水戸
見に来いって言われたって...ねぇ。
「随分複雑そうな顔だな洋平」
「無理もねぇよ、彼女とはいえマネージャーだぞ」
「...悪気がねぇとこが厄介なんだよアイツは」
そう言う俺に確かに...と3人が頷いた。
俺たち4人は翔陽と湘北のインターハイ予選を見に来ていた。相変わらず花道の応援という名の冷やかしに加え”洋平くん!見に来てね!”そう言ったなまえとの約束を叶えるために。
翔陽に通うなまえと出逢ったのは少し前だ。ナンパされてるところを偶然見かけて助けてやったのがきっかけだった。あまりの美しさにこりゃナンパくらいされるわ、と勝手に納得していたらキラキラした目で俺に言ってきたんだ。
“高校はどこ?彼女はいる?”
それからこれでもかってほどグイグイ押されてついこの間ついに告白され付き合うことになった。俺に彼女が出来るなんて...自分でも驚いたがそれより問題なのが彼女が翔陽に通うだけの生徒ではなく翔陽バスケ部のマネージャーだということだった。それもひとつ年上。これが意味することがわかるか?翔陽のあの王子とかれこれ1年以上同じ時を過ごしているわけだ。
あの王子とあの美女が、だぞ。何もないと思うか?この試合会場に入ってきてからベンチに並んで座るあの2人がお似合いだとどれくらい耳に入ってきたか。
「確かにお似合いだな」
「あの美人の隣にリーゼントは似合わん」
「んなこと言われなくたって俺が1番わかってるよ...」
何が見に来て?だ。何がいつも頑張ってるみんなの晴れ舞台だ。何が湘北もいいけど翔陽も応援して?だ。いい加減にしてくれ。
しかしそんなことどうでもよくなるくらいすごい試合だった。花道がダンクを決めた。結局退場になったけれど、でもあんなすごいもん見れたんだからやっぱり来てよかったのかもしれない。
「洋平、いいのか?」
「いいんだよ別に、帰ろうぜ」
試合が終わってから俺たちはそそくさと体育館を後にした。これ以上この場に居たくない。あいつらと共に泣くなまえなんて見たくない。
『よ、洋平くん!』
門を出るところ聞き慣れた声に名前を呼ばれた。振り向けば走ってきたのであろうゼイゼイしているなまえ。なんだよ、追いかけてきてくれたのか?
「おう、お疲れ様」
『洋平くん、来てくれてありがとう』
「別にいいよ俺帰るから」
もっと話したいしなんなら抱きしめたいくらいだけどコイツらもいるし...なんとなく素っ気ない態度を取ってしまった。俺なんかより似合う奴だって近くに居るしな。なまえがどんな顔してるかなんて見られなかった。
『よ、洋平くんやっぱり...私のこと嫌い?』
「......ハ?」
背中から聞こえてきた声があまりにも震えていて俺は慌てて振り向いた。やっぱり。泣きながら俺を見つめている。
「なんでそうなんだよ?そんなこと一言も...」
『見に来てって言ったのは頑張ってる姿見て欲しかったの』
「エッ?」
『マネージャーだけど、部活頑張ってる姿見せたくて...』
洋平くん、私のこと本当に好きで居てくれてるのかなって不安で。私が付き合ってってしつこく言ったから...それでいいとこ見せたくて。
でも試合会場で藤真さんと隣に座ってたらお似合いだとか付き合ってるのかなとか聞こえてきて...それでもしかしたら洋平くんが勘違いするかもって思って...
『あのねよく言われるの普段から付き合ってるの?って藤真さんのファンクラブの人たちから彼女みたいな扱いされたりするんだ...すっごい迷惑なの、あの人なんであんなに性格悪いのに顔はいいんだろうっていつも思ってて...』
「......」
あっさりとそんな風に言うから思わず吹き出しそうになった。でも目の前の彼女は必死だ。笑うところじゃねぇな。
『私が好きなのは洋平くんだけだってちゃんと言いたくて』
「えっ...」
『嫌な思いさせてたらごめんね。無理に付き合ってもらってるのもわかってる、でも私本当に洋平くんが...』
「何勘違いしてんだ?俺、なまえのことすげぇ好きだけど」
聞きたかった言葉が思いのほかサラッと聞けた。
藤真のことどう思ってるのか実際すごい気になっていた。今日藤真を見ていた限りなまえを大切に思っているように見えたしそれがマネージャーとしてなのか違うのか俺にはわからねぇけど。だから余計不安で...でももうそんなことどうだっていい。
『洋平くん、それ...ほんと?』
「好きじゃなきゃ付き合わねぇよ」
『本当に?...わぁ...嬉しい...』
パアッと顔が明るくなって俺の大好きな笑顔でニコニコ笑うなまえがあまりにも可愛くて愛おしくて。本当に俺の彼女でいいんだよな?何かの間違い...じゃなさそうだ。
『でも洋平くんほんっとかっこいいから不安なんだぁ...』
「え?俺?」
『ずっと一緒にいたいなぁ...同棲とかどうかな?!』
心配ご無用、君しか見えません
(いきなり同棲?!まず段階を踏まねぇと...)