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相澤の案内の元、寮内に入った凛たちを待ち受けていたのは、さすが雄英と言うべき豪華な施設だった。
1棟1クラス。右が女子棟、左が男子棟と分かれてる。
一階は共同スペースで、食堂や風呂・洗濯などがある。
「広キレー!そふぁああ!」
「中庭もあんじゃん!」
「豪邸やないかい」
皆のテンションが上がる中、麗日はあまりに圧倒されフラーっと倒れてしまった。
「ここまで広いと、夜まで皆と一緒に反省会とかできるな」
「そうだな」
真面目な凛らしい反応に轟はふっと小さく笑った。
「聞き間違いかな…?風呂・洗濯が共同スペース?夢か?」
「男女別だ。おまえいい加減にしとけよ?」
「はい」
息遣い荒く血走った目をする峰田に、相澤はすぐに釘を刺した。
さすがに、相澤の厳しさは身にしみているようで峰田は間髪入れず返事をした。
部屋は二階からで、1フロアに男女各4部屋の5階建て。
一人一部屋で、エアコン・トイレ・冷蔵庫にクローゼット付きでベランダもある贅沢空間だった。
「我が家のクローゼットと同じくらいの広さですわね…」
「豪邸やないかい」
麗日は今度は八百万の言葉にカルチャーショックを受け、倒れてしまった。
「部屋割りはこちらで決めた通り。各自事前に送ってもらった荷物が部屋に入ってる」
「1人…ぼっち…」
相澤の言った部屋割を見て、凛は膝をついて嘆きたいほど絶望した。
まさかの、2階に1人ぼっちだったからだ。
他の女子たちは、3階以上にそれぞれ2人ずついるのにだ。
奇数だから仕方がないとわかっているが、楽しみにしていた寮生活でこんな仕打ち…3人一緒でもよかったのではと凛は思ったが、それを相澤に言う勇気はなかった。
「凛、俺がたくさん遊びに行くから心配すんな」
「ほんとか…!?」
轟の言葉に凛は、彼ならきっとかなりの頻度で来てくれると確信があったため、ぱぁぁっと効果音がつきそうなくらい一気に顔が晴れやかになった。
轟はそんな彼女をかわいいなと思いながら見つめていた。
「とりあえず今日は部屋作ってろ。明日また今後の動きを説明する。以上。解散!」
「「「ハイ!先生!」」」
―――
「ふぅ…だいたいこんな感じかな」
凛の荷物は女子の平均に比べるとそんなに多くなく、思ったよりも早めに終わった。
彼女の部屋の荷ほどきで大変だったことと言えば、誰にもバレないようにある物を隠さなきゃいけなかったことだ。
この頑張りがこの後すぐに無駄になろうとは彼女はまだ知らない。
ひとまず時間的にまだ部屋の片付けをしている者もいるだろうと思い、凛は部屋を出ようとした。
ブーブー
すると、突然携帯が震えた。誰だろうかと思い開いてみると、相手は轟だった。
電話に出てみると、もし部屋の片付けが終わっていたら手伝ってくれないかという内容だった。
もちろん凛はそのことに二つ返事で了承し、轟の部屋に向かった。
焦凍そんなに荷物持ってきたのかと凛は意外に思いながら、彼の部屋を戸を叩いた。
「焦凍。来たぞ…って何だそれは?!」
そう、そこにあったのは障子戸や畳など所謂和室に関するインテリアだった。
「まさか家から持ってきたのか?」
確かに彼の部屋は和室であったが、家から持ってくるレベルだったのかと凛は驚いたが、彼女の予想と異なり彼は首を振った。
「盆栽とかは家から持ってきた。他はリカバリーガールにな。…フローリングは落ち着かねえ」
ということは、リフォームする意思があるのは同じかと思いつつも、轟らしいと凛は自然と笑みがこぼれた。
こういう天然だが意外と我が強いのも彼の魅力だった。
そんなこんなで始まった轟の部屋のリフォーム作業。
敷居と鴨居を敷いて障子戸をたて、長押を取り付けていった。
畳を敷く前に、天井板などを取り付けてしまおうと借りてきた脚立を使って手分けして作業にあたった。
轟が付け終わり降りると、凛が最後の一枚を取り付けている姿が映った。
彼女が真剣に自分のためにやってくれている姿に轟は若干頬を緩めた。
グラッ
凛は、つけ終わったことに安心しきってしまいいつの間にかバランスが崩れていくことに気がつかなかった。
自身の視界が傾くのを見ながら、受身を取ろうと身構えるが
「大丈夫か?」
衝撃はなく、代わりにポスッと背中から暖かな温もりに包まれた。
耳元で声がして、振り向くとそこには轟がいた。
「怪我はねえか?」
普段こんな耳元で話されることはないため、息が耳にかかり、その低い声が自身の体を震わせる感覚に力が抜けそうになり、慌てて離れた。
「だっ大丈夫だ!ありがとう。助かった!」
しかし、慌てすぎていたため、離れた瞬間脚をもつらせて彼女は再び倒れそうになった。
轟は咄嗟に手を伸ばし彼女の体に回した。
しかし、位置が悪かった。
「!?」
「ひゃあ!」
彼女の体を支えた轟の手がちょうど、彼女の胸の位置だったのだ。
発育の暴力と言われる彼女の胸は轟の手を収まり切らず、手が触れた瞬間すぐにふにゅんと形を変えるほど柔らかかった。
「わっ悪ぃ…!」
「いや…」
轟はぱっと彼女からすぐ手を離した。
しかし、彼の顔は若干赤らんでおり、凛も胸元に手を当てながら頬を赤らめ俯いた。
健全な男子ならば、たとえ恋愛対象ではない女子でも、危うい姿になりそうならばついつい目で追ってしまうものだ。
しかし、轟は今まで父親への復讐という目的のために生きてきたため、女性という存在に今まで興味を示したことがなかった。
クラスの女子を見ても何とも思わないのに、凛に対してはもっと触れたいという願望や、緊張感が溢れ出た。
好きなやつが相手だとこんなに違うんだなと、轟は手に残る感触の余韻に浸っていた。
「てっ天井も終わったし、あとは畳だけだな!早くしないと夜になってしまう!急ごう!」
凛は空気を買えるように、わざとらしく大きな声を出し、ささっと畳が立てかけられてる方へ行ってしまった。
本当はもっと触れたかったが、大切にしたいという思いの方が強かった。
轟はこれから過ごす時間が遥かに増える彼女との寮生活に胸を弾ませながら、彼女の後を追った。
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