■ 忠犬

   ジンの帰ってくる部屋でひたすら彼の帰りを待って、ドアが開けばすぐ駆け寄っておかえりなさい、荷物があればそれを受け取るし、なければぞんざいに脱ぎ捨てられた彼の靴を揃えて慎重に鍵を掛ける。

   大股に進む彼の後ろ、一歩下がったところで煙草と香水の臭いが染みついたコートをハンガーにかけているとジンが振り返ってわたしの頭に帽子を被せて前が見えなくなった。

   見えないよ、と姿の見えないジンに抗議すればフ、なんて短い笑いと共にいつも通りわたしは抱えあげられてソファまで運ばれる。

   そんな日常もジンさえいれば幸せだよ、とは思うけれど――

「なんだか忠犬ハチ公みたい」
「てめぇはせいぜい忠犬帽子置きだろ」
「あは、ひどい」

   やっぱりジンさえいればいいみたい。

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