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養護教諭ベル×保健委員フラン





ホームルームを終えてざわつくクラスメイト達を尻目にフランはプリントの束を抱えて足早に教室を後にした。
西日に照らされて茜色に染まった回廊を抜けながら、逸る気持ちを抑えるようにプリントを抱いた指先に力を込める。目的の部屋の前まで辿り着いて扉をノックすれば、中から聞こえてきた返事を合図にドアノブに手をかけた。

「失礼しまーす」

「どーぞ…ってなんだ、お前かよ」

デスクに向けていた体を傾けて振り返り、此方の存在を認識した瞬間に彼は顔を綻ばせた。
窓辺から射し込む夕焼けを受けた白衣は仄かな山吹色を纏い、連なるようにキラキラと煌めく金糸がより一層眩しくてフランは瞳を細める。後ろ手に扉を閉めて歩み寄り、悟られぬように平常心を装いながら持っていたプリントの束を目の前の彼に差し出した。

「保健室のアンケート回収してきましたー。誠に残念ながら今年もよろしくお願いしますー」

「……また保健委員になったの? お前って本当にオレのこと好きだよな」

「気持ち悪い妄想やめてくださいー。別に率先して立候補したわけじゃなくて、余り物ジャンケンで負けたんですー」

「ふーん。確か去年も同じこと聞いた気がするけどな」

此方の意固地など見透かしたようにベルフェゴールはニヤニヤと愉しげな笑みを浮かべた。
浅く椅子に腰掛けた気怠げな姿勢は怠慢で、其の若々しい見た目も相俟って教師というよりも擦れた生徒のように見える。指導する側として相応しくない、と咎められそうな立ち振舞いさえも彼ならば様になってしまうのだから憎たらしい。
プリントの束を受け取ると、ベルフェゴールは半開きのデスクから小さなチョコレートを取り出してフランの手元に放り投げてきた。

「相変わらずお菓子は常備してあるんですねー」

「お子ちゃま共を動かすには餌付けが一番効くからな」

「…ミーは委員の仕事をサボったことなんて一度もありませんー」

「そう、いつも真面目に働いてんのはお前だけ。いい子だからクッキーもオマケしてやるよ」

そう言いながら今度はクッキーの入った包み紙を投げられて、思わずこそばゆくなってしまった内心を隠すように「どうも」とフランは無愛想に返事をした。

「そういや進路の方はどうよ。大学行くんだろ?」

「あー…結局この間言ってた所に決めました。奨学金も出るみたいですし、寮も安くて近いんでー」

「寮? どうせオレの家から通うことになるんだから意味ねーじゃん」

「……前々から思ってたんですけど、それ本気なんですかー?」

「お前だってそうしたいって言っただろ」

「それ…は、そうですけど…」

ストレートな物言いに口籠ると、ベルフェゴールは徐に保健室の扉を指差してから己の膝を叩いた。
彼の言わんとすることを悟り、フランは仕方なく扉の鍵を閉めて側に歩み寄る。どうするべきか理解した上で動くのを躊躇っていると、焦れた其の人に腰を抱き寄せられて向かい合うような形でフランはベルフェゴールに跨がった。

男二人分の体重を支えてギシリと軋む椅子の音が鼓膜を揺らし、緊張から思わず身を強張らせる。

「卒業したらオレの所に来い、って言った時はあんなに喜んでたくせに」

「…喜んでませんー。先生がどうしてもって言うから仕方なくOKしてあげたんですー」

「あっそう。その前に泣きそうになりながら一世一代の告白してきたのは誰だったっけな」

「……そんなの知りません、夢でも見てたんじゃないですかー」

「…惚けんなクソガキ」

「…っん、…ふ」

噛みつくように唇を塞がれて、フランは反射的に肩を震わせて瞳を閉じた。
ぬるりと口内に忍び込んできた肉厚に怯えて身を引くも後頭部に回された手の所為で逃げられない。食されるのではないかと疑るくらいに舌を吸い上げられ、口蓋を擽られると背筋にぞくぞくとした悦びが這い上がった。
拒む事も出来ずベルフェゴールの肩口を掴んで必死に受け入れていると、突然制服をたくし上げて腹部を弄ってきた手に驚いて叱咤するように彼の腕を叩いた。

