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囁かれた声が深遠と耳に響き、滲んだ視界の中で薄らと瞳を閉じた。

頑なに力を込めた指先は震えるように、確かな其の残熱を離すまいと留める。頭上から感じる気配は何処か困ったような愛おしさを含んだものであり、そっと翡翠に絡めた指先が優しく髪を梳いた。
我が儘を、言っている訳じゃない。

素直でない事は自分自身が一番良く分かっていると思う。だからといって其れをどうにか出来るかというのは別の問題であって。
自分の口で思いの丈を表現せず、行動で表す事しか出来ないなんて情けないと頭の中では感じている。彼にもそう思われているのだろうか。面倒な奴だと。心の中では自分を鬱陶しく感じているのではないのだろうか。考えれば考える程、ネガティブな方向へと思考が沈んでしまうのは元々の性格ではあったが、そんな己が情けない。

何時もとてこんな自分を正面から包み込んでくれる彼の存在が此処まで大きくなるとは甚だ嬉しい誤算であり、同時に臆する事がある。

自分は彼に何を与えられるのだろう。そんな事を考えても、明確な答えは未だに出ない侭なのだが。

「……どうした?」

不意に落とされた声が、鼓膜を震わす。揃いの睫を揺らして意味なく俯いた。

何時も此方を小馬鹿にするような笑みは無く、諭すような優しい声色は此の胸に安閑を与えると同時に締め付けられるような感覚に陥られる事がある。
此方の気色(けしき)を窺うように、そっと伸ばされた腕があやすように軽く背を叩いてきた事に視界が滲む。視野一面を覆う黒と紫の境界線に額をぶつけて、小さく鼻を啜った。
此の人の方が余程大人なのかもしれない。

沈んだ思考を掻き分けるように梳いた指先が頬を撫で、追うように触れた唇に束の間の忘れを乞うのだった


しか愛せない



20120102


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