10月31日




「噛んでもいい?」

嫌って言っても噛む癖に。
決まって君はそう言いながら、細くて柔らかそうな首筋を俺に差し出す。俺はその首筋に対して、ひとつ生唾を飲み込んだ。

何故なら、君の首筋には、俺の生々しい痕が残っていて、申し訳なさと同時に堪らない背徳感が俺を擽るのだ。

誰も知らない、俺と名前だけの秘密の証拠。

ある日、目覚めたら犬歯が牙のように尖っていたのが始まりだった。
最初は、狼になったのかと思ったがそれはどうやら違ったようだ。
幸いにも、普段から身に付けているマスクのお陰で俺の変化は他人に気付かれなかった。しかし、密かな俺の変化はそれだけでは済まなかったのだ。

それに気付いたのは、同僚の名前と仕事をしている時だった。ふたりきりで作業をしている時に、名前がうっかり指先を傷付けた。みるみるうちに指先は、赤く染まりぱっくりと開いた傷口を見た時に俺は信じられない思考に陥った。

あまりにも血が美味しそうに見えたのだ。花の香りに誘われる虫のように、気付いたら指を手に取り口に咥えていたのだ。
名前も驚いていたし、俺も驚いた。そこで牙も見られてしまい、素直に自分の変化を打ち明けた。

「吸血鬼みたいね」

そう笑った名前。気味悪いと言われると思っていた俺は呆気に取られながら安堵したのを覚えている。
そこから、名前は俺が求めれば血を吸わせてくれるようになった。

「まだ痛む?」
「別に大丈夫。カカシが責任取ってくれるんでしょ?」
「……そうだな」

名前を膝の上に抱き抱え、首筋に口付けを落とす。
ごめんね、ほんの少しだけそう心の中に秘めながら、柔肌に牙を立てる。薄く皮膚にプツリと穴が空いて、ズブズブと尖りが肉を裂くようにめり込んで切先が血管に到達した。
じゅわりと、脈動に合わせて名前の血が滲み出る。俺は、唇をつけて出来るだけ優しく吸い上げた。

鉄の味が舌の上に広がる。アタマの中に、口の中を名前の血で真っ赤に染めていく様が浮かび上がる。

俺が喉を鳴らす度、名前の肌がどんどん熱く粟立つ。それを確認して、名前の服の中に手を忍ばせた。

「あ……」

もうぷっくりと膨れ上がった胸の先端に、俺は指先を引っ掛けた。

まだ解決策を探していた頃に調べた文献に拠ると、吸血鬼に吸われた人間には性的な快楽がもたらされると言う。どうしてこうなるのかは、分からないが、痛みを誤魔化す為の麻酔のようなものなのかもしれない。

漏れなく、名前も初めて吸った時から体に反応が出て、その時から俺が最後まで責任を取った。もともと名前のことは、可愛いと思っていたし、この一件で俺は彼女の魅力に気付いてしまったのだ。気付いたら、ずぶずぶと彼女にハマりこんでしまっている。

こうして味をしめたと言ったのなら、随分下世話だろう。
名前は、胸を弄ぶ俺の手に自らの手を重ね、更に胸を可愛がるように上目遣いでおねだりしてくる。この顔に滅法弱い。既に俺の男の部分も結構な主張を始めている。

「カカシ、熱いの……」
「あと少しだけ」

俺は、人間なのか獣なのか。
獣だとして、蝙蝠なのか狼なのか。
血を吸いながら、血だけでなく名前の体を全て貪ろうとしている。

俺の牙で濡れきった名前の粘膜に、俺は杭を突き立てる。
血を吸い切った俺は、牙で傷つけないように気を付けながら胸にも唇を寄せる。この柔らかな膨らみにも牙を突き立てたらどうなるだろうと想像したことはない訳ではないが、彼女の柔肌が赤く染まるのを想像したら寒気がした。
どうやら、それだけ俺は名前にどっぷりのようだ。

「名前、大丈夫?」

唇にだけ、キスが出来ないのは俺が臆病なせい。キスするならば、やはり名前とちゃんとした関係を約束していたいと思うのは俺の勝手だろう。

本当は、血なんか飲まなくても生きていけるんだよ。こんなこと告白したら、最低と言われてしまうだろう。
この事実がバレるのが先か、俺の気持ちがバレるのが先か。
これは、名前にも教えない俺だけの秘密だ。

いまのところはね。






10月31日 end.

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