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2人の視線の先には、1人の小柄な人影があった
騒ぎを聞きつけ集まった野次馬から少し離れた場所に佇んでいる人物は、ぼろぼろに擦り切れた黒い法衣のようなものを見に纏っていた
フードのせいで顔は見えないが、首から銀色の…もとは十字架だったのだろう、壊れて擦り切れているただの棒がついているネックレスをぶらさげている
老人だとすぐ分かるほど、腰が曲がっている
――その特徴を持つ人物の名前が、2人の脳裏に浮かび上がった
『……アイツ…』
無意識のうちに口が動く
理性が凄い勢いで剥がれおちていくのが自分で分かった
――アイツは、確かに笑った。唇の形が、笑みの形に歪んだのを、ハッキリと見てしまった
「純…千莉を、頼む」
大助の掠れた声がかすかに耳を通り抜ける
皆が心配そうに大助を見ていたが、それに構うことなく彼は真っ直ぐとアイツに向かって走り出した
「待てぇッ!!」
大助の口から飛び出した怒声が、繁華街に響き渡った
そのあまりの声量に、通り沿いのカフェの窓ガラスがビリビリと振動する
すぐに大助の姿は見えなくなり、純たちは茫然とその消えた後ろ姿を見つめていた
藍羽としても今すぐに追いかけたかったのだが……
『(監視は"コッチ"に残ったか…)』
ずっと遠くから監視されていたことにはもうずっと前から気づいていた
その技術の高さから、相当なやり手だということはすぐに分かった
恐らく監視対象は千莉か…"かっこう"である、大助のどちらかだろうと踏んでおり、大助側にその監視が動いたら追いかけようと思っていたのだが…
優先順位はどうやら千莉のほうが高いようだ
「ど、どうしたんだろう大助くん…って緒里!?」
純が話しかけた緒里もまた、有夏月と一緒に大助を追いかけるように走り出していたのだ
残ったのは純と千莉、藍羽の3人だけとなり、3人で顔を見合わせる
「みんなどうしたの…?大クンすっごく大きな声出してたけど…何かあったの…?」
「わ、分かんない…」
『取りあえず、追いかけよぉ?大助たちが集まりそうなところ、心あたりあるー?』
どうやらその場所に2人は心当たりがあるらしく、3人でゆっくりとそこへと歩いて行った
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