初恋は叶わない


「好きです」

目の前の想い人は、私の顔を見て気不味そうに目をそらした。
期待半分不安半分だった私の心は、いとも簡単にガラガラと音を立てて崩れた。あーぁ、振られちゃった。

「名前、ごめん」
「そ、そうだよね」
「これからも、先輩と後輩として宜しくな」

下手くそな笑顔でしか返す事が出来なくて、私はなんて不器用な女なのだろうと情けなくなった。
じゃあ、またね。きっとまた待機所で会うだろう彼を見送って、私は情けないほど泣いた。家に帰って、シャワーで涙を流しても涙は止まらない。枕を濡らしながら、私は寝よう寝ようと頭を冷やそうと頑張った。

だって、彼は私の初恋の人だったから。

上忍で優しくて、かっこよくて。恋をしたことのない私は、彼の当たり前の優しさを特別なものだと勘違いしてしまった。後輩を思う優しさで、私と食事をしてくれていただけなのに勘違いしてしまった。もう情けない。かっこ悪すぎる。

初恋は叶わないものだよ、なんて聞くけれど本当だ。私は違うって思っていたなんて、とんだ思い上がりだった。

「はぁ……」

やっと涙が枯れた。カーテンの隙間が少し明るくなっていて、気付けば朝になってしまったんだと思った。窓から外を見れば、まだ人もおらず私は気分をリフレッシュしたくて外に出ようと思った。
鏡を見れば、目が少し腫れていた。まぁ、誰にも会わないから良いだろう。冷たい水でパシャパシャと顔を洗うと、普段着で外に出た。

やっぱり朝は気持ちいい。昨夜まであんなに泣いていたのに、朝日のスッとした柔らかい空気は、私の泣きたい気持ちも包み込んでくれるみたいだ。あぁ、有り難いなぁ。背筋を伸ばそうと立ち止まると、頭に大きな掌が乗せられた。

「おはよう」
「わ!」

カカシ先輩だった。里の上忍や暗部だったら知らない人はいない有名な忍。火影様にも信頼されて、私にとっては殿上人で、同じ階級に自分が属しているのが不思議に思う。
カカシ先輩は、私の腫れた目を見てニコッと笑った。

「どうした?名前が泣いてるなんて珍しいじゃない」
「私だって泣きますよ……女の子ですもん」
「そうだった。ゴメンゴメン」

いつもならきっとこんな軽い反抗もしない。でも、今の私は失恋したばかりで人に優しくするなんて余裕はない。むしろ、この悲しみを吐き出したいくらいだ。あぁ、なんて私は器がちっちゃいんだろう。

「カカシ先輩は、朝早いですね。任務ですか?」
「いーや、俺はいつもこんな感じだよ?」
「え、遅刻魔なのに早起きなんですか!?」
「う……うん」

この人は不思議だ。すっごい人なのに、全然それを鼻に掛けることもなく、俺なんてって態度をする。去年まで暗部の端くれをしていたが、強者揃いの暗部の忍達はみんなカカシ先輩のことは特別視していた。ある日、火影様にお前は暗部には向かないから上忍昇格を機に暗部を辞めさせられた。正規に戻って後輩指導に当たってくれって言われたけど、若いのに上忍になった私は指導出来るほどでもない。それに比べたら、カカシ先輩は12歳で上忍になって、ずっと里を背負ってきたんだもんな。やっぱりすごい。逆に凄すぎて悪態ついても許されるような気がしちゃう。本当に器が違うんだと思い知らされる。

「ま、折角だから散歩でもするか」
「あ、はい……」

正直、一人でいたい気分だったけど、カカシ先輩なら良いような気がした。川沿いを歩き、途中でカカシ先輩が自販機でジュースを買ってくれた。堤防に腰を並んで下ろした。

「で、何で泣いてたの?」
「……」
「言いたくないなら良いけど、言いたそうだったからさ」

そう、言いたくない。けど、カカシ先輩なら言っても良いかと思った。優しいから、大変だったねって励ましてくれるだろう。今の私には、大好きだった先輩の笑顔よりも誰かの優しい共感が必要な気がしたんだ。

「私、昨日、フラレたんですよ」
「名前を?その男は馬鹿だねー」

やっぱりカカシ先輩は優しい。買ってもらったジュースを一口飲んで、空を見上げた。振られた時は、あんなに真っ暗だった空が今は半分明るくなっている。あぁ、こうやって時間が流れて傷が癒えるのかもしれない。でも、今の私にはこの傷は一生癒えない気がした。

「だから、昨晩ずっと泣いてたんです」
「そう……」
「先輩は振られたことないんですか?」
「うーん……」

口布で隠れても綺麗な細い顎に指を沿え、うーんと考え込んだ。思考を巡らせている時でさえ、この絵になる姿、振られた事なんてないんだろう。だって、本当にかっこいいんだもん。あの先輩じゃなくて、カカシ先輩を好きだったらもう少し変わっていただろう。カカシ先輩レベルなら、きっと振られても当たり前だって受け入れられた気がする。

「うーん、告白する前に振られちゃったかな」
「えぇ!先輩が?」
「うん」
「その女の子は贅沢ですね」
「ほんと、そうかもね」

でもね、とカカシ先輩は続ける。

「その子は、好きな男に振られたばかりだから」
「そうなんですか!?チャンスですよ!それ!」
「そうだな。でも、俺には傷心中の女の子につけ入る趣味はなーいよ。本当に好きだからね。その子が、しっかり自分の足で立ち直ってから、正々堂々と行く事にするよ」
「やっぱり……カカシ先輩ってカッコイイですね」

やっぱり私とは器が違う。きっと、あの先輩が傷心中だったら、私ならつけ入ろうとしてしまう。

「じゃあ、その子とうまく行きそうになったら教えて下さいね」
「そう言うこと言うと叶わないでしょ」
「確かにそうですね」

さて、そろそろ解散するか。と、立ち上がり私の手を握って、立ち上がらせてくれた。

「今日は任務?」
「非番なんです」
「じゃあ、送るよ。ゆっくり寝な」

マンションの前まで送ってくれて、カカシ先輩がその大きな掌で頭を撫でてくれた。何だか安心して、私の頬は綻んだ。

「やっと笑ってくれたな。名前には笑顔が似合うよ」
「ありがとうございます」
「ま、泣き顔だって見せてくれてもいいからな」
「カカシ先輩……」
「名前が元気になるの、待ってるから」

カカシ先輩のその一言で、私はあぁ立ち直らなきゃと思えた。この人の言葉は妙に説得力がある。
カカシ先輩は、最後まで口をつけていなかった自分の分のジュースをくれて、朝日が差し込む木ノ葉の里の中へ消えて行った。

とりあえず、寝よう。カカシ先輩の言う通りに。

任務で恩返しが出来るように、私は少しずつでも良いから元気になっていかなきゃ。カカシ先輩がくれたジュースは、先輩の体温で温くなっていた。飲んだ時にあんまりにも温かくて思わず笑ってしまった。そうだよね、カカシ先輩、ずっと握り締めてたんだもん。

テレビをつけると朝の番組がやっていて、今日は日差しが差し込み暖かい1日になるでしょう。お出かけ日和ですね。と中の人が教えてくれた。

でも、今日はカカシ先輩の言う事をきくって決めたから私はテレビを消してベッドに寝転んだ。

「おやすみなさい」

あんなに眠れなかったのに不思議と眠気が襲ってきて、すぐに瞼が重くなった。カカシ先輩に感謝だなぁ。

私は、布団を鼻まで思いっきり被るとカカシ先輩の優しい掌を思い出しながら眠りについた。






初恋は叶わない end.

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