「…っ馬鹿なんですかー」

「馬鹿だったら教師になってねーよ」

「だったらこんなところで堂々と生徒にセクハラしないでくださいー」

「だから万が一の為に鍵閉めたんじゃん」

「……などと供述しておりー」

「オレに会えなくなって困るのはお前だろ?」

自分達の関係が周りにバレたらどうなるかなんて想像しただけでも背筋が凍りそうになる。ベルフェゴールも其の事は重々承知している筈なのに、あまり危機感を感じている様子が窺えずフランは溜め息を吐きそうになる。

「……卒業するまで待つって言ってたくせに、先生は嘘吐きですー」

「子供扱いするなってキレて誘ってきたお前が悪いんだろ」

「…別にキレてませんー」

「誘ったのは認めるんだ?」

「……変な所で大人ぶるのがムカついたんで、先生として言い逃れのできない大罪を擦り付けたかっただけですー」

「…もっと可愛い言い訳はできねぇのかよ」

呆れたように苦笑いをするベルフェゴールに対してむっと不貞腐れた顔を向けると、腰に回された腕が今度は下腹部に伸びてきてドキリと心臓が跳ねた。

「キスしただけで勃つヤりたい盛りの年頃に我慢しろって言うのも酷な話だからな」

「…じゃあ先生はそろそろ性欲が減退してくるお歳ってことですかー」

「言っとくけどまだ現役だし、お前より体力あるっつーの」

軽口を叩きながら半勃ちの其れをぐにぐにと揉まれると言い逃れも出来ず、恨めしそうに目の前のベルフェゴールを睨み付けた。

「抜いてやろうか?」

「……結構ですー」

「このままじゃ外出れねーだろ」

「じゃあトイレ貸してくださいー」

「オレのことは気にせずここでやれよ」

「嫌ですー」

「遠慮すんなって」

「……離してくださいー」

ああだこうだと言い合いをしている最中にもベルフェゴールは股間を摩る手を休めてくれず、余計に悪化してしまった其れを何とか静めようとフランは下半身に力を込めて耐え忍ぶ。宛ら悪魔のような笑みを携えながら制服のベルトに手を掛けてくる其の人を拒絶するように押し返した。

「…外から見えたらどうするんですかー」

「じゃあベッドの方がいい?」

「そうじゃなくて…っちょっ、と…なに…」

「こら、暴れると危ないだろ」

「な…っに考えてるんですか、降ろしてくださいーっ」

「抜くだけだっての。すぐに終わる」

「だから自分でできま…っわ、」

いきなり身体を抱えられたかと思えば部屋の奥まで連行されて、ぼすん、とフランは寝台に尻餅をつく。慌てて立ち上がろうとすれば素早くカーテンを閉められて逃れることは許されない濃密な空間に閉じ込められてしまった。
まるで王子のように跪いて丁寧に上履きを脱がせてくるベルフェゴールに身を引くと、狼狽える此方とは正反対に酷く爽やかな笑顔を向けられて困惑した。

「……本当に、抜くだけですかー…?」

「だから何度も言ってんだろ。ほら、脚上げて」

ひょいと脚を持ち上げて制服のベルトに手を掛けられると、あまりの手際の良さに恐れをなして脚を閉じてしまう。不安気にベルフェゴールを見上げれば「制服が汚れたら困るだろ?」と言いながら頬を撫でられて、どうしたら良いのか分からずフランは逡巡するように視線を彷徨わせた。
悶々と熱を持て余した自身が解放を求めているのは事実で、どんなに躊躇っても結局は目の前の彼に頼るしかないという事は分かっている。分かってはいるけど羞恥が其の一歩を押し留めて身動ぎが出来ない。
急かすように腿をなぞられるといよいよ居た堪れなくなって、フランは俯いたまま覚悟を決めたように恐る恐る脚を開いた。シャツを捲り上げて前を擡げられると、既に熱を持った素肌が外気に晒されてひんやりとした空気が体温を攫う。

