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闇に溶けた時刻が、零時を疾っくに過ぎた頃。

静まり返った辺りに響く靴音が、扉の正面に位置して止まる。数秒後、開いた扉の隙間から差し込んだ僅かな光が室内に一筋の線を描いた。
後ろ手に扉を閉めたのち、隊服のジャケットをソファの背もたれに放り投げる。汗と共に染み付いた誰のかも分からない鉄くさい匂いを清める為、脱衣場に向かった。

長期の仕事から解放され、漸く帰城出来た事にやれやれと思う自分がいる。其の事に、今更ながら微々たる驚きを感じずにはいられなかった。
ガキの頃から、此の暗殺という裏社会の仕事を楽しくこなしてきた其れは今も変わらない。だが、最近になって其の自身の心情に、確かな変化が現れてきている事をベルフェゴールは犇々と感じていた。

任務の最中、決まってと言っていい程に頭を過ぎるのは後輩の姿。只々、早く会いたくて、殺戮の楽しさすら忘れて事務的にさっさと終わらせたりする事も屡。
其れは紛れもなく、此の血しか知らなかった二六年間、初めて人を愛する事を教えてくれた彼奴の存在であって。

脱衣場から出た時にシャツを取り忘れていた事に気づき、ボトムだけ着用して部屋に戻る。金色の毛先から滴り落ちる水滴をタオルで乱暴に拭いながら寝室に向かった。電気も付けずに、暗がりでチェストを漁ろうとした時。

―――ん、

微かにふわりと漂った、紛れもない自分以外の匂い。
寝台に爪先を向けて静かに近づけば、微かに聞こえる息の音に前髪の下の瞳をそっと凝らした。
例えるならば甘く砂糖菓子のような、何時も心の何処かを空かせた自分を満たしてくれ、時には其の無防備さにはらはらさせられる其の存在。キングサイズのベッドの上だと余計に小さく見える其の小動物のような其奴の近くに腰掛け、暗がりに馴染んだ翡翠の髪を優しく梳けば、ふるりと小さく揃いの睫が揺れた。

「………フラン」

そっと髪を掻き分け、形の良い耳に名を落とす。未だ反応を示さない其奴に再度囁くように名を呼べば、擽ったそうに身を捩った。何処か幸せそうに、ふふ、と口元を緩める其奴が堪らなく愛らしくて。

其処で、沸々と悪戯心が湧いたものだったから。耳の形に沿うようにして舌を這わせると、其奴はびくりと確かな反応を示し、身を縮めた。暫く様子を窺ってみるが、其れでも起きる気配がないので、好いように耳内に舌を侵入させる。
其れに連なって、息を詰めるような気配と共に仄かに色付いていく頬が垣間見えた。
本当に此処まで可愛らしいと思える人間に出会った事はないし、これから先も、此奴以外有り得ないと思う。

「バーカ、いつまで寝たふりしてんだよ」

そんな言葉を落として数秒経ったのち、堅く閉じられた瞼がそっと開かれる。恨めしそうにちろりと此方を睨み上げた。赤く上気した耳と連なり、頬までをも桃色に染めているのが暗闇の中でも見て取れる。睨んでいても、唆られるだけであって。
自分を待っていたのかと問うと、日付変わる前に帰るって言ってた癖に遅いんですよ堕王子、と悪態を吐かれた。

「遅くなってごめんな。ただいま」

そう言ってぶちぶち毒を吐く其奴の目元に羽根が掠めるようなキスを落とす。きゅっと一に結ばれた唇が薄く開き、蚊の鳴くような声でお帰りなさいと呟かれて。
不器用な其れが堪らなく愛しく、覆い被さるように抱き締めれば恐る恐る背中に回された手に、またじわりと心が満たされた。

密着した所で、ふと滑らかな肌の感触を感じて目線を下げる。露出したふっくらとした太腿が目に入り、其処で思わず凝視してしまった。

「……随分、涼しい格好してんじゃん」

言いながら太腿を撫で回すように、其の侭服の中に掌を滑らせる。

「……っぁ…、」

思わずといった風に洩れた甘い吐息の後、慌てて脚を閉じようとするフラン。直ぐ様膝頭の間に体を割り込み、四肢を上から抑え付けるように体重を掛けた。舐め回すように露出した太腿をじっと見つめれば、其奴は仄かに赤く頬を染めたのち身を縮める。
フランが身に着けていたのは白いロングシャツ。シャツ、だけであって。

「……せん、ぱい…」

か細い声が聞こえたのち、柔くシャツを引っ張られる感覚がした。視線を落とせば、自身のボーダーを小さく掴んで此方を見上げる其奴。心なしか潤んだ翡翠色の宝玉のような双眸と、仄かに色付いた肌に薄く開いた唇。其れは眼福であると同時に、此の目に痛い程毒で。
何か言葉を発する訳でもなく、無言でシャツを引っ張ってくる其奴の言いたい事を察した直後、腹の底から沸々と嗜虐心が沸き起こった。

「……シャツ、伸びるんだけど」

「…っ…」

態と冷たい声を装い発せば、其奴はびくりと肩を揺らして指を離す。拒絶された事へのショックなのか、怯えたように表情を歪めるフランを無表情で見下ろぜば、次第にじわりと双眸を潤ませ小さく震え出す其奴に、ぞくぞくと場違いな興奮を覚えた。

「……一々泣くとか、面倒くせぇ」

「…ご、め…っ、なさ…」

「謝られてーわけじゃねぇし、オレに言いたいことあんじゃねーの?」

そう言って嬲るように指先で腰辺りをなぞると、素直に反応を示し焦れたようにフランは唇を震わせた。

「……い…て…」

「あ?」

「…っ…、だ…い、て…くだ、さい…っ!」

「―――ししっ、……良く出来ました」

フランに跨った侭軽く腰を浮かせ、腿の中程までを覆ったTシャツを捲り上げればベルフェゴールの眼前に晒された裸体が仄かに色づいた。色白の肌に這うように掌を滑らせ、つぅ、と中心を指の腹でなぞるように触れる。ふるりと身を震わせ敏感に反応を示した其処はじわじわと濡れ、粘着質な其れが指に絡まった。
其れだけでも、此の長期で自分が居ぬ間フランが自分を求めていたのが見てとれて。一瞥すると声を我慢しているのか、強く唇を引き結んだ侭、頬を上気させている其の様子を可愛いと感じると共に、拭いきれない快楽へと突き落としてやりたくもなる。
既に反応を示すフラン自身に手を伸ばし、先走りを自らの指に絡ませるように擦り付け、後孔へ導く。

「力抜けよ」

そう言ってから、秘部に指を突き立てて埋め込む。息を詰める音が聞こえたが然してきつくないのだろうか、声を発さないのを見て擦るように指を動かした。慣らすように上下に抜き差しを繰り返せば、切なげに眉が潜められる。其れを確認して人差し指に中指を添えながら、再び蕾につぷ、と指を差し入れた。
内壁を広げるように不規則に指を動かせば、反応を示す中が何かを期待するように小刻みにひくつく。

「…っ…ん…、く、ぁ…」

洩れる吐息に甘いものが混じり、呼吸が落ち着きなくなった頃合いを見計らって、二本の指を引き抜いた。思わずといった風に焦れた声が下から上がり、口端が緩む。
ボトムを脱ぎ捨て、フランの脇腹に腕を通し体を起こしてやると、不思議そうにきょとんと此方を見上げる其奴に眩んだ。

「…? せんぱ、…っ! ひ、ぅぁっ…!」

天を仰ぐ自身に相手の後孔の位置を合わせ支える力をそっと抜けば、重力に倣い沈むフランの体が一気にベルフェゴール自身を飲み込んだ。心構えが出来ていなかった所為もあるのか敏感に反応を示し、白濁を吐き出して達してしまったフランに気を良くする。其の侭相手の腰を掴み固定して、下から突き上げる。
細く華奢な体に掛かる負担をぎりぎり理性の届く範囲まで押し留めて、か細い体を欲する侭に揺さぶれば、しどけなく乱れて喘いだ。

「っふぁ、ぁっ!ぃやぁ…ぁっ、ん」

「……ししっ、良い声」

相手の顎を指先で捕らえて上向かせ、噛みつくように口付けをする。貪るような口付けの最中も律動は止めない。酸素を欲するように薄く開いた唇の間から舌を絡め取れば酸欠状態に陥り、途端に双眸に生理的な涙を浮かばせる相手にぞくぞくと加虐心を煽られて。前立腺を押し上げるように最奥ばかりを攻め立て抉るように穿てば、涙に濡れた頬を羞恥に染めて乱れるフランに、くらくらと眩暈を覚えた。
何時もとて、無自覚にもこんなに可愛くて厭らしい此奴は、容赦なく此方の理性を崩しに掛かる。

「……どんだけ我慢してたんだよ、此処こんなにして、さ。お前本当に厭らしいな」

「っ…ちが、んゃ、ぁあぁっ!」

「何がちげぇの?我慢してた事?此処こんなにしてる事?あぁ、厭らしいのはさすがに自覚してるよな」

さらさらと口をついて出る辱めの言葉。耳まで真っ赤に染めてほろりと涙を流す其奴は、そんな反応をするから相手に苛められるという事に気づかないらしい。
息つく暇も与えずがつがつと突き上げれば、肉のぶつかる粘着質な音と小動物のような鳴き声に煽られ、次第に加減を忘れていった。生憎自分とて長期任務に駆り出されている間はお預け状態だった為、相手を焦らしている余裕等ないのは事実で。体と体をぴったりと密着させ、抱き抱えるようにして腰を打ち付ける。悲鳴にも似た愛嬌を上げながらも縋り付くように背中に手を回してくる恋人が、酷く愛らしく、愛しくて。夢中になり、其の華奢な身体を貪った。

「っゃぁあ、ん…っ!べる、せん…ぱ、」

「…っ……、」

途端に、きゅっとフランの中の締まりが良くなる。小刻みに収縮し始めたのと連なって、自身も限界が来ているのを感じたベルフェゴールは、絶頂を迎える為抱き締めるようにフランの腰を掴み激しく穿った。

「…っん、ぁ…っ、み、も…ぅ、らめ…っ…」

「…オレも……っ」

「せん…ぱ…いっ、せん、ぱ…っ、っぁ、んゃぁああ…っ!」

「っ…、フラン……っ」

一際高い声を上げ、果てたフランの中の締め付けに持って行かれるようにベルフェゴールもフランの中で脈打ち達した。


**


どちらとなく目覚めた時、時刻は既に昼近くだった。目を覚ますや否や、初っ端から腰が痛いだの腹が減っただの、動けないから責任とれだのと煩いフランの額を掌で叩き制す。

「いたっ! …ちょっと、何するんですかー!」

「ぴーぴー煩いっつーの、大体お前が誘ったから辱めてやったんだろーが」

「っ!そ、んな事誰も頼んでないです…っ」

先程の情事を思い出したのか、途端に顔を林檎のように真っ赤に染めて言葉を紡ぐフラン。自身の胸板に額を押し付け強制的に黙らすと、共に後方のベッドへ倒れ込んだ。

「……ちょっ、と……」

「……フラン…」

「……………」

「……フラン」

「…………はいー…」




「………今日、厭らしかったな」

べちっ!!と額に今日一番の平手打ちを、食らう。枕に額を埋めて呻き声を上げるベルフェゴールを後目に、フランは真っ赤な顔を隠すように思い切り布団を被った。







**

2222hitキリリク*翆様からのリクエスト。

設定付加に甘えさせて頂いた結果、何やら変態くさくなってしまって申し訳ありません…うちの子はちゃんと誘えてたでしょうか。こんな出来栄えですが少しでも楽しんで頂けたら幸いです´`*

翆様のみお持ち帰り、返品可です。
リクエスト有り難うございました!



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