三井







インターハイを終えまだまだ残暑が厳しい中、湘北高校は学園祭の準備に追われていた。


「いいなぁ彼女がいる人はさ」
「ミッチーの美人のカノジョさんは来るのか?」
「あぁ、2日目にな」


2日目...!
その場にいた湘北バスケ部メンバーが揃って声を上げた。三井を見れば彼はニヤッと笑顔を見せそこからは満ち溢れた自信が感じられた。


三井寿の彼女は湘北のみならず神奈川でバスケをしている者なら知らぬ人はいない程有名であった。目を惹くほどの美人であることに加え学年1の秀才ぶりそして極め付けにあの王者海南大附属のマネージャーであるからだった。


ライバル校に在籍しているもののとにかく心の底から三井のことが大好きで何かあるたびに彼に尽くし、同い年にはやっぱり圧倒的存在の神がいるものの浮いた噂は1つも無かった。彼女の徹底的な気遣い。他校にいるが故不安になったりするものだが、三井が安心して過ごせているのはこの為だった。

公式戦で当たれば迷わず三井を応援しインターハイへ行けば試合後必ずちどり荘へ顔を見せる。事あるごとに三井への愛情を見せるその姿に湘北の部員達は嫉妬や羨望を乗り越えリスペクトしていたのだった。

「あんな彼女がいて羨ましいよ三井」
「木暮まで...!」
「...確かに」
「ハッ?!流川お前も?あんなに親衛隊いるだろ」
「量より質」


流川からそんな言葉が出ると思わず部員たちは静まり返った。あんなに大勢いるのにたった1人に勝てないなんて...自分の彼女がどれだけの存在なのか三井は驚いた。この流川まで憧れさせる俺の彼女は一体...?



**


学園祭2日目。
男達は黒い服に身を包み気合いの入った彩子に髪型をセットされていた。

1日目はクラスの出し物であり三井のクラスはかき氷を宮城と彩子のクラスは冷やしパインを。それぞれのクラスが売り上げをかけての勝負であった。そして待ちに待った2日目。前日とは違い2日目は部活毎に店を出すことになっていた。


「「 ホストクラブ?! 」」


彩子の提案に驚いたのがつい2週間前である。


「売り上げの為なら何でもするわ!ホストはホストでも」

着るのはタキシードよ!

どでーんと彩子が出したのはシワひとつないタキシード。しかもかなりサイズがデカそうだ。彩子の不敵な笑みになぜか身震いがした流川であった。


「ウチには流川がいる、それだけで優勝よ」
「「 な、なるほど...!」」


とにかく何もしなくても人が集まる。それに加え流川がこれ以上ないってほどカッコイイ見た目であればこりゃもう間違いなく優勝よ!
彩子は自信満々にそう言うと試着しろとタキシードを流川に渡し隣の教室へと追いやった。強引である。3分後言われた通り着替えた流川になぜか男達から拍手が起こった。


「確かにこりゃ親衛隊が集まるな」
「1枚50円でツーショット写真どうよ?」
「それいいな!儲かるぜ」


ハァ、とため息が漏れる流川であったが男達は金の為にあらゆる手段を使うつもりであった。ドリンクの料金も少し高めに設定し金儲けの為に知恵を出し合った。

三井は当日まで彼女に何の店をやるか秘密にしていた。タキシードを着た自分を見せて驚かせたかったからだ。


「なまえ驚くだろうな」
「そのままプロポーズしちゃいなよ三井サン」
「バカ言ってんじゃねぇ宮城!」


言われなくとも意識してしまうそれを改めて指摘されて三井は顔が真っ赤だった。




店が始まると案の定噂を聞きつけた親衛隊でいっぱいになった。きゃあきゃあ騒ぐ店内は満席。1テーブル10分と制限までかけるほどであった。来てくれるお客さんの中には流川のみならず宮城や三井目当ての女子高生もいて三井はなまえが来る前から気分は最高潮であった。


「...あ!なまえちゃん!」


宮城の声に三井はすぐさま振り向いた。驚いた顔で目をまん丸くしたなまえと目があった。自信たっぷりだったはずがいざ彼女が目の前に来ると緊張が勝ってしまう。三井は顔が赤いであろう自分の頭をポリポリかいて彼女に近付いた。