鍵を閉めていても部屋が明るい侭だと誰かが訪ねてきてしまうかもしれない。そう危惧したベルフェゴールが灯りを落とすと外から射し込む西日が照明代わりとなって薄暗くなった保健室を赤く染め上げた。
夕焼けを背に琥珀色の翳りを帯びた白衣に目を奪われていると、不意に下着越しに陰茎を掌で包まれてフランは息を詰める。向かい合う形で開いた脚の間を擦られると既に半勃ちだった其処は彼の手中で脈動して誤魔化しようもなく変貌してしまう事が恥ずかしく顔に熱が集中した。
制服のズボンごと下着を膝頭の付近まで下ろされるとまともにベルフェゴールの顔も見れなくなって、身体を強張らせたまま俯いているとくつくつと押し殺すような笑い声が降ってきた。

「初めて抱いた時より緊張してるってどういうことだよ」

「……だ…って、あれは、先生の家でしたし…」

「学校だから緊張してんの? 大丈夫、誰もこねぇよ」

ベルフェゴールが言っている緊張の類いは似て非なるものだとフランは思う。誰かに見つかるのでは、という不安が心根にあるのは確かだが、それよりもフランの頭の中を占めるのは言い様のない昂奮と背徳感だった。こんなことをしていいのだろうか、と分かっているくせに自分自身へ無意味な問い掛けをしては昂りを覚え、こくりと生唾を飲み込む。

「……っ、…」

「そんなに縮こまったら上着にかかるぞ」

「…う、」

「……体勢変える? ちょっと後ろ向いて」

腕を引かれて言われる侭に背を向けると、寝台の上で後ろから抱き抱えられるような姿勢で脚を開かれた。保健室に漂う消毒液の独特な匂いと間近に位置付いたベルフェゴールの香水が混じり合い、悪戯にフランの鼻腔を擽っては邪な欲望を扇動する。
先端からじわりと滲んできた先走りを親指で拭い、搾り取るように陰茎を擦られると自然と太股が揺れた。亀裂の窪みをぐりぐりと刺激されながら耳朶を食むように咥えられるとどうしようもなく切なさが込み上げてしまう。ベルフェゴールの腕を掴んで息を塞ぎ込む事しか出来ない自分が情けなくて唇を噛み締めた。

「…っあ、ぁ…待っ…」

「イきそう? 出していいぜ」

「…っう、ぁ…」

吐精を促すように窄めた掌を上下に抜かれて、ぞくぞくと腹の奥底から込み上げる情動に倣いフランは小さく身体を痙攣させて呆気なく達してしまった。
先端から溢れた白濁をティッシュで拭ってくれるベルフェゴールにはっと我に返り、冷静になった頭がやってしまったと後悔に満ちる。

「……す、すみません…っ」

「なに謝ってんの? シーツは無事だけど」

「…や、そうじゃなくて…」

噛み合わない会話に言い淀むと、にんまりと笑った其の人にくしゃくしゃと頭を撫でられて余計に気まずくなってしまった。恥ずかしさから素早い動きで下げられた下着とズボンを穿いた所でフランは違和感に気づき、ふと動きを止める。

「暗くなってきたから気をつけて帰れよ」

「…え、…でも」

「どうした?」

「……先生、は…」

言い難そうに語尾を濁しながらフランはちらりと控え目にベルフェゴールの下半身へと視線を寄越す。体勢を変えた時に当たった感触で感づいていたが、改めて黙視しても布越しでも分かるくらいに彼の股間は腫れていて。
思わず喉を鳴らしてベルフェゴールの顔を窺うと、当の本人は決まりが悪そうな顔をして首を掻いていた。

「お前が帰ったら適当に抜いとくから心配すんな」

「で…も、」

「ほら、そろそろ出ないと門が閉まっちまうぞ」

カーテンを開けて寝台から降りてしまうベルフェゴールに気後れし、フランは着衣した状態から動けなくなってしまう。燻っていた熱は解放された筈なのに。どうしてこんなに悶々としてしまうんだろう。まるでこんな形での悦楽は望んでいないと身体が叫んでいるようだった。

