諸星





『危ないッ!』
「うおっ?!」


諸星はドサっと女に突き飛ばされ地面に転げ落ちた。イテテ...なんだよ急に。バッと顔を上げるとそこには俺を突き倒したであろう女と刃物を持った男が向かい合っていた。

(は...は...刃物?!)

俺の頭がうまく働かないまま不審な男は刃物を振り回し女に走って行った。ヤバイ!そう思い思い切り立ち上がると彼女は細くて長い足を振り上げて男の腕を蹴り上げた。カランッと音がして地面に刃物が落ちる。慌てて俺は彼女を自分の方へと引き寄せると急いで逃げようとした。のだが ...

『ダメだよここでやっつけないとッ!』
「なっ!何言ってんだよさっさと逃げる...ッ?!」

俺がどんなに引っ張ったってビクともしないその女は相当な馬鹿力なのか?ガンとしてその場に居座り物怖じしないまま相手の男へと立ち向かって行った。刃物は相変わらず地面に転がったままではあるがさすがに危ない、危なすぎる。周りを見渡せば既に警察へと連絡してくれてる人がいるのを発見することができ、とにかくこの場を離れなければと彼女を見やる。

「おい危ねぇってば!!」

立ち上がった男に再び蹴りをいれるともう二度と刃物を持てないようにする為かひたすら腕をギリギリ踏みつけていた。先ほどの力といい強いのは充分わかったがあんなに細ぇくせに...どこの誰かわからないその女相手に俺は焦っていた。

「ほら逃げるぞ!!」
『ま、待って、警察が来るまで抑えておかないと...』

すっかり大人しくなった犯人のすぐ隣で動かない奴を見張りながら女はそう言った。男は意識はあるのかそれすらも分からずただただ動かなかった。しばらくしてサイレンが響き渡り警察が来たことを知り俺は安堵した。...はずだった。

『ッ?!危ないッ!!』

突如起き上がり男は俺に向かって再び刃物を突きつけたのである。驚いてグッと目を瞑ればサッとなにかが切れたような音が聞こえ俺は冷や汗が止まらなかった。

静かに静かに目を開ければ、そこには...

「おっ、?!おい!!大丈夫か?!」






『ごめんね付き合わせちゃって』
「何言ってんだよ...!」

ベッドの上で大人しく座る彼女に俺は小さく震える声でそう答えた。左手にはグルグルの包帯が巻かれ、白くなったその左手を見つめながら彼女は小さく笑った。

『無茶しちゃってごめん、心配かけたよね』
「......」
『...諸星くんでしょう?愛和学院の』

突然出てきた俺の名前に恐る恐る顔を上げれば彼女は俺を見つめながらニッコリと微笑んでいた。

「...なんで俺のこと...?」
『有名人だもん、諸星くんが怪我しなくて良かった』
「何言ってんだよ?!そんなに血でて怪我して、良かったなんていいわけないだろ!!」

彼女が発した言葉に俺は柄にもなく大きな声で怒鳴りつけた。シュンとした彼女が目に映り俺はもうどうにかなってしまいそうな感情を持て余していた。

「...女の子なんだから」
『へへ、ごめん』
「...悪かった、俺の為にそんな無茶させて本当にごめんな...それと、ありがとう」



**



「なぁ諸星、転校生見たか?」
「...あぁ?なんか言ったか?」

バスケ部の奴らが騒いでいる。なんだ?転校生か?こんな時期に。正直俺にはそんなことどうでもいい。ただあの女の顔が頭から離れなかった。その後俺が病室を少し抜けた隙に逃げるように退院していき結局どこの誰かもわからないまま時間だけが過ぎて行った。おかしい、だってあの子は俺を守る為に怪我したんだぞ?それなのにあの場で謝罪しただけで終わりなんてそんなの許されるわけないだろうが...

いつかどこかで再び会えないか、そう願っている俺にいよいよこれでもかという声量のバスケ部が叫びだした。

「ヤバ、可愛すぎるだろ」
「ほんとよなー背高くてスタイルいいな」
「なんだ左手、怪我してんだな?」

誰かのその一言に俺はピシャッと動けなくなった。

そしてザワザワ騒ぐ連中たちの視線の先に目をやるとそこにはあの日俺を助けてくれた女の子が男子生徒に囲まれている様子を見ることができた。俺は驚き目が飛び出そうになったものの気が付けばズカズカと歩みを進めていたのだった。

「おい諸星!どこ行くんだよ?」

転校生...?もしかしてこの子が?

「ちょっと来て」

ガシッと輪の中の中心を掴むとズカズカと引っ張っていき俺は屋上についた途端彼女の方を振り返った。少し赤い顔で、そして驚いたような顔で俺を見つめる彼女と目が合った。

「もしかして転校生か?」
『そうなの...バレたかぁ』
「なんだよ言えば良かったのに、つか...また会えて良かったわ」
『えっ...?!』

この間よりも巻かれた包帯の量が減っており少しずつ良くなっているようで本当に良かった。

「この間は本当に悪かった、たくさんつらい思いさせてごめんな」
『私が好きでしたことだから諸星くんは気にしないで』

この間も謝ったけれど、なんだか自分の中で納得がいっていなかった俺は再び深々と頭を下げた。彼女はいつだってヘヘッと明るく笑うから俺が泣きそうになる。

「どこから越してきたんだ?」
『神奈川県だよ』
「前の高校は?」
『海南大附属ってところ』

なんだよそれ牧んとこじゃねぇか...なんだ、神奈川から来たんだ。なぜか俺は親近感を抱いていた。

『私ね中学までバスケしてて昔からずっと諸星くんのこと知ってるよ』
「あぁそうだったのか...」
『だからこの間男が刃物持ってるの見てヤバイと思ったけど目の前に歩いてるのが諸星くんに見えたから余計まずいと思ってさぁ...』

『ずっと憧れてたから傷付いて欲しくなかったの』

切なそうな顔でそう言われて俺はひどく心を打たれた。なんだよそれ、馬鹿野郎。めちゃくちゃじゃねぇかよ、そんな理由で刃物に立ち向かうなんて普通できねーよ...

『あぁ私ね武道も習ってたから倒せるかな?と思っちゃったんだよね』

へへ、でも諸星くん無事で良かったなぁって思ってるんだ。




その言葉を聞き俺はもう自分を抑えられなかった。そっと隣に座る彼女を抱き寄せると自分の胸の中に収めておいた。腕の中から焦った声が聞こえる。見上げられパチリと至近距離であった目と目。そっと近づくとぎゅっと目を閉じる彼女のおでこにやさしく口付けた。














どうかこの先彼女を守って行けますように

(次は俺の番だ)








prev / back / next
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -