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ふわふわとした弾力と、吸い付くように柔らかな其奴の唇は、甘く痺れを焦がす。

蕩ける砂糖菓子のような其れに幾度も角度を変えて吸い付けばくすぐったそうに身を捩り、鼻にかかったような声を漏らす。
ちゅ、と可愛らしい音を立てて深みを増せばくぐもった気配と同時に胸を押された。
離してほしい、という意思は其れだけで伝わるけれど、此方の欲求に従えば矢張り物足りないからマシュマロのような其れを尚も啄んで離す気はないと示唆する。
先刻からの戯れの所為でぷっくりと膨らんだ小さい唇は、桜を思わせる赤い果実のようだった。

「っん…、ふ、ぅ…!」

「…っは、…んだよ」

ぎゅう、と衣服を掴んだ掌がぱしぱしと胸をしつこく叩いてくるので仕方なしに唇を解く。覗かせた赤い舌が銀色の糸を繋いでいたのを見て、少しばかり気分が良くなった。
薄らと瞳を開いた其奴は、やけに潤しく其の双眸を赤らめ、肩を揺らしている。

「…また、息止めてたのかよ。こういう時は鼻で息すんの。言っただろ?」

「…長い、んですよ…っ堕王子」

幾つかの吐息をつき、きゅ、と結ばれた可愛い唇から可愛げのない言葉が落とされる。長いと言いながら此方の戯れに着いていこうと健気に首を傾げていたのは誰なのか。何よりも、拙いながらに懸命にキスを受け入れようとするフランの姿が何時もとていいようのない感情を抱かせ、ちりちりと此の胸を焦がすのだ。
時も場所も変わらず、触れたいと思ってしまう其の唇にはオレを眩ます魔性が潜んでいるのだと。

「続きすんぞ」

今し方離れたばかりの肩を掴んで顔を寄せれば、途端にふるふると頭を振ってオレから距離を取ろうとするフラン。
拒絶するような態度を取る其奴が何だか無性に気に食わなくてオレは俯くフランの腕を取り、華奢な身体に重心をかけた。
押し返すように力を入れても矢張り男一人分の体重を抱える事は出来ないらしく、反動に倣うようにフランは後方に背中を沈めた。
ぱさりと広がった翡翠色の髪を見つめながらソファーに倒れた其奴に覆い被さるようにして跨る。
其処で何故だか、抵抗するよりも早くフランが自分の顔を腕で覆ってしまうものだから。心に巣くう天の邪鬼の意思に従い、オレは直ぐにフランの両腕を捕らえた。

「…や、ですってばー…」

「何が嫌なんだよ。…オレを拒むな」

か細い其奴の声を聞き、心に靄が立ち込める。顔を隠すようにして塞ぐ両腕を強く掴んで無理やりに退かしてやれば、頬ほんのりと白い肌を朱に染めた其奴の顔が覗く。ばつが悪そうに瞳を逸らして伏せた睫は瞬きをする度にふるりと震えていて。

其奴の、フランの其の様子を見るに、どうも嫌だという言葉と態度が釣り合っていないように思う。

オレの視線を受けて何処か困ったような気配を窺わせた其奴は、逡巡するように目線を彷徨わせた。
つう、と頬に添わせた指先からじんわりと熱が伝わり、フランがぴくりと反応する。色白であるが故に頬に熱が集まると目立つな、と感じるが其れがまた己の嗜虐心を疼かせる要因でもあって。

ミーだけ、と不意に呟かれた声を拾い、目を向ける。きゅ、と口許を結んだ其奴が独り言のようにか細い声を漏らした。

ミーだけ、こんな顔赤くして、馬鹿みたいじゃないですか

そう囁かれた音が、静かな部屋にぽつりと響く。赤らめた瞳が此方を睨んで、恥ずように目線を外した。

居心地悪そうに再び顔を隠してしまう其奴を目の前にして、身体の芯から疼く熱がじわじわと己の脳内まで浸食して溶け出していくような気がして。
きゅ、とシャツの裾を握る指先がもどかしく、掌ごときつく覆い掴んだフランの手を革張りのソファーに押し付けた。

「…嫌なんじゃ、なかったのかよ」

「っ… 分かってる、くせに…、ふ、ぅ」

強がりを紡ぐ唇を食むように塞ぎ、出しかけた吐息も飲み込んで息を詰める。

戯れを憚るのは可愛らしい恥じらいなのだと知りながら、オレはからかうように目の前の唇に小さく噛みついた。






20130712


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