湘北



「あーあ、ありゃやられるな」

部活がオフの日、駅前を歩いていた三井は影に隠れ男たちに絡まれる1人の女を見つめていた。何かあればすぐ駆けつけられる距離だ。だがしかし、その必要がないことを彼は知っている。


「なんだよ、遊ぼうぜ」
「おい聞こえてんのか?」
『...汚い手で触らないで』
「?!っ、イテテテテッ!」


ガッと掴まれた肩。あまりにも不快だったらしい。触られた瞬間相手の手を取るとグググと捻った。あまりの動作の速さに三井は瞬きするのも忘れて見つめていた。いやしかし本当につえぇなぁ...


「んだテメー調子乗んな!」
「女だからって...ッ?!」


無情にも殴りかかろうとした男たちを見て三井は反射的に一歩踏み出したがやっぱりそんな必要ないんだと思い知った。華麗に避けて肘鉄喰らわせてもう1人には首にチョップ喰らわせていとも簡単に倒した。なんというか...やってることは喧嘩や暴力に似ているのに、コイツがやれば美しい。


『女にやられて残念な奴ら』


フンッと鼻を鳴らして何事もなかったかのように歩き始めた女、湘北の2年マネージャーなまえを見て三井はいつかの自分を思い出した。


(三井寿...!)


あの鉄拳は痛かった。
何を隠そうバスケ部襲撃の際、水戸となまえにボコボコに殴られているのだ。ヤベェな本当あの強さは...。

殴られすぎておかしくなっちまったのか俺は。
それ以来どうにもこうにも頭の中にはなまえが棲み着いていてちっとも離れてくれないんだ。今も簡単に男をやっつけた姿を見て胸が高鳴りとうとう自分も末期だと思い知った。ほんとに俺は...情けねぇ。


**


「ねー彩子ー?宮城、彩子は?」
「アヤちゃん?...アヤちゃーん!」


昼休み、中庭で彩子を探す2人を見つけて三井はとうとうため息がこぼれた。なまえ彩子そして宮城は同じクラス同じ部活であり側から見ていても信じられないほど仲が良かった。宮城の目当ては彩子だとそんなの当たり前だけれど常になまえが隣にいる事実に三井は苛立ちを隠せなかった。なんだよアイツマジでムカつく。


『...彩子!いたいたぁ!』
「大変よなまえ!あんた昨日また喧嘩したの?!」
『えっ...?あ、あぁそういえば...』


彩子は真っ青な顔でなまえの肩を掴むと正門に変な男たちが乗り込んできたわ!と叫んだ。どうやら昨日の連中が仲間を増やして復讐に来たらしい。暇人め。なまえは驚くどころかまたか...とため息をついたし宮城は行く気満々、ではあるがもう二度と喧嘩はしない約束であることを思い出しグッと拳を握った。


「どうするなまえちゃん...」
『宮城、心配しないでここにいて?行ってくる』
「バッ!危ねーよなまえちゃん!待てって!」


三井もその姿を見て慌てて追いかけようとしたが事態を早急に察した洋平がどことなく現れ走り出したなまえの手を掴んだ。


「待てよ、お嬢さん」
『あっ、洋平...助けてくれる?』
「お安い御用」


サラッと現れ手を取ったまま廊下を走り出すなまえと水戸を見て三井はグッと拳を握りしめた。なんだよマジで水戸洋平...!

桜木軍団から姐御!と呼ばれるなまえは日頃から桜木含め皆と仲良くしているようだった。なにせそのきっかけを作ったのは紛れもなく自分。バスケ部襲撃の際に絆を深め、あまりの強さに姐御!と呼ばれるようになり、自分の為に罪をかぶってくれた水戸達に月に2回ほど食事を奢っているんだと聞いたことがあった。マネージャーでもバスケ部ってことに変わりはねぇだろ、と水戸がなまえは喧嘩してないことにしてくれたのをその場で見ていた。なんて男だ、自分とは大違い...その事実に余計腹が立った。


『ほんっとだっさいね、目立つからこっち来いよ』


ファンファンバイクを鳴らしたって結局敵わないんだから諦めろ。その後合流した3バカトリオと水戸の4人で次々と相手を倒し結局なまえは指一本足りとも男に触れなかった。いや、触れさせなかったんだ、水戸洋平が。


「よかったなまえさんが無事で」
『ありがとうねみんないつも申し訳ない...』
「いーえ、俺らがいる時は黙って守られてる約束だもんな?」
『今日も約束守ったよ、ありがとう』


近くに駆けつけ木の陰から見ていた宮城三井はそのやり取りに電流が流れる。なんだよクソイケメンかよ、三井はガックリうな垂れた。


「三井サンはなまえちゃんより弱いもんねぇ」
「るせーな、痛いとこ突くんじゃねーよ」


こりゃ誰だってときめくだろ。つーか俺が喧嘩の強いなまえにときめいてるっつーの。マジで本当にもう...!!

三井にはバスケットしかなかった。彼女を振り向かせるならばそれはもう選手とマネージャーとしてプレーで惹きつけるしかなかった。いい、俺にはバスケがある。大丈夫だ。頑張れよ、俺。






厄介な奴に恋したばっかりに...

(あーもうーマジでー!!!)








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