ぽつんと寝台に取り残されて身動きしないフランに気づき、再び側に寄ってきたベルフェゴールが不思議そうに首を傾げる。

「何ぼんやりしてんの」

「……だって、ミー…まだ…」

「…どした? 抜き足りなかった?」

茶化すような口調で顔を覗き込んでくる彼の白衣を掴んで引き寄せると、バランスを崩した其の人はシーツに手を突いて面食らった表情を見せた。ぐるぐると目紛るしく回る思考は無意味に迂回するばかりで役に立つ気配が全くない。咄嗟に気の利いた言葉も出てこなくて感情の赴く侭に目の前の唇に柔らかくキスをすると、何処からかごくりと喉を鳴らす音が聞こえたような気がした。
ベルフェゴールを引き留めたい一心で舌を絡めて誘うと逡巡したように固まった彼は一拍の間を置いてから根負けしたように舌を吸い上げてきて、水気を帯びた音と時折混じる吐息がフランの頭の中を被覆するように支配してしまう。
可愛らしい音を立てて唇を離すと、直ぐに上体を起こして距離を取ろうとするベルフェゴールの逃げ道を塞ぐ為にフランは仕切りの布を掴んだ。

「……おい、フラン…」

後ろ手にカーテンを閉め、再び作り出した密な空間にベルフェゴールを追い込む。制服の上着を床に脱ぎ捨てると彼は何かを言いたげに口を開閉してから沈黙し、震える手で中途半端に足れたベルトを引き抜くと舐めるように凝視されて心音が加速した。

「……もう帰る時間だろ」

「…そんな、の…わかってます」

「門限あんだろーが」

「……今日の、ミーは…夜遅くまで友達と勉強会なんです」

「……ったく、悪いことばっかり覚えやがって…」

お手上げだと言わんばかりに肩を竦め、観念したようにベルフェゴールは羽織っていた白衣を脱ぎ捨てた。そうやって教えたのは先生でしょうと返せば、そうだな、と彼は自らの過ちを蔑むように薄く笑みを浮かべながら片手でネクタイを緩める。
お前がそんな風になったのは全部オレのせいだ、と覆い被さってきた其の人の瞳は爛々と貪婪な炎を灯していた。


**


硝子戸から注ぐ夕映えが、灯りを落とした保健室と重なる二つの影を淫靡に縁取る。
人目を忍んで興じるこの行為は誰にも知られてはいけない。そう思えば思う程、心を蝕む情欲はこの身を焦がすように燃え盛った。
白磁の肌に指を滑らせ、抉るように隘路を貫けば喉元を反り返らせて猫のような鳴き声を上げる。ぐちゅりと腹の奥で蠢き腫れ上がった雄を受け入れ、もはや息をするので精一杯なフランはシーツを掴んで与えられる悦楽に身悶えるしかない。
薄い胸板を上下させて浅い呼吸を繰り返していると、少し心配そうに動きを止めたベルフェゴールに頬を撫でられた。

「んー…まだきついか…」

「…っあ、だい…大丈夫、です…」

「…無理すんなって。動かないから力抜いてみ」

「…っん、ぁ…」

言われた通りに力んでいた肩の力を抜き、フランは意識的に息を大きく吐き出した。
其所でふと自分に覆い被さるベルフェゴールを見やればどうしても繋がった部分に目線が移ってしまい下腹部に力が入ってしまう。視線が交わると笑われたような気がして、羞恥に外方を向けば鼠径部を愛おしげになぞられて顔に熱が上った。
ほんの数十分前、朱色に染まっていた保健室は薄暗い紺藍へと変貌を遂げており、素肌を照らす僅かな光が二人を包み隠すように蠱惑的な翳りを落としている。脱ぎ散らかした衣類が床に散乱しているのをぼんやりと眺めながら、こんなことをしていて良いのだろうかと他人事のようにフランは沈思した。

