03
「千年以上昔…"黄泉の落日"から始まった悪魔との戦争は何百年かごとにくり返されて…その度にあたしたちは転生し奴らと対峙してきたわ」
千年という計り知れない長い時間の単位に夕月は言葉が出てこない
「ちなみにルカと彩夏は1コ前の戦いからこっちに加わってる」
「えっ…」
九十九の言葉に思わずルカと彩夏の顔を窺う夕月
『…?』
その視線に込められた意味を理解することができず、彩夏は小さく首を傾げる
こちら側に加わっていると先程十瑚は言っていたが、正確に言えば"ユキ"がいたからであって…仲間と言えるかは正直微妙なラインではある
自分もルカも、第一優先は"ユキ"であって"仲間"たちではない―――まぁ、仲良くしたくないわけではないのだけど
「驚いた?人間は皆転生をくり返しているものなんだけど、大抵それを憶えてないのよね」
「あ、あの…僕もその…そんな大事なことちゃんと覚えてなくて……」
「あっ気にしないで!っていうか、あたしたちもね、今までのコト全部記憶してるわけじゃないの。人間って子供の頃の記憶すらアヤフヤだったりするじゃない?それと同じで…」
覚えているのは強烈に心に残ったこと
「全てを記憶できているのは天白さまだけ。天白さまはある"秘術"を使って"黄泉の落日"からの記憶を残らず繋ぎとめているの」
「だから天白さまだけが戦局を把握できている…あの方は予言者(ウァテス)でもあるしね」
――全て覚えていることは、決してシアワセなことではない
『――辛かった事、悲しかった事、忘れてしまいたい事も忘れることを許されず、ずっと記憶に囚われてるのね、彼は』
ヒトは忘れることができるから生きていける
「…そういう痛み、自分一人で引き受けることを天白さまは選んだの。祇王の一族の統帥であり続ける重責を担いながら…弱音を吐く事なんて許されない――あの方は、そういう宿命…」
でも、と暗くなりかけた車内を変えようと十瑚は声の調子をあげる
「夕月ちゃんがルカのことまで覚えていないのは意外ね。彩夏のことも全然知らなかったんでしょう?」
『ふふっ。私もつい最近まで忘れてたしね』
夕月の場合はきっと、"忘れたかったから忘れた"のだろうけど
「……寝る」
今まで一切話に入って来なかったルカが、ぽつりと呟いたかと覚えば、夕月に拒否させる暇も与えずそのまま肩に頭を寄せて寝る態勢へと入る
スネたわけではなく、本気で眠たかっただけのようだ
。
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