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今日中に片付けておかなければいけない文書があったので、今朝からペンを持って取りかかった。
正午前は任務が入っており、午後はボンゴレに呼ばれて出向く予定なので、早朝の今しか文書を作成する暇がない。
時折、壁時計を睨みながら早急にペンを走らせ、其の間にも頭の中でスケジュールの確認をする。洩れはない。大丈夫だ。

八時を跨ぐ辺りで漸く文書を完成させ、息抜きのコーヒーも早々に隊服を羽織り、隊長室を出る。共同で任務に向かうベルフェゴールに言伝をしておこうと、部隊唯一の金髪を探すが見当たらない。自室にもいないという事は、談話室だろうか。出動まで時間もないのに彼奴は何をふらふらしてるんだ。
苛つきを覚えながら足早に移動して、乱暴に談話室の扉を開けた瞬間。

ビシュッ、と銀色の髪を煽り、頬の真横擦れ擦れをナイフが勢いよく通り過ぎ去る。ドスリと鈍い音を立てて、凶器は後方の壁に突き刺さり沈黙した。
続いて、ぎゃあぎゃあと喚き立てる声が耳を劈いたものだから。ぷちっと己の血管が途絶えるような音がした。

「う"おぉお"いっ!! 朝っぱらからケンカしてんじゃねぇガキ共がああ!!」

「っるせぇ! そっちこそ朝っぱらからでけー声出してんじゃねーよカスザメ」

「うるさいですースクアーロ作戦隊長ーミーの鼓膜が破れたらどうしてくれるんですかー」

途端に此方を振り返って、悪態を吐き始めるぺーぺー幹部が約二名。本日も安定の生意気加減を見て、頭に上った己の血が更に沸騰していく気がした。
だが、こんな所で時間を食っている暇はない。こうしている間にも限られた時は刻々と過ぎて行くのだ。

再び新人幹部のフランと口論を始めようとしているベルフェゴールのフードを勢いよく掴み、半ば引き摺るようにして談話室から連れ出す。
直ぐ様文句を垂れてくるベルフェゴールを制す為に、鼓膜が震える程の怒声を発した。何時までも新人と馬鹿やってんじゃねえいい加減に年齢考えろ大人気ねえんだよクソガキさっさと出動準備しろ、と捲くし立てるように一喝する。其れを受けてあからさまに顔を歪めた其奴は、不貞腐れたように舌打ちをした。
ベルフェゴールが後輩のフランに、可愛くない、と度々口にしてるのを耳にするが、オレからしてみれば此奴の方が余程可愛げがないだろうと思う。

叱りに叱って念を押し、任務へ向かうように促す。反抗期の子供宛らに盛大な舌打ちをして、ベルフェゴールは踵を返していった。
其の後ろ姿を見送りながら、彼奴はあれでいい、と解釈する。術師が苛立ちに任せて任務に支障を来す事はあるが、ベルフェゴールの場合は苛立ちが其の侭戦力になる。
頭の中で先程の予定を繰り返し、足早に急いだ。



戦線の最中、使えない部下数名に苛立ちながらも何とか任務を遂行して帰城した。

帰還して間もなく早急にシャワーを浴び、アジトを出る。飯を呑気に食べている暇はないので、軽く腹に溜まるものを口にしてボンゴレへ向かった。向こうでも多少の持て成しくらいは出るだろう。本部へはボスも同行する予定だが、任務で遅れる自分より一足先に向かっている筈だった。

待ち合わせた時間ぎりぎりに漸く到着し、指定された部屋に向かう。一応は儀礼的に、しかし騒がしいノックをしてドアノブを引いた瞬間、頭部目掛けてグラスが飛んできた。
鈍器で頭を殴られたような衝撃と共に、視界が一瞬にして赤ワイン色に染まる。

あーあーあ…、と同情にも似た悲痛なボンゴレの声。おせえんだよドカスが、と嫌なくらいに聞き慣れた低い声が耳に届く。ぐつぐつと込み上げるように、己の血が着実に湧いて行く。
本日二回目、怒りの沸点がMAXに到達し、地響く程に咆哮した。と同時に、別のグラスが再び頭部に直撃する。
一体、オレが何をしたというんだ。




再びアジトへ戻る頃には既に夕刻となっており、己の身体も流石に疲労を訴えていた。
一昔前はこんなに柔じゃなかった筈なんだが。歳だろうか。そんな考えが一瞬頭の隅を過ぎり、直ぐ様激しく首を振る。違う。そうだとしても認めたくない。
昼間、折角シャワーを浴びたのにクソ上司の所為で髪がアルコール臭い。これから自室に戻り、午前に行った任務の報告書を書かなければならないのだが、其の前にシャワーくらいは浴びて良いだろうか。
強く瞳を瞑り、眉間に皺を寄せた侭瞬きをする。戦線の肉体労働にプラスして、デスクワークも目に悪い。こきこきと首を鳴らす。肩も凝っているようだった。重症だ。

シャワーを浴びようと自室に向かう途中で、腹を空かしている事に気がつく。そう言えば昼間から碌なものを食べていない。報告書とシャワーの前に栄養を摂取すべきだと思い、進路を談話室に変更した。この時間帯だったらルッスーリアがいる筈なので、有り合わせでも良いから何か作って貰おうと思う。
其れにしても、疲れた。此のオレが意気地の無い事を吐くなんて。情けない。
らしくもない溜め息を吐き、今朝とは段違いの静けさでそっと談話室の扉を開いた。

すると、見慣れた幹部らが、何故か皆揃いも揃って此方を向いて立っていて。
まるで、最初から此処で自分を待ち伏せていたかのように、全員不審気な笑みを浮かべている。
何なんだ一体、と咄嗟にそう口にしようとした時、一際悪戯な笑みを携えたベルフェゴールが目の前にやってきた。

「誕生日おめでとう、隊長!」

綺麗に重なった、幹部全員の声が胸に響く。
同時に、何処に隠し持っていたのか、満面の笑みを浮かべたベルフェゴールが片手に持ったホールケーキを勢いよく投げつけてくる。

避ける間もなくて、視界が真っ白な世界に変わった。







20130313


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