short | ナノ

 


交わる度に深く沈んで、墜ちて、結局互いに残るは空虚。
本当に心が欲するものとは別のものを掏り替え飲み込んで、此ではないのだと心が叫んでいても与えられる熱に浮かされて抜け出す事も侭ならず、もがいては繰り返し過ちを犯す。

結局は其の場凌ぎでしかない戯れ。
其れでも、其れが無ければ自分等は。





煩い程に軋むベッドに舌打ちをしたくなるが、其れに煽られるようにして高くなる其奴の声が聞けるなら悪くないと思った。
濁りの無い真っ白なシーツに深く沈み、時折跳ねるように反応を示す華奢な裸体はいっそ白雪のように美しく栄えて。
ふっくらとした滑らかな太腿に指先を這わせて折り畳むように脚を持ち上げ、より繋がりを深くすれば与えられる快楽に堪えるように唇を噛み締めて頭(かぶり)を振る。其の度に透き通るような翡翠色の髪が真白のシーツに散らばった。

まるで標本上の蝶のように美しい其の様に、前髪の奥の瞳を細める。

「ひ、ぁっ、あんっ」

裏返るような己の甲高い声に我に帰ったのか、途端に上気した頬を更に赤らめてきつく瞳を瞑る其奴。今更、何を恥じらう必要があるのだろうか。少なくとも自分等の間に余計な念は必要ない訳で。

「……フラン」

そっと耳元で名を呼べば、ふるりと身を震わせ身体を縮める其奴。
頬を撫でるようにして指先を伝わし、確かに視線が交わった瞬間、惑うように瞳を揺らして直ぐに視線を逸らそうとするのを許さないというかのように顎を捉えて強引に此方に顔を向かせた。

「ちゃんと、こっち見ろよ」

「…っ…」

途端にぐらりと瞳を揺らすフランを前髪越しにじっと見据えれば、其奴は苦しげに表情を歪ませたのち、きつく瞳を瞑った。

嗚呼、まただ。
オレを見る度に、お前はどうしてそんなに泣きそうな顔になるのだろうか。

必要以上に此方から目を逸らそうとする其奴に対し、腹底から言いようの無い何かが沸々と音無く沸き起こったものだったから。
思考が決定を下すより先に其の華奢な腰を掴み、嬲るように穿孔する。繋がりを深くした接合部から響く水気を帯びた粘着質な音が聴覚まで犯すようだった。
忽ち両手で耳を塞ごうとするフランの手首を掴み、頭上で束ねてやれば、嫌々と頭を振りしどけなく乱れる其奴。其の痴態を眺めていれば自分の中でぞくぞくと快楽に近い嗜虐心が込み上げた。
空いている手で滑らかな肌を堪能し、胸の飾りを舌先で弄りながら軽く歯を立ててやる。びくん、と途端に背筋を反り返らせて従順にも反応を示す相手に、無意識の内に口許が緩んだ。
自分以外の誰にも晒した事のないであろう、透き通るような其の素肌に自分を刻み込んでやりたくなったのは事実で。

舌を滑らせながら鎖骨や首筋など態と見える箇所に幾つもの所有の華を咲かせると、服では隠せない場所だと分かっているのか脚をばたつかせて抵抗を示してくるフラン。窘めるように額に軽く口付ければ、程なくして其奴は縮こまるように大人しくなった。
素直な行動に少しだけ機嫌を良くし、頭上で拘束していた両手首を解放してやればフランはゆっくりとした動作でそっとベッドシーツに指を這わせた。

此奴と幾つの夜を共に過ごしたかは今となってはもう覚えていないが、一度たりとも其のか細い腕が伸ばされた事はない。
其の手を伸ばして欲しくて態と行為を激しくしてみても、求めるフランの手は縋るように強くシーツを握るだけで。其れに苛ついて必要以上に綺麗な肌に痕を付けたりした。

今日もまた、何も変わらず。

「ぁ…っく、…ひ、ぁっあ」

中の収縮が激しくなったのを直に感じて、自らも限界を迎える為に律動を早めれば其れに比例して高くなる矯声。最奥を突き上げるように穿てば、びくりと身体を震わせて達した其奴の中の締め付けに釣られるように、自身も絶頂を迎えて。
達してしまえばひゅる、と喉を掠めるような冷気が肌を撫で、其れまで感じていた熱が静かに冷めて行くような気がした。


**


そっと頬を撫でるような夜風がカーテンを揺らし、僅かに差し込む月明かりが其の翡翠を照らす。
優しい手付きで柔らかな髪を梳けば、今はもう静かな寝息を立てる其奴の揃いの睫がふるりと小さく揺れた。

身体を重ねている一時は迸るような熱に浮かされ其の華奢な身体を貪り、与えられた熱が解放されれば心の何処かが急激に冷めていくような気がして。
求めて求められても、空(くう)を切るような虚無感。肌で熱を感じても、心が空いたような感覚。情事の最中、決まってオレを見つめるフランの瞳は何処か遠くを見据えていて。

お前を抱いているのはオレなのに。
お前は、誰を見ているんだろうか。

不安定な理性の狭間で虚飾や苛立ちが沸き起こり、其れ以上に激しく抱いては泣かせて。

――泣かせたい訳じゃないのに。

本当は、頭の何処かでは分かっていた。フランが心で抱かれているのはオレじゃないという事を。疾っくに頭の冷静な部分が事実を理解しているのに、目を逸らした侭淫らな行為を繰り返して、結果オレは彼奴を苦しめているだけ。
傷付けているのは分かってる。フランの本当の心が焦がれているのは、オレじゃなくて片割れだって。
分かってる。分かってはいるけど。
髪を撫でるようにして吹き込んだ冷たい風が、其奴の前髪を優しく揺らしては消える。頬を伝うような曲線を描いて残る涙の跡をそっと指先でなぞり、掻き分けた前髪から露わになった丸い額に唇を落とした。

「………ごめんな、」

囁くように呟いて床に落とした上着を羽織り窓辺に立てば、真っ直ぐに落ちる髪を夜風が冷たく煽る。
黒に溶け込んだ月明かりが、寂しげに金色の髪を淡く照らした。







20111105


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