お母さんの優しさ
翌朝、名前が起きたのを感じて、もたれていた柱から体を浮かした。襖が開いて、寝起きの名前が姿を現した。
「おはようございます」
「おはようございます……」
眠そうに目を半分だけ開けた眠そうな名前を見て可愛いなと思ったよ。お前の寝起きの顔は、母さんそっくりでとても可愛いよ。
ってなーに、恥ずかしがってんの。
「朝食の用意が出来ていますから、支度が終わりましたら言って下さい」
「ありがとうございます」
名前の食事は、まず俺が毒味をしてからだった。念の為、宿の食事も全て俺を通してから出すようにしてたんだよ。
顔を見せないように確認をしてから、俺は名前に食事を出した。目の前に並べられた料理を眺めてから、
「毒味してくれるのは有り難いんですけど、本当に毒が入ってたらどうなっちゃうんですか」
「体が痺れたり、幻覚を見たりはするかもしれませんね」
「死んじゃったらどうするんですか?」
「ま、その時はその時です。それよりも貴女を守る為には必要不可欠です」
名前は、納得行かないという顔をしながら食事を口に運んでいた。
お前も忍だから、俺の気持ちが分かるでしょう。
「でも、俺は鼻が利きますし、食べる前に気付きますから安心して下さい」
「絶対気付いて下さいね!」
「はい」
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ご両親の入院中、名前がひとりで宿にいる時は俺も傍にいて欲しいと希望を言われていた。
そして、その日も一緒の部屋に降りて過ごしていた。
名前は、本を読んでいたのだけれど突然俺の方を見て本を閉じた。俺はどうかしましたかと声を掛けると、もじもじと指先を絡めながら口を開いた。
「あの……ずっとお聞きしたかったんですが、忍さん、ですよね?」
「……?」
「えっと、昔、その、私のこと覚えてますか?」
この時の俺は、暗部とは思えないほどに動揺していた気がするよ。結婚してから、名前はこの時の俺をよくからかって来るからね。あんなに慌てる忍は初めて見たって。
「覚えてくれていたんですね、名前様」
「あなたも、忘れることはないと仰ってたでしょう?」
「……そうでしたね」
すごく嬉しかった。
向こうは、俺の顔も名前も知らなかったし、何より昔と違って体も声も大人になっていたからね。分かるわけないと思っていた。
「また会えるなんて嬉しいです。木ノ葉に行くと決まって、再び貴方に会えないかな、と少し期待していましたから」
そんなこと言われて期待するななんて無理だろ?男はすぐに勘違いする生き物だから。だけど、そこはさ、ぐっと堪えたよ。なんたって、俺の素顔も素性も何も名前は知らなかったんだから。
この時だけは、何で暗部は面で隠さなきゃいけないんだろうと思ったよ。
「それは、光栄です」
「堅苦しくしなくて良いんです。あの時、私達はお友達なりましたもの」
「それもそうですね」
名前が笑ってくれて、俺も笑顔になった。この時、何年ぶりかに自然に笑えたよ。俺でも、まだ笑うことが出来るんだと教えてくれた。
「今日も病院に行ってもいいですか?」
「はい、もちろん。名前さんの行きたい場所に行きましょう」
「ありがとう、忍さん」
とは言え、一般人の名前の隣に暗部の男がくっついてるのは怪しいからね。俺は陰で護衛を続けた。
護衛中みる名前は、昔と変わらずいい子だと思ったよ。母さんはね、昔から優しいんだ。
里の中にいることもあって、特に怪しい影もなく平和な日々が続いていた。俺達の近からず遠からずの距離は変わらないままだった。
そうこうしているうちに、名前の誕生日を迎えようとしていた。
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