4日後
TDLでトレーニングの真っ最中

「換装!飛翔の鎧。飛翔・音速の爪」

ものすごい速度で、目の前のコンクリートを双剣で斬り裂いた。
だいぶ、既存の鎧の技ができ、新しい鎧もいくつか完成しつつあった凛は自分の成長に確かな手応えを感じていた。

「あ…父さん。また休んでないで…」

怪我が治りきっていない父に、目を瞑ることにしたとはいえ本来ならきちんと休んでほしい凛は、呆れて遠くにいる父を見た。

ボゴッ!

「っ!父さん!!」

爆豪の必殺技によって脆くなっていたセメントの塊が、オールマイトの頭上に落ちていった。
この距離じゃ間に合わない!と凛は、焦るがそれは一瞬にして打ち崩された。

SMASH!!

緑谷がセメントを砕いたのだ。
しかし、いつものように拳ではない。
脚で砕いたのだ。

父の無事に、凛はほっと胸をなでおろしつつ、緑谷を遠くからまじまじと見つめた。

「なるほどな…拳が使えないなら脚に移行か…。考えたな」

緑谷がこれ以上腕を酷使すると取り返しにならないことになるのは、オールマイトから聞いて凛は知っていた。
オールマイトが拳をメインで使っていたため、脚を使う発想はなかったと凛は感心した。


―――


皆が個性の成長や必殺技に合わせてコスチュームを改良していく中、凛は変化はなかった。
鎧に換装することが多いことから、武器のみ換装時の時にしか発揮されないからだ。
動きやすく、防御力の高い布、この2点を押さえられている今のコスチュームに全く不満はなかった。

彼女が訓練をする傍ら、それを声が聞こえないぐらいの距離で休憩がてら性欲の権化・峰田が眺めていた。

「八木のコスチュームから覗く横乳最高だぜ」

こんな事言われていつもは制裁を加える凛は、峰田にとっては幸いなことに聞こえていなかった。
しかし、それを聞いてしまった者がいた。

「凛…」
「焦凍!コスチューム改良したんだな」

近くにやってきた轟に気がついた凛は、彼のコスチュームの変化に目を輝かせた。

「ああ。左右同時に発動するためにちょっとな。それよりも凛はコスチューム改良しないのか?」

「?…今のところ予定はないが」

突然の轟の問いに凛は、首を傾げながらも正直に答えた。
なぜこんなことを言われるのか…個性柄不便なところは今のところないし…ここまで考えて凛は、はっと1つの可能性にたどり着いた。

「もしかして似合ってないのか!?」

「そんなことはねえ!似合ってる。すげえかわいい」

凛のショックを受けた顔に轟は慌てて、本心を口に出した。
彼女のコスチューム自体は、轟は凛以外に似合う奴がいるわけねえと思うくらい似合っていると思っていたのだ。

「そっか…嬉しいな」

轟のストレートな言葉に凛は頬を緩めた。
そんな彼女の表情に、轟は何も言えなくなってしまい、たまにチラッと見える横乳に頭を悩ませた。

しかし、轟は失念していた。
彼女の鎧の方も露出が激しいものが多いことに。

「そこまでだ!A組!今日は午後からB組がここを使わせてもらう予定だ!」

扉の方には、ブラドキング率いるB組の面々が勢ぞろいしていた。

「イレイザー。さっさと退くがいい」

「まだ10分弱ある。時間の使い方がなってないな」

「ねえ知ってる!?仮免試験で半数が落ちるんだって!A組全員落ちてるよ!」

相変わらずストレートに感情をぶつけてくる物間に慣れたA組は、引いた様子で見つめていると、常闇が小さく頷いた。

「もっともだ。同じ試験である以上、俺たちは蠱毒…潰し合う運命にある」

最もな意見に、相澤とブラドキングがその辺は心配ないと言った。

「だからA組とB組は別会場で申し込みをしてあるぞ」

ヒーロー資格試験は毎年6月・9月に全国三箇所で一律に行われる。
同校生徒同士での潰し合いを避けるために、どの学校でも時期や場所を分けて受験させるのがセオリーなのだ。

