■ いい夢を

   怖い夢を見た。

   飛び起きてはぁ、と強ばった肩を落とすと眠りの浅いジンが隣で目を開く。

「ごめん、起こした?」
「どうした......」

   寝起きだからなのか些か掠れた声が問うてきた。

「嫌な夢を見たの」
「......」

   聞いてきたのは彼の方なのに呆れたのか返事は返ってこない。
   いつもの事だ、と諦めてまた布団に潜り込むと大きな掌に背中を優しく、でもしっかりと叩かれる。

「ちょ......子供扱いやめて」
「悪夢に魘されるようなナマエ
ガキ
には似合いだ......」

   抗議の声はさらりと躱されて、でもジンには似合わないね、なんて流石に言えずありがたく彼の手に集中することにした。

   トン、トン......

   さっきまで魘されてたはずなのに、もう心拍数も落ち着いて汗も引いている。
   彼が隣にいるという安心感はわたしの中で相当大きいらしい。なんだか眠たくなってきた。瞼が重い。

「ふあ......ありがとね、ジン......」

   眠ってしまう前にお礼を、と瞼をのろのろあげると今度は背を叩いていた掌に目を覆われる。

「次は悪くねぇ夢だろうよ......おやすみ」

   へんなの。いつになく甘やかしてくれるジンに少しだけ笑ってわたしはゆっくり眠りに落ちた。

「ハッ......ガキが」

   ――本当にすぐに眠った姿を見たジンが、そう言ってわたしの鼻を摘んだことなんて知らずに。

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