたんすか?!」


隣のコートで練習中であった神がものすごいオーラを纏い陵南の輪の中へ向かって歩いて行った。それを見ていた清田はあまりの神の様子に驚き声を上げた。牧も藤真もみんなが神から目が離せなかった。


『...(やっ、やばい...!)』


その様子を感じ取ったなまえはとうとうやってしまったと涙目になった。慌てたってもう遅い。あまりの恐怖に遠くからやってくるその人物に目を向けられなかった。


「...なまえ」
『...(ビクッッッ!)』
「なまえ」
『ハッ、はい!』


仙道や越野がハテナを浮かべる中なまえは涙を浮かべながら返事をして立ち上がった。急に立ち上がった為少しふらつく。それをとっさに支えようと出た仙道の手を神は思い切り振り払った。

バシッ

その音が異様に静かな体育館に響く。


「...触るな仙道」
「なっ?なんだよ神...?」


その言葉に仙道より越野が反応した。なんだこいつ?!そんな感情が顔に出る。


「なまえ、君は一体誰の彼女なの」
『えっ...あ、あの、...』
「答えられない?そうか、答えられないのか」
『宗ちゃんです宗ちゃんの彼女です...』


“神宗一郎の彼女です...”


小さな声でそう言うと目の前の神は肩にかかった仙道の上着を乱暴に剥がすと自分の上着をかけ自分のタオルを首にかけてあげた。そっとなまえが顔を上げると一見微笑んだ神と目が合うものの目の奥は笑っていなかった。なまえはゾッとした。


「なまえ、神と付き合ってんのか?」
『...ごめん越野、仙道、福ちゃん』
「なんだよ黙ってたのかよ?お前...」

「誰に口聞いてんだ?お前...?」


騒ぐ越野に神がそう言った。
越野は思わず後ずさりした。目の前の神を見てそのオーラ、迫力、目に見える圧。圧倒的なソレに思わず後ろに下がらずにいられなかった。何よりあの穏やかで温厚そうに見えるあの神だ。目の前のコイツは一体誰なんだ...?そう思わずにいられなかった。



「なまえちゃん水臭いじゃん言わないなんて」
『ごめん、あの...内緒にしてたわけじゃなくて...』
「そうかぁ...なるほどねぇ」


仙道はひどく納得した。
なまえは陵南の仲間に神との関係を秘密にしていた。それは言えなかったというより言わなかったのである。なまえは神と幼馴染で色々なことを経て神がレギュラーになった今年の春に付き合い出したのだ。今まで仲良くしていた陵南の仲間たちに気を遣わせたくなかった、距離を置きたくなかったという理由で神とのことは秘密にしていたかわりに自分で上手に距離を取っていたのだ。どっちとも上手く付き合っているつもりだった。神は自分のことを早くみんなに言うよう再三伝えていたがなまえはそれだけは嫌だと断っていたのだ。幼い頃から常に神が上に立つこの関係の中でなまえにとってこれは大きな抵抗だった。


「さっさと言えって言ったよねこうなるから」
『でもみんなの事も好きだから...宗ちゃん?!』


“みんなの事も好きだから”
“好きだから”

その言葉は神を爆発させるのに充分すぎた。


「「ッ?!」」


ズカズカ近付いて強引に唇を奪った。


『宗ちゃんッ?!ちょっと...ッ!』
「こういうことだから、覚えておいて」














どれもこれも全部愛情表現ですから

(指一本触れるなよ)




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