12
「……なんつーか、凄くいい奴だな」
走り去っていったウルの背中が見えなくなった時、感心したようにユウが呟いた。
「当然だろ?俺が選んだ奴だぜ?頭の弱い奴は基本的に嫌いなんだし」
ウルの一番気に入っているところは顔の良さでもなくカラダの相性の良さでもなく魔術の腕の良さでもなく、その間の取り方だ。
俺に踏みいっていい境界線が分かっていて、聞かれたくないことなんかは絶対に踏みいってこない。
空気が読める奴は傍に置いておいてもストレスはあまり溜まることなはい。
「ほら、早く行くぞ」
「行くって何所へ?」
「……話を聞いてなかったんか?ギルドに金を取りに行くって言ってるんだよ」
コイツも頭の回転はいいはずなのにどこか抜けているというかなんというか…時々イラっとする奴だ。
だからこそ面白いというのももちろんあるのだが。
「服も目の色も変えたからもう何の問題もないはずだ。行くぞ」
「お、おう」
これ以上この路地裏にいなければいけない理由はなくなったんだ。
街通りに出るために歩きだすと後ろから慌ててユウがついてくる。
俺より図体はデカイくせに。
「迷ったら遠慮なく置いてくからな」
「え、探してくんねーの!?」
「んな面倒なこと誰がするか。自力で何とかするんだな」
「ひ、ひでー…鬼だ、悪魔だっ」
「はぁ?俺をあんな低俗な奴らと一緒にするんじゃねーよ。殺すぞ」
「……ソウデスネ。こっちには鬼も悪魔も存在するんデスネ」
一人で勝手にあきらめているユウ。
今の会話の中でどこに落ち込むポイントがあるのかは知らないが、とりあえずコイツにはこの世界の常識を知ってもらわないと困る。
一々俺が説明するのは却下だ。
理由はただ1つ。面倒くさいから。
だが俺がやらない代わりに誰かにやってもらわなければいけないことになる。
口が堅いのが第一条件。それなりに社交性のあって見てて不愉快にならない程度の容姿を持った奴……
「なぁなぁ、ギルドってどこにあるんだ?」
「ウルが行った方向だ。もう5分も歩けばメインストリートに出るぞ」
へぇ〜と呑気に頷いているユウをチラリと横目で見て内心ため息をつく。
俺と一緒にいる以上、ある程度戦えないと本当に困る。
いや、戦えなくても本当に最低限、自分の身を守るだけの力はつけさせたい。
幸運なことにユウからはそれなりの魔力が備わっているのは感じ取れるから、鍛えればそれなりに強くなるはず。
……平和ボケしてるっぽいコイツに人や魔物を殺したりすることができるかは不安だが。
今のご時世人間相手にだって簡単には気を抜けない。ヤバイ奴に隙を見せたらまず身ぐるみはがされてジ・エンドだ。
だからこそ本当に信頼できる"仲間"をこの世界の人間は何よりも重要視し、大切にする。
―――もっとも、それさえもあっけなく消え去ることもあるのだが。
「……やっぱウルに頼もっかなー…」
俺の呟いた声はユウに届く前に消えていった。
。
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