人形姫・13


アカデミーでの引き継ぎを終えて、名前は執務室で働くこととなった。

「名前、休暇は楽しんできたか?」
「えぇ、とっても楽しかったです!綱手様にもお土産があるんですよ」

名前が渡したのは、その温泉街の源泉を使った酒だった。なかなか有名らしく、名前が悩む横でこのお酒はどんどん売れていく。重くなるため、買うのを渋ったがカカシが買っていいよと言ってくれた為、綱手の為に買ってきたのだ。

「おぉ、センスがあるな!今度、ゆっくり飲ませて貰うよ」

酒瓶に頬ずりをして、綱手は大切そうに酒を机にしまった。

「それで、私は何をすれば良いですか?」
「可愛い笑顔で座ってれば良し」
「は、はぁ」
「冗談だよ。基本はシズネの補佐だから、シズネの指示に従ってくれ。名前は事務作業が上手だと聞いたから、そこを頼むよ」
「頑張ります!」
「宜しく頼む。シズネは今、病院に行ってるからこれを処理してくれ」

名前は、与えられた机で綱手が判を押した書類を整理していく。アカデミーよりも、数も処理の難しさも段違いだったが、その分やりがいもあった。自分がやっていることが、里の役に立っている。そう感じられることは、幸いなことだと思った。

ふと、前の世界のことを思い出す。

この世界の人は、愛国心と言うものがとても強い、正しく言えば愛里心か。何よりも里の為に命を投げ出しても良いと、皆が口を揃えて言う。前の世界では、国の為に命を掛けられるかと言われたら良いという人間は果たして何人居るのだろうか。戦時中とかそう言う時代はあったとしても。

そもそも、そんなのを意識して生きてきたこともない。舞妓をしていたのも、国の為とか伝統を守る為とかそんなんじゃない。あの時の名前には、あれしか生きる道はなかったのだ。
今は、命を差し出すとまでは行かないが、木ノ葉の為に自分に出来ることはないだろうかと思っている。どうしてそう思うのかは分からないが。

「綱手様」
「なんだ?」
「どうして、この里の人達って里の為に頑張れるんでしょうか」

綱手は、椅子をグルリとまわし窓から里を眺めた。

「そんなの当たり前で考えたこともなかったな……」

文字通り、生きてきた世界が違うと感じる。それが当たり前なのだ。

「でも、確かに言えるのは、愛する人、大切な仲間がこの里に居るからだろうな」

それはすごくシンプルなことで、それ故気付き難いことだった。

「カカシだってそうさ、愛する名前のために頑張ってる」

さて、納得したみたいだな。と綱手は笑って仕事に戻る。雑談をしてしまったと名前も仕事に取り掛かった。





自来也に呼び出され、カカシは里のこじんまりとした居酒屋に来ていた。目の前の自来也は、もう酒瓶を何本も空けて首まで真っ赤にしている。はて、忍の三禁とは何だったろうか。綱手もそうだが、三忍と言うのは三禁を破るルールでもあるのだろうか。その観点から見ると、大蛇丸の方がよっぽとルールを守っている。ま、それ以上の禁忌をおかしているのだけど。

「自来也様、お話とはなんでしょうか」
「前も言ったが、ナルトを暫く預かる」
「一体、どれくらい?」
「3年だな」
「そりゃ、長いですね」
「旅が終われば、カカシ、お前に返す」

自来也が詳しく話さなかったのは、カカシが理解しているとわかっていたからだろう。暁が人柱力を狙っているのは確かで、実際にイタチと鬼鮫が接触もしてきた。常に自来也が隣にいれば、暁の者達も簡単に手出しはできない。
里の為、ナルトの為を思えばそれが最善であることは間違いない。