唇を濡らすようなキスをしてじっと此方の顔を見つめたかと思えば、謀ったようにいきなりベルフェゴールが腰を揺さぶってきて思わず声が裏返ってしまう。

「っひ、ぁん…っ!」

「何ぼーっとしてんだよ」

「ぅ、動かない…って、言っ…」

「……うっせ、余計なこと考えんな」

「や、っ…ぁあ…っ!」

持ち上げた両脚が胸に着くほど折り畳まれて無防備に晒された蕾の奥深くまで挿入されると、接合部から溢れた愛液がじゅぷじゅぷと淫らな音を奏でた。思わず中に挿入った彼の分身を締め上げるとベルフェゴールの口端が嬉しそうに緩んで弧を描く。いやだ、と震える唇が拒絶の意を示しても「嫌じゃないくせに」と見透かしたように一蹴されると其れは二人の空気を甘く溶かすスパイスに成り代わってしまうだけで。
内壁を押し拡げるように律動を速めるとあえかな己の声が静謐な空間に響いてフランは耳を塞ぎたくなる。目尻に滲んだ生理的な涙を舐め取られてじわりと宝玉のような瞳を瞬けば、庇護欲を掻き立てる小動物のような其の姿にベルフェゴールは眩暈を覚えた。

「……せん、せ…」

縋るように伸ばされた手を取り、指を絡めてシーツに縫い付ける。縮こまった艶かしい脚を遠慮がちに腰へと擦り寄せてくる己の恋人に対してベルフェゴールは末恐ろしさを感じた。
此奴をこんな風にさせてしまったのはオレだけど、と思い出したように自嘲めいた笑みを浮かべると其れを見たフランは不思議そうに首を傾けた。

「……ガキのくせになんつー顔してんだよ」

「え、…なん…っぁ、」

「…あぁ、ほら…垂れてる」

切なげに寄せた柳眉と、悦楽に艶めく瞳。薄く開いた唇からは溢れ落ちた銀糸が顎を伝っている。こんな顔、自分以外の誰にも見せたくない。見せることなど絶対に許さない。まだ幼さの残る身体を拓き、男であるフランに間違った性の悦びを教えてしまったことも、教師としてやってはいけない事をしている自覚もあるけど。そんなもの知ったことか、となけなしの理性を心の刃で切り裂いて暗がりで怪しげに光る其奴の唾液を舌で舐め取り、揺らめくフランの視界を塞ぐように唇を奪った。

「…ぅ、ん…っふ」

「…っ、…フラン」

「ひ、ぅ…っ、…せん、せ…ぇ…っ、ぁあ…っ!」

フランの奥底に自分を刻み付けてやろうと繋がった場所を一層激しく犯せば今にも泣きそうな声を上げて啼く其の姿がいじらしくて堪らない。折れてしまいそうな細い身体を抱いてめちゃくちゃに腰を送れば二人を支える寝台がギシギシと煽るように悲鳴を上げる。
不規則に締め付けてくる内壁に限界を感じて、自らも昂りを放出せんとベルフェゴールはフランの額に唇を寄せた。










「……なに拗ねてんの?」

「……別に拗ねてませんー」

お互いに達した後、吐き出した精を処理してからずっとこの調子だ。
床に脱ぎ捨てた服を拾い上げてベルフェゴールがネクタイを締めている間もフランは布団に包まったまま頑なに動こうとしない。どうしたものかと丸い頭を撫でれば、じとりと翡翠色の双眸に睨まれて肩を竦めた。

「………またガキって言いましたー」

あぁやっぱりそのことを根に持っているのか、とベルフェゴールは合点がいく。と同時に、自分はフランの考えていることは手に取るように分かるのだ、と確信めいた支配欲に満たされて思わず頬が緩んだ。
小さく笑みを浮かべるベルフェゴールに気づき馬鹿にされていると勘違いしたのか、フランは眉間に寄せた皺を更に深くして睫毛を伏せた。

