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「なぁ、好きなんだけど」

「そうですかー、ミーは嫌いです」

相対する応酬、にも満たない。

此処まで綺麗に淀みなく、ばっさりと切られてしまえば、いっその事清々しさすら感じる始末。

暇だから、という勝手な理由をつけてフランの部屋に押し入り、同じソファーに腰掛けたは良いものの、其奴は何時もの如く本に夢中で此方に見向きもしない。
何となく会話がなかったから、何時ものように軽い感じで告白をしてみた。そして、何時ものように振られた。
最初は不満こそ感じていたものの、今となってはそうだろうな、と返ってくる台詞に納得して終わってしまう自分がいる。振られすぎて、感覚が麻痺しているのかもしれない。

此の侭で良いのか?

そう疑問を問い掛けるもう一人の自分が何処かにいるけれど、そう言われても取り付く島がない。からかってちょっかいを出していたのは何時の事だろうか。既に疾うの昔のような気がする。
こんなにも生意気で、お世辞にも可愛げがあるとは微塵子程にも言えないような後輩なぞに、一体何時から冗談ではなく本気になってしまったのか。

「カーエル」

「………」

「フーラン」

「……なんですかー」

「好き」

めげずにもう一度、同じ台詞を口にしてみる。前髪の奥から窺うようにじっと其の表情(かお)を見つめるが、フランは露骨に眉を顰めて怪訝な顔をすると、ふいと顔を逸らしてしまった。
今度は完全に背を向け、断ち切るような気配を漂わせる其奴の後頭部を見つめながら、見逃す筈がない、とベルフェゴールはひっそり思う。

好き、と。

不意打ちを食らわせたほんの一瞬、フランが言い淀むように息を詰まらせた事を。
取り繕うように眉を顰めたのは本当に自然な動作で、流石は術師だと思う。だけれど、まさか其の全てが見透かされているなんて思いもしないだろう。

一方的に抱き締めた時も。
額にキスを送った時も。
好きだ、と囁いた時も。

決まって翡翠に馴染む瞳の奥が、戸惑うように小さく揺らめく事に。本当に一瞬の合図だけど、憂いを含んだ視線が自分に向けられる事に。
好きと返せば、嫌いと返って来る。天の邪鬼なのだと、そう考えてみても強ち自惚れではないように思う。

「フラン」

名を呼べば、背を向けた侭ぴくりと僅かに反応する肩。返事はないが、何ですかと小さな背中が語りかけて来る。無性に其の小柄な身体を抱きたい衝動に駆られて、ぐっと押し殺した。

生意気で、毒舌で、素直じゃないのは彼奴。
意地悪なオレは、其れに気づかない振りをする。

此の意地っ張りでどうしようもなく愛しい後輩をからかう意味で、もう少しの間だけ片思いを満喫してみるのも悪くない。

「好きだぜ」

「………嫌い、です」

返ってくるのは、何時もと何ら変わりないお決まりの台詞。

翡翠の髪色から僅かに覗く頬がほんのりと赤らんでいるのを知りながら、ベルフェゴールは今日もあくまで一方的に、其の華奢な身体を抱き締めるのだった。






20121118


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