「正直、名前ちゃんのことも心配だが……そっちはカカシに任せる」
「もちろんです。綱手様も協力してくれています」
「そうか、綱手がついとるなら安心だ」

自来也は、おちょこをくいっと引っ掛けると遠い昔のことを思い出したかのように、そうそうと続けた。

「昔、時空間忍術の使い手がおってのぉ。優秀でお前の様に里の誉れと呼ばれていた。そいつは、異空間に行く術を見つけたと言って一度行ってしまったことがある。
数日して帰って来て、そいつは酷く興奮しておったよ。鉄の塊が車輪を付けて走り、空には大きな鳥が飛んでおった。戦争もなく、文明は発達し大きな建物が数多そびえていたと。
そして、とても美しい女性に出会ってしまったと……。それから、半年してそいつは再び異空間に飛んだ。また数日して帰ってくるかと思ったが、それから二度と里に戻って来ることはなかった」
「それは、術を失敗したのでしょうか」
「わからん。失敗して死んでしまったかもしれん。向こうで殺されたかもしれん。はたまた、向こうで生きているかもしれんしな。ハッキリした事が分からん上、非常に高度な技術が必要なこの術は禁術となって封印された。今は、火影邸のどっかで眠っとるだろう。とにかく不思議なのは、そいつと名前ちゃんはどこか良く似ておる。見目麗しいとは言える男ではなかったが、何かが似ておる。世の中は不思議なことが多いのぉ」

話はそこで終わり、自来也はそんな事よりも……と、名前のことを色々と聞いてきた。

「名前ちゃんの母親は、やっぱり美人なのかのぉ」
「それはそれは美しい人だそうですよ。名前は母親似だそうですから」
「ほぉ」
「まさか、狙ってるんですか?」
「ば、馬鹿言え!そんなに女に飢えとらんわ!」
「…………」

とは言いながら、参考にと言うが、スリーサイズを聞いてどうするつもりなのだろうか。正直、ルックスから想像出来ない程にスタイルは良い。
だが、そんなのを自来也に漏らす気はなかった。流石に孫弟子の女には手を出す気はなさそうだが、警戒心が拭えない。

瓶が空になったところで自来也が立ち上がる。カカシもそれに合わせて立ち上がった。

店を出て会話は特になかったが、居心地は不思議と悪くない。それだけで、自来也の器の大きさを物語るのに十分だった。里の中心部に近付いたところで、自来也が振り返った。

「カカシの小僧、里を宜しく頼むぞ」
「はい、俺じゃまだまだですが……あなたのように頑張ります」
「そんな事はない、わしよりも火影の器をもっとる。3年後、帰ってきたら名前ちゃんとデートさせろよ」
「は、はぁ……」

自来也がニカッと笑い、煙と共に姿を消した。

カカシは、家に帰り玄関を開ける。
お風呂上がりの名前が走って来た。笑顔で駆け寄ってくる様子は、まるで犬みたいだなとカカシは笑みを漏らす。いくら自来也様と言えども、名前を他の男とデートさせる訳にはいかないなと思った。この可愛い笑顔は自分だけのものだから。

「カカシ、おかえりなさい!」
「ただいま」
「あれ、お酒飲んできたのね」
「うん、誘われてね」

シャンプーに混ざった名前の香りが、カカシの鼻を擽った。抱き寄せれば、香りが一層増す。すっぽりと腕の中に収まる名前をカカシは見下ろす。

「名前、執務室はどうだった?」
「綱手様もシズネさんも優しいから、とっても楽しかったよ」
「なら良かった。綱手様は俺達には厳しいのに、名前には優しいね」
「私は忍じゃないもの、多目に見てくれてるの。あ、お酒喜んで貰えたよ」
「そう、頑張って選んだ甲斐があったね」

また明日から頑張るね!と言って、名前はカカシの口布を下げて唇にキスをしようとした。
が、身長差のせいで顎にも届く事なく叶わなかった。

「あら、残念……」
「わかってたなら、しゃがんでよう……」

頑張って背伸びをする名前が可愛くて、思わず意地悪してしまったなんて言える訳もなく。小さくクツクツと笑うカカシを見て、名前は頬を膨らましたまま逃げていってしまった。
カカシはサンダルを慌ただしく脱いで、名前を追いかける。

「ねぇ、名前待ってよ」
「カカシが意地悪じゃなくなったらね」
「ごめん」

逃げる名前を捕まえて、カカシは顔中にキスの雨を降らす。こうすると名前は、意のままだ。愛しくて愛しくて、どこにキスをしても足りない。

「カカシってキス魔だね」
「名前だからだよ」
「私もキス魔になろうかな」
「そりゃ大歓迎」


ー41ー

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