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ぼんやりとした思考の中、瞳を開いた。

淡黄色が混じり合い一定の弧を描いてはぶれるだけだった視界が正常を取り戻した時、まず眼前に広がったのは橙色。

一瞬自分自身の立場が理解出来ず、ゆっくりとした動作で身動ぎすれば不意に落とされたテノールに意識が覚醒された。

重力が増したのではないかと錯覚する程の倦怠感に苛まれている事に気づき、小さく咳き込む。喉にじくじくとした異物感すら感じる程だった。
不安定に揺らめくような金色を視界に捉えたかと思えば、続いて額に冷たい感触を覚え、ゆっくりと瞬く。
どうやら異常に熱を持っているらしい、自身の額に添えられた冷気の正体が掌だという事を認識するまで僅かな時間がかかった。
心なしか潤んだ翡翠に映る何時もの蜂蜜色。見慣れた黒服を身に纏っている所を見ると、目の前の其の人はどうやら任務を終えたばかりのようで。一に結ばれた唇は頑なに閉ざされ一向に和らぐ気配もなく、窺えない表情は相変わらずで、彼が今どんな感情を抱いているのかすら見当がつかなかった。

べるせんぱい、

たったの六文字ですら口にするのはしんどくて。相手の手の甲に籠もるような熱を持った自身の指先を重ねた瞬間、しなやかな指先がぴくりと反応した。

不意に落とされた吐息が空気を震わせ、物言いたげに向けられた視線と交わる。

「……お前が元気ないと、調子狂う」

そう言って握り込んだ掌を緩めれば熱を持った額に唇を寄せられた。

彼の取った行動を頭が理解するに連れ、頬を中心にじわじわと集まっていく熱は今迄浮かされていた其れとは別のもので。
確信犯なのか、先程とは打って変わり緩められた口角から漂う其の人の蠱惑的な笑みにまんまとしてやられたと悟るが、時既に遅い。
<恨めしげにじとりと睨んでみた所で此の人相手に効果等皆無だなんて事は、経験上分かっているつもりなのに。
熱で人が苦しんでいるというのにこうして意地悪をしてくる辺り此の人の性根はとことん腐っているらしい。

分が悪いです、居心地悪そうにぼそぼそとそんな事を呟きながら、耳まで赤く染め上げた顔を隠すように布団を被った。






20120201


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