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寄り道しないでさっさと怪我しないでゆっくり帰って来いよ、等と矛盾した電話を恋人から受けて、足早に暗い夜道を駆けた。

早く会いたい、という気持ちと此方への気遣いが綯い交ぜになっているのが分かり、其れを嬉しいと素直に感じる自分がいて。

此方とて此の数日間、他人からしてみればどうって事のない期間ですら離れている時間が愛しく、任務の最中にも拘わらず眼前の敵よりも思考を独占する蜂蜜色。何時も隣にいると煩わしいだけのあの人も、離れてしまえば恋しくなってしまうのは事実で。
何時までも素直になれない自分とは違い、ベルフェゴールは何時だって真っ直ぐに自分を包み込んでくれるのに、其の心情とは裏腹に憎まれ口しかたたく事の出来ない自分。

ミーもセンパイが大好きです。たった一言、そう返す事が出来たなら。

今も尚自分の帰りを待っているであろう、離れたベルフェゴールの事を考えれば考えれる程胸の中心が柔く締め付けられて、無意識の内に加速していく脚には気付かずフランは走り出していた。


**


自室に戻り適当に着替えを済ませたのち、然して距離のない恋人の自室へと足早に向かう。自分が帰って来る此の時間帯と合わせて部屋の鍵は掛かってないと分かっているが、一応の礼儀として軽く扉をノックをした。
だが、暫く経っても一向に其れに対しての応答がないのを不思議に思い、ドアノブに手を掛けた所であっさりと回った其れにおや、と首を傾げる。そっと部屋の中を覗くと中は薄暗く、奥にある寝室の扉の隙間から僅かに光が漏れているのを目の端に捉えて、静かに脚を踏み出した。
静かな動作で扉に手をかければ寝室自体は灯りが付いておらず、漏れていた光はどうやらベッド脇のスタンドだったようで。

暗闇の中で確かに其処にいるであろう人物の名を、そっと呼び掛けた。

「………ベル、センパイ」

しんと静まり返った部屋に響く自身の声に対して何も反響がない事が分かったフランは、一拍置いてから静かに扉を閉め、無駄な面積を誇るベッドに近づいた。
仄かに灯る灯りに照らされた金色に添えられた銀が、今は鈍く光沢を放つ。
付けた侭眠ってしまったのだろうか、とそっと頭から其れを外してサイドボックスの上に置き寝台へ乗り上げる。情事の最中は煩い程に軋む上質な其れは音を立てる気配すらなかった。
薄く開いた形の良い唇から聞こえる、規則正しい寝息に思わず肩をすくめる。一刻も早く会いたいから、さっさと帰って来いと言ったのは何処の誰だろうか。
確かに電話を受けてから帰るまで随分と時間がかかってはしまったが、其れにしてもあれだけ言っておいて寝てしまうとは、如何なものか。
拗ねたように唇を尖らせてみて、安らかに眠る頬を小さく抓ってみるが一向に目を覚ます気配等なく。無駄にすっと整った鼻がむかついて、ぴんと指先で弾いてみるが此も反応は皆無な事に、もやもやと胸の中心に靄が掛かるような感覚に陥った。

おかえり、そう言って抱き締めて欲しかったなんて口が裂けても言えないが。

呼吸に合わせ安定した上下を繰り返す胸板に額を擦り付け、蚊の鳴くような声で呟いた。

「………センパイのばか……」

相手の胸板にごつごつと額をぶつけながらひたすら同じ言葉を繰り返していると、不意に頭上からくつくつと堪えるような笑い声が聞こえてきて。

「…っ…!?」

がばっと効果音の付きそうなくらい勢いよく顔を上げた先に、つい先程まで安らかに眠っていたであろうベルフェゴールが、込み上げる笑いを堪えるように口端を抑えていて。眠っていたんじゃ、と軽くパニックを起こす此方の気配を逆撫でするように、ベルフェゴールがニヤニヤと此方を見つめて口を開いた。

「本っ当に一人かわいいなーフラン」

「っ……!」

揶揄するような言葉に、かあっと耳まで林檎のように真っ赤に染めあげて、咄嗟に側にあった枕で目の前のベルフェゴールに殴りかかった。

「っいって!何すんだてめ…っ、」

「狸寝入り…っしてんじゃねーよ堕王子!忘れろ今の全部忘れろ…っ!」

「……うししっ!かわいー」

「あっ…」

乱暴なまでにぼすぼすと叩き付けていた枕を片手で奪われそっぽに投げ捨てられると、強く腕を引かれてあっという間に寝台へと組み敷かれた。
じたばたと生け簀から出された魚の如く暴れようと過去の経験上からして其れは無駄に等しく、代わりに此方を見下ろす相手を喜ばすだけであって。

「離せ…っ、この堕王子っ…変態!禿…っ」

「誰が禿だコラ、大人しくしろよ」

「ばかー…っん、ぅ」

悪態をつく口を強制的に塞がれて抵抗を試みても、結局貪るような口付けに意識を削がれてしまう。
相手の肩を押し返していた腕の力が抜けていき、気づいた時には相手のシャツを力なく握るだけになっていて。金色の髪に指先を埋め込ませて欲するように柔く引き寄せれば、酸素を取り入れる為に唇が離れた。

「…何、積極的じゃん」

「っはぁ…そ、んな…気分、なんです…」

「………オレも」

「……センパイはいつもでしょー…」

「…うるせ」

「っふ…、ぁん…」

食むように、深く舌を絡め取り唇を重ねれば、じくじくと頭の芯から浸食するように広がる波紋に酔いしれた。
少し離れただけでもこんなに愛しく、互いに依存しあっている自分等を満たす此の時間が無ければどうなってしまうのだろう。いっそのこと、此の侭溶けて交わってしまえばいいと思う。
どちらともなく灯りを消せば、そっと指先を絡めて暗闇に深く沈んだ。


絡めたのは心



**

3333hitキリリク、翆様へ捧げます。

後半書いていたら(私が変態であるばかりに)裏に突入しそうな雰囲気になってしまい、強制的に終わらせた感は否めない…です…(笑)
リクエストに沿れているか不安な所ですが、受け取って下さると嬉しいです。

翆様のみお持ち帰り、返品可です。
リクエスト有り難うございました!



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