「よう、遅かったな」
『ごめん授業が長引いて...』
「そこ空くから座って、飲み物持ってくる」


なまえが大好きなリンゴジュースと1人じゃ食べきれない程のお菓子を抱えて戻るとどこか落ち着かないなまえと目が合い三井はゆらゆらと視線を泳がせた。


『寿くんビックリしたよ、ホストって書いてあって』
「彩子が流川がこれ着たら儲かるからって...」
『なるほど、彩子ちゃんの提案かぁ』


確かに人すごいね、そう続けた彼女はタキシード姿の自分をどう見ているのか気になるが緊張してしまい聞き出せない三井。ついソワソワしてしまう。


『寿くん、すごくかっこいいね』
「お、おう、サンキュ」
『でも、嫌だなタキシード』
「えっ...似合ってないか?」


なまえを見やれば下を向いて拳を握りしめていた。三井は自分が嫌な思いをさせたかと不思議に思いもしかしたら内緒にしていたことが原因かも、とそれなりに答えを出した。がそれは見当違いであった。

よく”最高の彼女”だとか”三井を誰よりも理解している”とか”聞き分けがいい”とかそんなこと言われるなまえであったが実際はそんなことこれっぽっちも当てはまっていないのだ。

いや、当てはまってはいる。
正確に言えば”当てはまるように惜しみない努力をしている”のである。

2人は幼馴染であった。家も近く中学まで同じ。小さい頃からずっと三井のことが大好きだったなまえは1つあいた年の差に疑問を感じていた。

(ひーくんは大人っぽい人が好きなんだ)
(私は年下のくせにわがまま言ってたら嫌われる)

それ以来とにかく自分が大人っぽくなるよう、三井を全て理解して受け止められるよう必死で努力を積み重ねてきたのである。不良になった時も問題なのはバスケを捨てたことではなくもしかしたら三井のタイプがギャルになったんじゃないかというところだった。

その為中学3年と高1の間は何かとスカートも短くメイクも濃くしていたしバスケ部に戻った途端それもやめた。聞き分けが良くないと嫌われるかと思ったし思いを伝え続けなければ気持ちが離れていくと思った。

なまえは本当は言いたいことを常に我慢していた。実際中学3年の頃MVPを獲りチヤホヤされていた三井を見て毎日殺気立っていたしバスケ部に復帰してカッコイイともてはやされている今だってイライラが止まらないでいるのだ。

実際今はタキシードを着た三井に女子生徒から黄色い声が上がっているしカッコイイだの彼女いるのかななど嫌でも耳に入りイライラはピークに達していた。ついに彼女の限界を超えたのだった。


『もう私、聞き分けのいい彼女やめるよ』
「...え?」
『なんで私以外の女子が私より先に寿くんのタキシード姿見てるの?』
「...なまえ?」
『タキシードって結婚式の時に着るやつでしょ?なにそれサービス?どんなファンサービス?』


彼女の口から出たこともないようなセリフ、口調に三井は思わず間抜けな声が出た。驚きを隠せない。


『ずっと寿くんのためだと思って努力してきた。海南に入ったのも勉強の為じゃないよ、いつかまたバスケ部に戻ったらその時私が海南にいたらいい刺激になるかなって思ったの、ただそれだけ』


もともと頭がいいと思われてたかもしれないけれど馬鹿な寿くんに勉強教えるためにやってただけだし不良になった時は合わせてメイク濃くしたりしたし家庭的な人がいいかなって料理も家事も身につけた。私は全然、


『寿くんが思ってるような女じゃないよ、とにかくそれ脱いでくれないかな?』
「...今?脱ぐ?」
『こんなかっこいい姿見せびらかしてどうするの』


ひどく驚いたけれど三井はそれでも彼女のことが好きであることに変わりはないしなんならなぜか嬉しいとも思っていた。今まで何かあるたびに自分に合わせてくれてまるで年上の女性と付き合っているかのような余裕さえ感じていたなまえがやっと本音を言ってくれたのだ。それも年相応の。いわゆるヤキモチに三井はついついニヤけてしまいそうだった。


「大丈夫、いつだってお前が最高の彼女だ。行くぞ!」
『?!寿くんっ?!どこ行くの?!』


三井は走り出した。彼女の手を引いて。この近く、海の近くに知っている。そこへ向かって走り出した。










今からキミと愛を誓おう

(寿くんここ...チャペル...?)
(1回しか言わねーぞ)
(なまえが卒業したら俺と結婚して下さい)







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