最近、カエルがよくアジトを抜け出して何処かへ行っている。
前に一度問い詰めた事があるのだが、何だかんだ言ってはぐらかされた侭現在。
「すっごく美味しいケーキ屋さんを見つけましてー。定期的に通わずにはいられないんですー」
と、言って折角久し振りに二人きりのオフが出来たにも拘わらず、恋人であるオレを置いてまた其のケーキ屋とやらに行こうとする其奴。
ついて行こうとした所フランは物凄い速さで支度を済ませ、遅いんで置いて行きますねと言い残し疾風の如く去って行った。
ケーキ屋、ね。
確かに最近の彼奴から微かに漂う甘い匂いには疾っくに気がついていた。
ケーキじゃなく忌々しい位に見覚えのある男の、甘ったるい香水の、な。
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「ありがとうございますー。お陰で間に合いましたー」
「ししっ、そりゃ良かった」
綺麗に包装された箱を収納した紙袋を隣の空いた席に置いてから顔を上げたフランは向かいに座る人物に礼を述べる。
テーブルに頬杖を付きチェシャ猫のように笑う其の人を見て、最近恋人を放置しまくっていた事を思い出し少しばかり後ろめたく感じた。
「今日が其奴の誕生日なんだっけ?」
「あ、はい。プレゼント決まるの間に合って良かったですー」
「…………」
「……? どうかしましたかー?」
明らかな表情の変化に気がついたフランが問うと、さらりとした前髪越しに視線が混じり流れるような動作でそっと髪を掬われた。
「デートも今日までかと思って」
「…っ、誰がデートなんて言ったんですかミーは買い物に付き合ってもらっただけで…」
「なぁ、今度オレの誕生日欲しいものあるんだけど」
「……なんですかー」
「勿論フラ「なにしてんのクソ兄貴」
聞き慣れた声に遮られて、フランが視線を走らせれば向かい合わせに座る金髪の背後に其の瓜二つの人影。
「あ…ベルセンパイ」
「何がケーキ屋だよ、なぁ、これどういう訳?」
端から見ても相当ご立腹な様子のベルフェゴールにフランは内心拙いな、と呟く。
「…しし、よく此処まで嗅ぎつけてきたな失敗作」
「何お前クソジル、オレのフランと二人きりでお茶しちゃってるわけ。何?フラン、浮気?」
「違いますってー…!付き合ってもらってたんですー」
「は?なにを」
口調は棘のようで、募りに募った苛々が今にも爆発しそうなベルフェゴールを必死で宥めた。
「お兄さんに、友人の誕生日プレゼントを一緒に選んでもらってたんですー」
「は?だったらなんでオレじゃないわけ?何?オレよりジルがいいわけ?」
「そーいうこと。さぁ今すぐ別れろ」
「ちょっとアホ兄貴黙っててください」
フランは一瞬惑うように視線を彷徨わせたのち、小さく息を吐いてベルフェゴールと視線を合わせた。
「……最近、ベルセンパイ任務続きだったから…疲れて帰ってきてるのに、付き合ってなんて…言えなかったんです」
「…は?」
苛々とした態度から一変、途端にベルフェゴールは拍子抜けしたような声を発した。
「……オレの負担の事考えてたの?」
「……はい」
今度は気まずそうにそわそわと視線を彷徨わせて言葉を紡ぐ恋人に、先程までぐつぐつと煮えくり返っていた怒りがぷすん、と音を立てて消沈した。
迷いなく目の前の手首を引いて腕の中に閉じ込める。
「え…、せんぱい」
ぎゅうう、と潰れるくらいに小さな体を抱き締める。だって可愛過ぎんじゃん。オレの心配してたとかさ。超愛しいよオレのカエル姫。
公然の喫茶店で少しざわつく野次馬なんか気にせず抱擁していれば直ぐ近くでフォークの刺さる音がした。
「は?なんなの意味わかんねえんだけど、超営業妨害迷惑バカップルうぜぇマジムカつく殺したい羨ましくなんかねぇ」
呪文を唱えるように一区切りに捲くし立てテーブルにグサグサとフォークを突き立てる兄貴を目の端に一旦体を離して口を開く。
「なぁ、オレも一緒に渡しに行く」
「え、なんでですかー」
「其奴の顔見てみたいし。そんだけ仲良いなら恋人紹介するべきだろ?」
「…後者はいりませんけどー、いいですよ。じゃあベルセンパイも一緒に行きましょー、凄く良い人なんで」
「じゃあオレ様も「あ、結構ですー」
「……………」
20110916
桐原さん、お誕生日おめでとうございます!