悲しき詩 | ナノ




15:



――−あぁ、こんな顔して笑えるんだ

クロームは目の前で笑う愛結を見て、素直にそう思った

いつもどこか大人びた、達観した……悪く言えば何かを諦めた大人のような、どこか影のある笑みを浮かべることが多かった愛結

もちろん明るいものもあったが、それでも大人びた、という印象はぬぐえなかった


『えー!ちーちゃんたちお菓子食べて生きてるの!?ダメだよ、体にすっごく悪いじゃん!』


「…めんどいし」


「食えれらいいんらよ!」


『けんちゃんは食べれれば何でもいいかもだけど、クロームは女の子なんだから!栄養不足でお肌が荒れるなんてしたら…!』


「…私も別に…」


『…ここに私の味方はいないのね』


ぐすん、なんて泣きまねする愛結は、年相応の女の子だった

クローム自身、愛結とは仲いいほうだと思っているし、それも間違ってないと思うのだが……やはり、犬や千種は"特別"ということなのだろう

犬や千種、ここにはいない骸、そして…紅蓮

幼い頃同じ境遇を生き抜いてきたからこそ生まれた家族のような結束感、だろうか


『ちゃんと食べなきゃだよ?……ちーちゃんたちまでいなくならないでね、』


唐突に笑みを消し、不安げな表情で小さく呟く

その突然の変化に驚くも、ある意味仕方がないのだろう

紅蓮を失くしてからまだ日も経っていない

昔のように笑えるが、そこに足りない存在の大きさが浮き彫りになる


「……何言ってるの。いなくなるわけないでしょ」


だるいし、何て呟く千種だが、僅かながら笑みを浮かべている

千種にとって、愛結は手のかかる妹のような…無条件で守ってやらなくてはいけない存在であった

よく泣くが、その倍は笑う愛結は、眩しい存在であり……大切な存在だ

恋愛感情ではない

きっと、これが"家族愛"なのだろうと推測していた


「だから、泣く必要なんてない、でしょ」


『……・…泣いてないもん』


「今にも泣きそうだけどね」


『…ちーちゃんのいじわる…』


少し眉をさげて笑う愛結の瞳が、少しだけ濡れていたのには全員が気付いていたが、誰も触れはしなかった






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