「……先生は子供相手に発情する変態ってことですねー」

「…変態じゃねーし。子供扱いなんてしてないって言っただろ」

「……ガキのくせに、って言ったじゃないですかー」

「年齢の割にはエロい顔できるんだな、って褒めたつもりなんだけど」

「……っ、…やっぱり変態じゃないですかー」

一瞬の内に顔を赤らめて、フランは隠れるように布団の影に沈んでしまう。其の初な反応に綻ぶ笑みを隠し立てすることも出来ず、丸まった小さな身体を閉じ込めるように覆い被さりながら耳元に唇を寄せた。

「オレは帰れって言ったのに、言うこと聞かなかったのはお前だろ?」

「…っ、う…」

「勉強するって嘘まで吐いてさ」

「…だ、って…せんせい、が…」

痛いところを突かれたらしいフランは怯んだように口籠り、オレがなに?と問うと布団を被ったまま沈黙してしまった。
実年齢の割に大人びている此奴だからこそ、こうして時偶垣間見える幼さは年相応で可愛らしい、とベルフェゴールは思う。指摘してやった所で、また子供扱いをしていると不貞腐れるのは目に見えていたので口には出さないけれど。
もしかしたらフランは、一生かけても埋めることの出来ない歳の差に不満を持っているのかもしれない。仮にどちらが年上でどちらが年下だろうと、ベルフェゴールがフランを慕情することに変わりはないのだからそんな些末な問題など気に掛けなくてもいいのに。

翠玉の絹糸を指に絡めて現れた耳朶に口付ければ、忽ち桃色に染まってしまうのが分かりやすくて愛しさが込み上げた。

「ほら、送ってやるから起きろ」

「……帰るんですかー?」

「……そりゃ帰るだろ。お前、学校に泊まる気かよ」

「そうじゃなくてー…、…だって、ほら…明日、休みじゃないですかー」

「……それがなに?」

其奴の言わんとすることが理解できず、遠回しな言い方に疑問符が浮かぶ。己の意図がベルフェゴールに伝わっていないことが分かると黙考し、フランは蚊の鳴くような声でぼそぼそと呟いた。

「……先生、の…家ー…」

「オレの家?」

「………行きたい、なー…と」

「…………」

「…いや、別にその…無理なら、いいんですけど…」

「……スケベ」

「は? いてっ…」

びしり、と丸い額を指で弾くと、何故スケベ呼ばわりをされたのか分かっていない様子できょとんと目を丸くさせるフラン。一瞬の間を挟んだ後、じわじわと紅潮していく顔をベルフェゴールは興味深げに眺めた。

「なに今更赤くなってんだよ」

「…っミーは、そんなつもりで言ったんじゃ…!」

「その格好で言われても説得力ないけどな」

そう返されて漸く己の身なりを自覚したのか、引っ掴んだ制服に慌てて腕を通す其奴の様相に頬が緩む。白衣を脱ぐ代わりに自前のジャケットを羽織り、ベッドの隅に置かれていたスクールバッグをフランに手渡した。

「で、言い訳はどうすんの? 朝まで勉強してましたーはさすがに無理があるだろ」

「…えー…じゃあ、…勉強も兼ねたお泊まり会、ってことでー…」

「……やっぱり泊まる気かよ」

「え? ……あっ」

不思議そうに首を傾けたフランだったがベルフェゴールの一言で鎌を掛けられたことに気づき、見る見る内に悔しさと羞恥で口許を歪めた。むくれるフランの頭をくしゃくしゃと掻き乱せば生意気にも上がる抗議の声に破顔してしまう。
この罪深い恋人を連れ帰った暁にはどう持て成してやろうか。人目を憚らず寄り添える時間に思いを馳せながら、ベルフェゴールはジャケットから取り出した車のキーを握り締めた。








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90000hitキリリク*アヤネ様へ

二人の関係はご自由にと仰って頂けたので先生×生徒にしてみました。学パロでの保健室ネタは以前より書きたいと思いながらも書けずにいたので、そのきっかけを与えてくださったことに感謝します。
最後になりますが大変長らくお待たせしてすみませんでした…!アヤネ様のみお持ち返り、返品可です。リクエスト頂きありがとうございました(*^^*)



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