「ホッ…。直接手を下せないのが残念だ!」

「ホッつったな」
「病名のある精神状態なんじゃないかな」
「かわいそうに…心があれだからな」

あからさまに安堵したのに通常モードにすぐなる物間に、切島、上鳴、凛は可哀想なものを見る目を向けたのだった。

「どの学校でも…そうだよな。フツーにスルーしてたけど、他校と合格を奪い合うんだ」

瀬呂の言葉に、皆そういえばと試験にいるのは自分たちだけではないとようやく気づき出す。
さらに、凛たちは通常の習得過程を前倒ししているのだ。
1年時での習得は全国で少数派である現在、やはり経験値などでは当たる部分は否めない。

「試験内容は不明だが、明確な逆境であることは間違いない。意識しすぎるのも良くないが、忘れないようにな」

体育祭からもわかる通り、凛は存外競争など勝負事が大好きなのだ。
今まで、自分たちと同じくヒーローを目指す者に会ったことがない凛は彼らと競えることに胸を弾ませた。


―――


夜、談話スペースには風呂上がりの女子たちが集まっており、プチ女子会のようなものが行われていた。

「フヘェェエ。毎日大変だぁ…!」
「圧縮訓練の名は伊達じゃないね」
「あと1週間もないですわ」
「まぁ1年のハンデを負っているからな。通常の倍はきついだろう」

凛は、ソファに座りながら圧縮訓練の疲れをほぐすように背中を伸ばした。

「ヤオモモは必殺技どう?」
「うーん。やりたいことはあるのですが、まだ体が追いつかないので、少しでも個性を伸ばしておく必要がありますわ」

「梅雨ちゃんは?」
「私はよりカエルらしい技が完成しつつあるわ。きっと透ちゃんもびっくりよ」

「凛ちゃんは?」
「新しい鎧も完成し、容量も威力も伸びている。順調だ」

「お茶子ちゃんは?」
「……」

葉隠が順々に現在の進行状況を尋ねていく中、いつもなら明るく返事をする麗日から返事がなかった。
凛は、ぼーっとしている麗日を不思議に思い、ちょんと軽く触れた。

「お茶子?」
「うひゃん!」
「疲れたのか?」
「いやいやいや!疲れてなんかいられへん!まだまだこっから!…のハズなんだけど、何だろうねえ。最近ムダに心がザワつくんが多くてねえ」

麗日が頬を赤らめて、とてもかわいらしい表情をするのを見て、芦戸はピンと来た。

「恋だ」
「な、何!?故意!?知らん知らん」
「緑谷か飯田!?一緒にいること多いよねえ!」
「チャウワ。チャウワ」

芦戸の指摘にあからさまに動揺する麗日は、慌てすぎて個性を発動してしまい、両手で顔を覆いながら宙をくるくると浮いてしまった。

「誰ー!?どっち!?誰なのー!?」
「ゲロっちまいな?自白した方が罪軽くなるんだよ」

やはり女子。恋バナは大好物なようで、面白い話題見つけたり!と葉隠と耳郎の詮索が続く。

「違うよ本当に!私そういうの本当…わからんし…」

麗日の姿に、凛はまるで部屋王の時の自分を見てるように感じ、3人を止めようと動いた。

「3人とも、お茶子が可哀想だろ。ここまでにしてあげよう」

しかし、こんな事で一度火がついた女子たちが止まるわけがなかった。
新たな獲物の登場に、見た目は可愛らしいが効果音で言うならギラッとした目を凛に向けたのだ。

「えー。…じゃあ!凛は轟とどうなの!?」
「は!?」
「2人きりの時の会話とか気になるー!」
「ナチュラルにいちゃつくよねえ」
「わかる。轟から自然と凛に触っていくよね。そんで凛も恥ずかしつつも受け入れてるって感じ」
「うう…」

3人の詮索に顔を赤くしてうろたえる凛。
完全に、ミイラ取りがミイラになってしまった。

「無理に詮索するのは良くないわ」
「ええ。それより明日も早いですし、もうお休みしましょう」
「えー!やだ。もっと聞きたいー!何でもない話でも強引に恋愛に結びつけたいー!」

A組女子の良心・蛙吹と八百万によって、粘ろうとした芦戸をいい感じに丸め込み、この話はようやくお開きになった。

女の子はいつだって、恋に勉強に大忙しなのだ。
ヒーロを目指している彼女たちだって、それは同じ。
それぞれの思いを抱いて、また明日の訓練に挑むのだ。

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