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「――なぁ、千莉…」
ふいに、大助が口を開いた
「土師が傍にいなくて、不安だよな?それに、何も見えないってことは、俺が思ってるよりずっと……それなのに俺は、お前の傍にいてやることくらいしか……」
大助にしては珍しいぐらいの"弱音"に、皆の目が見開かれた
正体を知ってしまった藍羽としても、悪魔と呼ばれる"かっこう"のこの弱々しい姿にはやはり驚きを隠せなかった
だが、千莉だけは違う
にっこりと微笑むと、大助に向かって手を伸ばした。その手を彼は慌てて受け止める
「キャン・ユー・フィール?」
それは少し前、大助が彼女に言った言葉だった
「人間って、鳥みたいに空を飛べなくても不安じゃないよね?それって、地面があるからなんだと思う。どこに行っても地面がついてるから、好きなところに行けるんだもん」
微笑みを浮かべたまま、千莉は大助を真っ直ぐ見つめる
「だから…私も、不安なんかじゃないよ。大クンが…みんなが、いつでも傍にいるから。傍にいてくれるから、私も好きな場所に行ける……そのことを教えてくれたのは、お兄ちゃんと大クンだよ?」
まるで魅せられてしまったかのように、大助は千莉の瞳を見つめていた
「私には、こうして冷たくなった手を温めてあげることくらいしかできないけど……」
顔を伏せた千莉の手の上に、もう一つの手が重ねられる
「俺も、千莉の傍にいる。どこへだって好きな場所へ連れてってやるよ」
緒里の真剣な表情で言われた言葉を皮切りに、どんどん手が重なっていく
「僕も、傍にいるよ……今度こそは、きっと」
「私も、ね」
『当然だよぉ。私も千莉の傍を離れないよぉ?……絶対に』
千莉を中心に、6つの手が重なった
藍羽は千莉を守るためだけに、今ここにこうして存在しているのだ。だがその義務にも似た感情と同時に…普通の、友人としても彼女の傍にいたいと思う
知らず知らずのうちに、皆の顔には穏やかな笑みが浮かんでいる
千莉は嬉しそうに笑った後…少し、顔を赤くさせる
「ありがとう……でもよく考えるとプロポーズみたいで、ちょっとだけ恥ずかしいね」
その言葉で、皆一斉に手を離したのは言うまでもないだろう
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